第15話 冒険者登録とギルドマスター

「では、この用紙を記入してください。あっ、文字書けますか?」


「うん、大丈夫」


俺は今冒険者登録の為の書類を書くところだ。


「あっ、カウンターに届かないよね。私も使ってる踏み台持ってくるねっ!」


唐突のカミングアウト、カウンターからギリギリ顔が出てるぐらいだから実際はもっと小さかったのか。うん、親近感を感じるね。


「それも大丈夫だよ」


「え?」


「風魔法──『天つ風アマツカゼ』」


俺の身体は風に包まれフワリと持ち上がる。


「す、すごい。 風魔法の中でも難しい飛行魔法がつかえるの……?」


「うん、沢山練習したからね!」


「そ、そういう問題なのかな……?」


「うんうん、すごいよ君」


いつの間にか俺の横にはギルドマスターがきていてニコニコしながら頷いていた。


「…………」


「また、いつの間に! って顔してるね?フフッ」


「もう! マスター邪魔しないでください! この子……えっと僕、お名前何かな?」


「ん?俺はアレン! SS級冒険者になる男だ!!」


ギルドマスターが先程凍らせた空気以上に静かな空間が訪れた。


「フフッやっぱり君面白いね。それが何を意味しているかを理解して言ってるのかな?」


「そのまんまの意味だよ。ぜんぶ倒して俺はそこに行く、勿論アンタもね」


「アレン君……君が面白いこと言うから、みんな笑いたくても笑えなくて必死だよ」


俺は辺りを見渡す……さっき暴れたお陰で、周りにいる冒険者達は笑ったら吹き飛ばされるとでも思っているんだろう。

うん、その通りだ。

そうこうしている間に書類を確認し終えた

シエラが……


「はい! 書類はこれで以上だよ。名前はアレン、年齢は5歳。間違いないかな?」


「うん、大丈夫だよ」


「はい、次はギルドカードの登録だよっ!

このカードに魔力を流してね」


隣にいるニヤニヤしているギルドマスターを無視し、凍った空気を無視して、淡々と作業しているシエラは天然さんなのだろうか。


「これがギルドカード……ほいっ」


魔力を流し終え、シエラにカードを手渡した。そして少しいじった後、またカードが返ってきた。


「これで登録は終わりだよ。そのカードは身分証にもなるから大事に保管してね。再発行には10000エルかかるから気を付けてね」


大体100エルでさっきの美味しそうな串焼きが買えるくらいのお金だ。だから10000エルはちょっと高いね。俺は貴族だけど、庶民の気持ちは分かっているのだ。


「わかった、ありがと!」


「アレン君は登録したてで、G級なの。G級ではまだ依頼は受けることが出来なくて。F級の進級には昇格試験を受けないといけないんだけど、どうする?」


「うん、受けたい! 出来れば早めが良いな」


「はーい! じゃあー明日の正午から! 

アレン君以外の新人冒険者の方達も受ける予定なんだけど、大丈夫そう?」


「明日の正午……うん、大丈夫だよ」


「はい、わかりました! 担当の試験官はC級の冒険者なので胸を借りるつもりで頑張ってね。無理しちゃだめだよ?」


さっき散々暴れた俺を未だただの小さい子供だと思ってる辺り、シエラの天然加減がすごいと分かる。

そして、今まで空気のようだったギルドマスターが突如話だした。


「うーん、試験官のことなんだけど。僕がやるよ」


「えっ?マスターがですか?」


「うん、面白そうだしね。特に……」


そうやって俺の方に視線を向けている。


「うーん、分かりましたっ! 試験官の冒険者の方にそう伝えておきます」


「ありがとう。依頼は達成扱いで良いからね。うんうん、シエラ君も大分仕事が出来るようになったねー。完璧だよ」


「あ、ありがとうございます!」


「それじゃあアレン君とはまた明日会おうねー」


そう言い残した後、視界から忽然と消えた。


「はぁ……」


「アレン君も大変だね。マスターに目をつけられちゃって。あっそうだっ!」


「へ?」


「ねーねーアレン君!」


突如詰め寄られて身体がビクッとする。


「は、はい!」


「私のことシエラお姉ちゃんって呼んで? 私昔から弟が欲しかったの!」


「へっ?」


「あっシエラだけずるいわ! 私も呼んで欲しい! 私はイリーナお姉ちゃんよ」


歳は20代前半くらいだろうか?金髪のポニーテールの受付嬢が駆け寄ってきた。

恐らくこの人も話を聞かないタイプの人間だ。言わなければこのまま拘束され続けるだろう。


「……シエラお姉ちゃん、イリーナお姉ちゃんさっきは助けてくれてありがと」


「「きゃあーー!! かわいい!!」」


「あっわたしも!」


「あ、あちきもー」


「アタイもー!」


「ウチも!!」


「お、おでも。ぐへぐへぐへへ」


最初の二人をはじめ他の受付嬢たちが集まってきた。

っておい、最後のやつはおかしいだろ!!!


暫くして俺は今後、受付嬢の全員をお姉ちゃんと呼ぶことを条件に解放されたのだった。

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