第14話 新人受付嬢シエラ

ギルドの中に入り、辺りを見渡した。

中は広く、受付に並び依頼を受注する者や、達成の報告をする者、ギルド内に常設している酒場で飲食をする者など様々な人がいた。


「まずは、受付に行かないと……おっあそこが空いてるな」


俺は空いている受付に向かう。そこに居いたのは他の受付嬢に比べ背が低く、年齢は10代前半っぽい茶髪ボブの女の子だ。受付のカウンターが俺より高いので目の前にいても気づかれていないようだ。


「すみませーん」


「ひゃっ!? ど、どこから……?」


「ここだよー」


「えっ」


小さな受付嬢は身を乗り出しこちらを覗き込んだ。


「こんにちは、おねーさん」


「こ、子供……。どうしたのかな僕?おつかいかな?」


「違うよ、冒険者になりに来たんだ」


そう言葉を放った瞬間辺りは静まり返り、暫くして爆笑に包まれた。


「「「ワハハハハハハハ!!」」」


「オイオイ! 此処は坊ちゃんみたいなガキの来るところじゃねーんだよ! 家に帰ってママのオッパイでも吸ってな! クククッ」


「たまにいるんだよなーお前みたいなガキがよ! みーんな泣いて帰っていったけどな!! ワハハッ」


酔っ払った冒険者の集団が口々に罵声を浴びせてきた。他の人達も言わないだけで同じ事を思っているようだ。

フッ俺ももう5歳児、大人だ。

これくらいの事は水に流せる懐の深さを持ち合わせている。だが、冒険者は舐められたら終わりだとモーリスに習ったばかりだ。

これは俺の意思ではない、不可抗力なのだ。

だから、お前ら全員徹底的に叩き潰してやる!!


「や、やめてくださいっ。この子が可哀想じゃないですかっ!」


「おーおー優しいねぇーシエラちゃんはよ。だが、此処はガキが来る場所じゃないんだ。引っ込んでろよ!!」


「ひっ!」


受付の女の子が庇ってくれたが、逆に怒鳴られて震えてしまっている。


「ほら、シエラ。これはあの人達が正しいんだから可哀想かもだけど、この子の為にもね」


彼女は他の受付嬢が駆け寄ってきて宥められている。


「ありがとね、おねーさん。でも大丈夫! が何言っても俺は気にしないから」


俺は雑魚の部分を強調して言い放つ。


「昼間から酒飲んでるくらいだから大した冒険者じゃないと思うし」


「あんだとコラッ!? 黙って聞いてりゃこのクソガキが!」


俺を特に揶揄からかっていた冒険者5人が立ち上がり、こちらに向かってくる。


「こっちが優しくしてやってるうちに泣いて帰ってれば許してやったのによ。冒険者は自己責任なんだぜ?誰も助けてくれない。

ガキ、半殺しにしてやろうか?」

 

「オイオイ、泣いちまうぜこのガキ! クククッ」


「ちょっとあんた達! 手を出すのは認めないわよ!」


「オイオイ、イリーナちゃんも俺たちが正しいって言ってくれたじゃねーか。クククッ」


「だからってこんな小さな子に……認められないわ!」


「うるせーな。このガキは冒険者になるっつってんだから、ギルドは冒険者同士のいざこざには不干渉のはずだろ?」


「久しぶりに、ガキのボコボコに腫れた顔が見たいんだよ。クククッ」


「い、いけません! この子はまだ……」


「もう良いよ、おねーさん」


勝手に俺抜きで話が進んでたので強引に割り込む。


「コイツらぶっ飛ばしたら済む話だし」


「オイオイ、ガキが俺たちをどうやってぶっ飛ばすんだ?クククッ」


「お前言い過ぎだろ。気持ち悪いよ」


「なんだとガキがっ!!」


ブチギレたオイオイとその他が襲いかかってきた。俺はすぐ様、魔力を解放して魔法を発動する。この2年俺は死に物狂いで修行したんだ。見せてやるよ、俺のもう一つの属性魔法!!


「風魔法──『風之神払いカゼノカミバライ』」


腕に暴風が巻き付き、俺はその腕を大きく横なぎに振るう。指向性を持たせた風は襲いかかってきた冒険者達を吹き飛ばし、ギルドの壁を突き抜け外に飛び出させた。


「て、テメェ!! 何しやがった!?」


オイオイだけを残し他の冒険者達は既にギルドの外で伸びている。


はどうしたの?ちゃんとつけなきゃだめでしょ」


両腕に暴風を纏いながら一歩踏み出す。


「ひぃっ! く、くるな!」


「冒険者は舐めらたら終わりだって言われたばっかなんだよね。だから一番ムカつくお前には地獄を見てもらうよ」


「ちょ、ちょっと辛かっただけだろ! ホントは半殺しにするつもりなんかなかったんだ!! ちょっとボコって終わらすつもりだったんだよ!」


「お前の事情なんか知らないよ。これは俺の為にやる事だから」


「な、なんで俺だけなんだ! 他の奴らもお前を笑ってただろ! アイツにそっちのヤツらもだ!」


そう言って指を刺された方を向くと、そこに居た冒険者達は後退りをした。

それを一瞥し俺はすぐに向き直す。


「だからお前の事情なんか知った事じゃないいんだって…………黙って享受しろよ」


いい加減イライラしていた俺は殺気を孕んだ威圧をぶつける。


「が、がっ……」


オイオイは言葉も出ず、腰が抜けたのか床にへたり込んだ。これでようやく大人しくなった。


「風魔法──」


「そこまでだよ」


背後からの声に急いで飛び退く。

後を取られた?油断も隙も無かった筈だ。


「やってくれたね、君。こんなに僕のギルドを壊してくれちゃって」


「僕?」


「そう! ここは僕のギルド。僕の名前はリオン、ギルドマスターなんだ。ついさっきまで面白そうだから見守ってたんだ……けど、その魔法はちょっと被害が大きいかな?」


この白髪の優男、発動前の魔法を魔力の予兆を読み取ってどんなモノなのかを予測した?そんな事があり得るのか……?俺の魔力制御は完璧だった筈、分かるわけが……


「うんうん、良い魔力制御だったよ。

普通は読み取ることなんて不可能だけど……上には上がいるって事を知った方がいい」


目の前の細身の男から放たれていると思えない魔力の奔流が襲いかかって来た。


「くっ……はぁ!!」


こちらも負けずに魔力をぶつける。


「フフッ君良いね。よしっ、おーいシエラ君」


「は、はひぃ!」


「この子の冒険者登録宜しく。それとギルドの修理代はそこで伸びてる奴らにつけといてね」


吹き飛ばしたはずの冒険者達が泡を吹いて倒れているオイオイの上に積み上がっていた。

コイツめちゃくちゃ強い。父様レベル……

いや、恐らくそれ以上だ。こんなに強い奴がいるなんて…………ハハハハッ!!

そう来なくっちゃね、さっきからワクワクが止まらない。


「フフッ君この状況で笑ってるってイカれてるね。むしろイカしてるかな?なんちゃって」


周りはこの男の寒い言葉に凍ってしまっている。だが、俺のこの昂りは止まることなく膨れ上がっている。


「まぁ、落ち着けよ。君は今すぐりたいみたいだけど……まずは」


「ギルドマスター! 登録の準備出来ました!」


奥に行っていたシエラが小走りで戻ってきた。


「登録してからだよ、さぁ」

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