第13話 ムキムキ商人

屋敷の敷地から出た俺は、領内に置かれた冒険者ギルド支部を訪れるため歩いていた。


「まったく、外出しようとするだけで一苦労だな」


ため息を吐きながらも、気持ちは昂っている。外出は初めてではないが、一人は初めてなのだ。行き交う人々、大きな建物の数々。

それが全て新鮮に感じて、ソワソワしてしまうのもおかしな事ではない。


「おっ! あれ美味そうだなー」


肉の串を焼いている屋台から良い匂いが漂っている。


「うーん。今日は冒険者登録だけして帰る予定だったけど、ちょっと観光してこうかなー」


エレナ達にはすぐに帰ると言ってあるが、ちょっとくらいなら問題ないはずだ。


「そうと決まれば、さっさとギルドに行って登録だけ済ませてこようっと」


俺は小走りで人混みの間を駆け抜ける。

しばらく走ったところで、目の前の建物に視界が埋まった。今まで見た中でも1、2を争うぐらいの大きさだ。


「おぉーー」


思わず、感嘆の声を漏らしてしまうほどの素晴らしさだ。建物の天辺にある、二つの大きな剣が交差している装飾がなんともカッコいい。


「ん? 坊主、ギルドを見るのは初めてなのか?」


口を開けて見上げていた俺にガタイの良いおっさんが話しかけてきた。


「うん! これ、凄いかっこいいな!!」


「分かるぜ、俺も初めて見た時は驚いたもんだ。なんたって、この国にある冒険者ギルドの中で王都にある本部の次にデカイからな」


「へーそうなんだ。おっさん王都に行ったことあるの?もしかして、冒険者?」


「いや、俺は商人さ。よく間違われるがな。ガハハッ」


まぁ、おっさん無駄にごついしね。


「それはそうと、坊主はギルドに用事があるのか?」


「まぁね」


「そうか、依頼かなんかか?ギルドには荒くれ者も多い、坊主一人だと絡まれるかもしれん。よければ俺がついていこうか?

っと坊主、名前は?」


「俺はアレン。俺の用事は依頼じゃないよ。

それと、ついて来なくても大丈夫! 俺は強いからね。心配してくれてありがと」


「ガハハッそうかそうか。余計な事言っちまったか、すまなかった。ふむ、依頼じゃないって事は冒険者登録をしに来たのか?坊主何歳だ?」


「俺はぴちぴちの5歳児だよ」


「ガハハッやっぱり見たまんまの年齢だったか。冒険者に年齢は関係ねぇと言われているが……まぁ細けぇ事は良いか。おっと、俺の自己紹介がまだだったな。俺はモーリス、流れの商人をやってんだ。もうこの街を出る予定だったんだが、こんな面白いヤツに出会えて嬉しいぜ。不思議とアレンの坊主とはまた何処かで会える気がするな」


「うん、俺もモーリスと会えて良かった。色々教えてもらったし、それと俺は坊主じゃないよ」


「ガハハッ、お前の名前が俺の耳に届くぐらいになったら改めてアレンと呼ばせてもらうぜ」


「フンッすぐに呼ぶことになるよ」


「あぁ、期待してるぜ。よしっ、未来の有名冒険者様に一つアドバイスしてやろう。

いいか?冒険者は舐められたらしまいだ。

向かってくる奴全員叩きのめせ。冒険者は基本自己責任だ。同情や助けなんか求めちゃいけねぇ。

それが出来なきゃ家に帰りな、坊主」


モーリスから、得も言われぬ威圧を感じる。

けど……そんな事、冒険者になるって決めた時に覚悟している。


「大丈夫、俺の前に誰も立たせる気はないよ。なんたって俺はSS級冒険者になる男だから!」


俺は威圧を跳ね返すようにモーリスを睨みつけた。


「ガハハハハハッ!! お前は大物になるぜ! 俺の商人の勘がそう訴えてきやがる。じゃあ……期待してるぜ。またな坊主」


モーリスは踵を返し立ち去っていった。

俺が瞬きをして目を開けた瞬間には既にその姿が消えていた。


「変なおっさんだったなー。さっさと有名になってモーリスを驚かさなきゃいけないな。よしっ、中に入るか」


そうして俺は大きな両扉が開かれているギルドの入り口に足を踏み入れた。

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