第4話 新たな家族と決意
「はぁ」
執務室から出た瞬間、思わずため息が出てしまう。母様の部屋に向かわなければいけないのだが、足取りが重たい。『身体強化』でもすればこの足取りは軽くなるのか?そんなバカなことを考えてしまうほどに動揺しているのだ。
そんなこんなで、とうとう部屋の前に着いてしまった。
よしっ! 俺は覚悟を決めて、扉をノックする。
「アレンです!」
「入ってちょうだい」
声を聞いて思わずビクッとしたが、声からは怒りを感じない。案外怒ってないのかもしれない。まぁたかが壺だしね。うんうん、そうだよ。壺ごときじゃ、優しい母様が怒るわけがない! よし、気持ちは切り替わった。
今なら行ける!!
「失礼します!」
扉を開けて、目に飛び込んできたのは……
「赤?」
いや、正しくは赤い髪の女の子だ。
母様の隣でこちらを睨みつけている。
いや、誰だよ。
「アレン、紹介するわ。あなたのお姉ちゃんよ」
「はい?」
えっどういうこと?もしかして父様の隠し子だったりする?だからさっき俺が母様に叱られる事を想像していた時、一緒に震えていたのか。いや……違うかアレは多分別件だ。
なにより父様は母様一筋だからなぁ。
うん、隠し子はあり得ない。
「この子はアリアよ、私の友人の子なんだけどね。事情があってウチで引き取ったのよ。これから仲良くしてあげてね。
ほら、アリア」
「はい……ふんっ」
アリアは母様にはちゃんと返事して、俺を見るとそっぽを向く。
ほほぉーなかなかに良い性格をしているね。
まぁでも……アリアの目元に泣き腫らした跡があるって事は……引き取った理由が良い事じゃないのは確かだ。ならば俺が弟として、新たな家族として仲良くしなければ……。
「よろしくね! アリア」
「……」
うーん、これは仲良くなるまでに時間かかりそうだ。
「ごめんなさいね、アレン。まだ気持ちの整理がついていないのかも。今回は顔合わせだけのつもりだったから、アレンはもう行って良いわよ」
お?壺の話は無しですか?つい喜び飛び跳ねたい気持ちを押し殺して、部屋を後にしようとする。
「では母様、失礼します」
「えぇ、ありがとう。壺の話はまた今度ゆっくりね」
「はい、勿論です」
歓喜に飛び跳ねるのを必死に抑えているお陰で母様が何を言っているかはよく聞こえおらず、反射的に受け答えをして扉を閉めてしまった。ふぅ〜何事もなく終わったなぁ……
最後なんて言ったのだろうか?
まぁ大した事じゃないに違いない。
俺の頭は都合良く出来ているのだ。
とりあえず、部屋の前から逃げる様に広い廊下を歩いていく。
「んー、この後どうしようかなぁ。明日の為に書庫で属性魔法の魔導書でも見てみようかな」
そのまま軽い足取りで書庫の扉の前まで着いた。
「よしっ、『身体強化』」
魔力で身体を覆い全身を強化する。そして扉に両手で触れ押していく。ギィっと音を出しながら扉が開いていく。
「ふぅ、まったく無駄な事をするなぁ」
昔、書庫に入ろうとしたところを見られた事があり、扉には小さな子供の力では到底開けられない様に魔法で細工が施されてしまったのだ。結局、それなりに魔力を込めた『身体強化』を使えば問題ないんだけどね。
「よしよし、魔導書はあっちの方だったよねー。ん?そういえばこっちの方は行ったことが無かったなぁ」
書庫はとても広く、下手すれば迷子になるほどなのだ。なのでいつも魔導書が置いてある中央の本棚にしか行ったことがなかったのだ。んーどれどれ。
おっ、カッコいい題名の本があった。本棚から引き抜いて手に取ってみる。
「『冒険の書』か。ちょっと面白そうだな、どれどれ」
ほう、冒険者って言う職業の事が書いてあるね。
「自由や財宝、強さを追い求める者……
おーカッコいい!! おっこっちは冒険者ギルドの説明が載ってるね。ふーむ、冒険者ギルドとは大陸中に存在する国に属さない独立組織で?冒険者ギルドには独自の体系があり定めたランクに応じて特権が与えており、簡単に言えば冒険者に依頼を斡旋する組織であると。
ほぉ〜それでそれで、冒険者にはランクが存在し、そのランクにより仕事の内容を決める。ランクは最低のGから最高でSSまで存在する。特にSS級の力は強大であり、1人で大国さえ落とす力を持つと言われており、SS級は最強の称号とされている。それ故に、各国の王族や貴族にはSS級とは何があっても敵対してはならないという暗黙の了解が存在する。過去には国が滅んだ事もあるのか……。現在SS級はアミール大陸に5人存在する、か」
へー敵対しちゃダメなんだー。
貴族なのに知らなかったよ。
まぁまだ3歳児だから良いよね。
それより、SS級冒険者! 最強の冒険者!!
めっちゃカッコいいな!!
どのくらい強いんだろうな、そいつら。
そして何より……
「欲しいな! その最強の称号!!」
俺はこの世界で初めて目を覚ましてから、今まで目的もなく生きてきた。自分が何者なのかも分からず……いや、その事に蓋をしながら、だ。本当は誰も、そして俺自身でさえ、俺のことを知らないって事を凄く寂しくて、苦しいと感じていたんだ。
だけど、いつまでもその事に目を背けるのは俺らしくない!
だから俺は……決めたぞ!!
世界に、歴史に、俺を刻み込んでやる!
例え俺が俺自身の事を忘れてしまう事があったとしても、他の人の記憶に俺が深く残るように……。
俺の存在を世界に刻み込んでやる。
俺という存在の証明の為に……そして、
今この胸を支配している冒険がしたい!
という昂って止まない好奇心の赴くままに。
よし! 改めて……自己紹介をしようか!!
俺はアレン! SS級冒険者になる男だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます