第3話 お叱り?
どうもアレンです。あれから一年が経ち、ピチピチの三歳児となりました。
現在は『身体強化』の他に無属性魔法をいくつか扱える様になり、エレナとの日々の逃走劇は全勝という快挙を成し遂げている。こうして余裕のできた俺は煽ることを覚えた。
エレナは怒ると怖くはあるが、怒った顔がとても可愛いので出来るだけ怒らせるようにしている。まぁ一日中逃げ回るわけにはいかないので結局捕まるのは避けられない。。
その後のお仕置きときたら……想像するだけでお尻が痛くなる。もう毎日の事なのでお尻が赤く無い日は無い。むしろ青い気がする。貴族の息子にそんな事して大丈夫なのかな?って思ったんだけど……どうやら母様から許可が出てるらしい。なるほど……この屋敷に俺の味方は居ないのかもしれない。
当の本人であるエレナ自身はお仕置きを楽しんでいる節があるので、六歳にして素晴らしい性癖をお持ちのようだ。将来が楽しみだね。
とまぁ、こんな感じの日々を送っている。
そして、今は何処にいるのか。なんと執務室の扉の前にいる。父から呼び出しを受けている最中だ。そんな理由で俺は絶賛、現実逃避中なのだ。まぁ呼び出しは初めてではない。
そして決まってお叱りを受けているのだ。
まったく、俺が一体何をしたというのだ。 見当がつかない、それは毎回のことだ。
とりあえず、考えてみよう……。
最近あった事……高級そうな壺を割った事だろうか。いや、これは完璧な隠蔽工作を施したから違うはずだ。ならば書庫で魔導書を勝手に読んだりしていることか、それとも屋敷の庭に落とし穴を作って庭師のダニエルを落として騒ぎになった事か……。いや、落とし穴は外部犯の犯行だ!! という推理ショーを披露したので問題ないはずだ。だとすると……う〜ん、心当たりが無いな。
うん、無いったら無い!
そんな事を考えながら腕を組みウンウン頷いていたら、扉が開いた。
目の前には誰かの脚だ。顔を上げると眉間に皺を寄せる男、父様がいた。
「アレン何をしている、早く入れ」
「は、はいっ!」
チッ! もう少しだけ気持ちを整えてから入りたかったんだが、こうなっては仕方がない。意を決して、部屋に足を踏み入れる。
父はローテーブルを挟んで向かい合う2つのソファーの片側に座った。
「とりあえずそこに座れ」
父はそう言って向かいのソファーを指さした。残念なことに、もう逃げる事はできなさそうだ。
「はい……失礼します」
ソファーに座り、背筋を伸ばして良い姿勢を心がける。 母様がいれば「良い姿勢ね、偉いわ」って褒めるに違いないだろう。
フフンッ。なんだろうか、呆れた視線を向けられている気がする。
「まったく、お前の緊張感は一分も保たんのか。まぁ良い、今回呼んだのは、お前を叱るため…………という事では無い」
その言葉を耳にしたと同時に、背筋の力を抜きグデっと背もたれにもたれ掛かる。
「なーんだ、良かったー」
ん?やけに父の目が疲れている。
どうしたのだろうか。仕事が大変なのか?
いや……今日は休みのはずだが。
「はぁ……続けるぞ、アレン。お前の普段の行いは耳にしている、もう少し慎ましさを覚えてくれ。それとダニエルから、夜な夜なお前が庭に、かつて壺だったような破片を埋めているところを見たと報告してきてな」
ほーお?なるほど……くそっあの野郎!
チクリやがったか!! ダニエルめぇ!
あのクソ髭どうしてくれようか!?
絶対許さない! 大層大事にしているあの髭を剃って庭に生けてやる!!
その髭を見て自身の罪を悔いるが良い!!
…………いや待て、父様は今日は叱らないと言っていた……。うんうん、たまには誤魔化さず素直に謝ってみるのも悪くない。
フッ、謝るという選択を取った事に成長を感じるね……。
そう、俺はきちんと謝れる大人なのだ!
「ごめんなさい……」
深く頭を下げる。5秒数えたところで顔を上げる。父様の顔を見れば手で口を押さえており、何かを堪えているようだ。
おや?ダメだったのだろうか。
「ククッ……ハッハッハッハッハッハ!! まったく、顔に出やすい奴だなお前は。
まぁダニエルの髭は許してやってくれ、アイツの宝物だそうだからな。
それと……壺の事はシルフィアから話があるだろう、あの壺は私のではないのでな」
えっ、え?それって……めっちゃヤバい!!
母様に叱られるのが一番堪えるのだ。
まずい……既に冷や汗と震えが止まらない。
「本当に、分かりやすいやつだな。そういう私もアレには勝てる気がしないがな。
ハッハッハッ!!」
笑い事じゃないよ!?
「と、父様。僕どうすれば……」
「安心しろ、あまり叱らないでやってくれとは言ってある」
おー!! おー?どちみち叱られる事には変わりなくないですか、父様?
「おっと話が逸れたな。それでな、お前はもう三歳になった。そこでだ。明日お前の属性魔法の適性を調べる事にした。毎日問題ばかり起こすほど元気が有り余っているんだ。
特別に時期を早めて剣術の鍛錬も行う事にした」
まだ頭の整理が済んでいないが、勝手に話が進んでしまっている。
一旦壺の話は頭の片隅に置いておくとしよう。そう! 俺は切り替えの出来る人間なのだ。っとそんな事より、待ちに待った属性適性が分かる。これほど嬉しい事はない。それに剣術もだ。うん、カッコいい!!
ん?何故剣術を教えるのかって?これはエルガルド家が武闘派の貴族として有名だからである。エルガルド領は他の大国との国境側に位置し、強い魔物が現れやすい辺境なのだ。そして何より「エルガルド家たるもの、強くあれ」っていう初代からの教えがあるのだ。
まぁ俺は嫡男だから将来を考えれば、小さい頃から武術を教えるのは当然のことだろう。まだ早すぎる気もするけど……
「分かりました、父様! 話は以上ですか?」
「ああ、終わりだ。シルフィアからも呼び出されているだろう?逃げ出さないようにな」
「わ、分かってますよ!」
逃げ出さないように?どの口が言うのだろうか。自分もよく逃げてるくせに……。
考えないようにしていたことをサラッと言ってくる父様を、俺は恨めしく思いながらも部屋を後にした。
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