第2話 俺の名は

本に囲まれた部屋の隅に小さな人影が一つ。

そう……俺だ。

目覚めたあの日から、早二年が過ぎた。

そして、色々分かったことがある。

まずは俺が誰なのか、だ。

俺の名はアレン・エルガルド、ニ歳児だ。

そして、タミール大陸で五大国に連なるアースガルド王国の高位貴族であるエルガルド辺境伯の嫡男だ。見た目は銀髪で右眼が碧眼、左目が翠眼になっている。まぁオッドアイというやつだ。


次は家族の紹介だ。

父親の名はゼフィルス。二十五歳でエルガルド辺境伯当主だ。俺と同じ銀髪。眼の色は碧眼で、俺の右眼と一緒だ。父は普段から領主の仕事で忙しく、執務室に籠ることが多い。

よく逃げ出そうとして、執事のセバスに止められているけどね。

まったく……逃げるなんて情けない。親の顔が見てみたいもんだ。


次は母親、名前はシルフィアだ。

金髪で眼の色は翠眼。俺の左眼と一緒だ。元々子爵家の令嬢で、父とは学園で知り合ったそうだ。ナンパでもされたのかな?

年齢は十代後半にも見えるんだけど、よく分からない。ちょっと前に年齢を聞いたのに答えてはくれなかった。あの時、物凄い寒気に襲われたのは気のせいだろう。

けど諦めきれなくて、屋敷にいる人にも聞きに回った事がある。みんなビクビクしながら、知らないって答えるんだ。うーん、実に不思議だ。

でもまぁ、母様は普段は優しいので大好きだ。俺を産んだばかりの時は体調を崩して寝込んでいたらしい。今は体調も戻って元気そうだ。


次は専属メイドのエレナ 五歳だ。

屋敷に雇われているメイドの娘で歳が一番近くて、しっかり者だからお目付役として俺に付けられたんだと。

俺にはまだ屋敷の外は危険だからっていう理由で、外に出ようとするとすごい形相で追いかけてくる。もう何度も脱走を試みているが、この小さな身体では失敗することの方が多い。最悪なことに捕まったらお仕置きとして、くすぐりの刑が執行されるのだ。なので本気で逃げなければならない。だが最近は捕まるか否かのギリギリを楽しむのが癖になってきた。あのドキドキ感が堪らなく良い。


次は庭師のダニエル、ただの髭だ。以上。


 まだまだ屋敷にはいろんな人がいるけど、身近な人達はこのくらいだね。


よし、自己紹介はこの辺にして現在の状況を説明しよう。

今いる場所は書庫である。ここには危険なモノもあるそうで立ち入りは許されていない。なので夜中に忍び込んでいるのだ。

ここで一歳の頃から多くの本を読んでいる。

こうした日々の努力により、屋敷の人たちが使っている言語を学んだ。それと、あの時身体から出ていたオーラみたいなモノの正体が分かった。あれは魔力と言うものであの時は無意識に魔力を放出していたみたいだ。

そして現在、魔法を習得する為に魔導書を読み漁っている。


「うん、なんとなく分かったぞ」


魔導書に書かれていたのは、生活魔法は魔力があれば誰でも使えるということ。

生活魔法ってのは小さな火種や少量の水などを出せるだけの魔法らしい。生活魔法以外に魔法には無属性魔法、属性魔法があって、属性魔法を使うには適性が必要だそうだ。

だが俺が何の適性を持ってるかが分からない。魔導書には適性が分からない内は使うなって大きく書いてある。

まぁダメって言うんなら仕方がない。

数ある魔導書から目的のものを探し出す。


「えーと、ここら辺に……。おっあった! 

『二歳児でも分かる無属性魔法』だ。まさに今の俺にピッタリな題名だな」


手に取った魔導書を開きページを捲る。

うんうん、なるほど。無属性魔法は魔力があれば使うことが出来る。まぁどんな人でも使えるってことね。でも緻密な魔力制御が必要で、どの魔法も扱いが難しくて習得に時間がかかるらしい。うん、大体こんな感じだね。まぁ、難しい事は考えなくて良いや。

取り敢えず試してみようかっ!

まずは無属性魔法『身体強化』からやってみる。開いていた魔導書を閉じて、立ち上がる。そして深呼吸。


「すぅーーはぁーー、よしっ」


集中力を高め、あの時のオーラっぽいモノを意識する。んー……おっこれかっ!!

おー透明なオーラが身体から放出されている。こうやって魔力に触れてみると、ぬるま湯に触っているみたいだ。まぁとりあえずこれで、魔力は完全に認識できた。


「よし、これを身体全体を覆うイメージだったな。うーん……こうか?無属性魔法──『身体強化』」


魔力が身体全体を覆うように流れている。

身体がとても軽くなり、力が湧いてきた。


「おぉ、出来た出来た! けど、ちょっとキツいか……。この魔力を身体全体を纏うように絶えず維持するのってはすごく難しいな……」


取り敢えず『身体強化』は一旦解除する。そうした途端、全身の力が抜けたように、床にへたり込んでしまった。


「ハァハァ……結構集中力いるなぁ〜。まぁこの感じだとそのうち慣れそうだ。何より、これを使えばエレナからは簡単に逃げれそうだな。フフフフフフ……フハハハハハハハハハ!!!」


待ってろよ、エレナ!

これをモノにしたなら、俺に敗北はない!!









後日、夜になると書庫から不気味な笑い声が聞こえてくるという噂が使用人の間に広まっている事を知った。変態でも住んでるのだろうか?まぁ俺も書庫にはよく行くから、用心しておくとしようか!

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