大罪

大罪

作者 旅音。

https://kakuyomu.jp/works/16816700426283548920/episodes/16816700426283600283


 海の取っておいた苺丸ごとプリンケーキを食べた罪を償うため新しく購入して謝罪する男の物語。


 どんな大罪なのか、それは「読んでのお楽しみに」というタイトルの付け方はすばらしい。

 一人称「俺」が、アイツ――海に犯した大罪を償おうと、今いる場所からアイツのいる場所まで約八百メートルを、「手荷物を落とさないよう」走っていくとこからはじまる。

 前半は、とにかく取り返しのつかないことをしてしまったと嘆きつつ、一秒でも早く償いをしなければと走っている。

 たかが赤信号で引っかかるたびに、「天は俺の敵になったらしい」とか「天使からの最終宣告」とか大げさにとらえて、「もう走るのを諦めようか」や「謝罪なんてスマホで済ませばいい」など弱気になりながら、スマホのロック画面に映るアイツとアイツからもらった左手についている指輪から、「早くアイツに会いたい」と奮い立たせて駆けていく。

 そうしなければならないなにかが彼にはあって、まるで走れメロスのように、ただ一つの目的のためだけに走る姿だけが続いている。

 前半が真面目であればあるほど、真剣味が強ければ強いほど、後半がギャグでもシリアスでも、読み手はどうなるなろうと期待しているから受け止めやすい。

 目的のマンションに到着しても、彼はけっしてエレベーターをつかって楽しようとしない。階段で上がる。なぜなら、自分のしでかした罪に対して罰を科すためだ。なので、八階だろうと全力で上がらなくてはならない。

 部屋に入ってもそうだ。謝罪とは、一分一秒でも早くなくてはならない。

 のんびり歩いていては、相手に誠意も伝わらないからだ。


  海の目を見て「本当にごめん!!」と頭を下げた。


 相手の目を見て、聞こえる声でハッキリと謝り、堂々と謝罪の姿勢である頭を下げる。いままで必死になって走ってきたのは、このときこの瞬間のため。彼にはそれがわかっているんだよ。気持ちが行動や姿勢に現れている。

 海は、穏やかに謝罪を受け入れ、「…いいよ。もう全然気にしてない。こっちこそごめんね、あんな事に怒ったりなんかして。というかそれ、新しく買ってきてくれたの? 一緒に食べる?」いつも通りの落ち着いた声と顔に、彼は徐々に許されていく。

 相手の穏やかな態度がじつにいい。

 しかも、まだ彼がなにをしたのかはわからない。

 ただ、「新しく買ってきてくれたの? 一緒に食べる?」というセリフからは、おおよそ推測はできるのだが。

 海の取っておいた苺丸ごとプリンケーキを食べた罪を許してもらうため、彼は同じ商品を買いに走ってきたのだ。

 最初のひとくちを食べさせてもらい、「その味はとても甘く、俺の罪を許す大きな愛が感じられるような味だった」ここで彼の大罪は許されたのだ。


 ここで終わっても良かったはずなのに、作者はスマホのロック画面を海にしていたことがバレて、せめて俺の許可を取ってからにして欲しかったと笑いながら怒られた余談をそえている。

 この二人は男女のカップルではなくて、同性同士のカップルですよと言いたかったのかもしれない。

 女性でも稀に「俺」と表現するひともいるので、一概に同性同士と決めつけるのも良くない。そこは読み手が判断すればいいのだろう。

 

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