第7話(1/3)


 撃つ。撃つ。


 心地よい振動と炸裂音が森に響く。特別に作ってもらったゴーグルはぴったりだ。激しく動いてもまったくずれる心配がない。

 撃つ。走る。撃つ。相手の動きが緩慢になった。効いているようだ、良かった。


 両腰のホルスターに二丁とも拳銃を仕舞い、背負っていたライフルを座って構えた。まだ少し大きいだろうか……調整してもらったのだけれど。


 レバーを引いて、装填。撃つ。もう一度レバーを引く。装填。撃つ。撃つ。撃つ。


 獣は、後ろ向きに倒れた。

 弾を込め直す。


 立ち上がって様子を見ながら近づく。顔と同じく赤黒い手が動いた。そちらを撃つ。水筒くらい太い指が一本吹き飛んだ。

 スタンディングではまだ安定しない。


 倒れたまま動かない獣の側面に回り込んだ。左目が潰れている。

 座って、構えて、また三発撃った。動かない。


 弾はあと一発。念の為補充する。


 獣から煌めく光が浮かび上がってきた。


「先生!」


 叫ぶ。

 背後から、背の高い女性が現れた。


 ハーレクインの四色の煌めきが辺り一帯を覆い始めている。赤、青、それに緑、橙。遊ぶように揺らめく命の光だ。獣の躰は光となって拡散し、段々と小さくなっていく。


 ライフルを女性に預け、獣の躰に手を突っ込んだ。ぐちゃぐちゃのぬるぬるで気持ち悪い。袖を捲ってから突っ込めばよかった、洗濯して落ちるだろうか。

 手に何かが当たった。

 赤黒い躰をさらに掻き分ける。人間の胴体、のようなものが見えた。肩まで腕を肉の中に押し込んで引きずり出した。

 彼だ。


 素手で黒い肉のような何かを出来るだけ除けてやる。

 夜の煌めきは漸く広がりきったようだ。


 私は、この景色を前にも見たことがある。

 記憶が戻ってくる。ああ、骨の獣だ。鋭い腕を振るって、お父様とお母様を、殺した。お父様が私に何かを叫んでいる。


 聞き取れなかった。


 記憶なんて、そんなものかもしれない。


 煌めきは収束したようだ。


 男の躰は全部生え揃っていた。




「大丈夫なの?」

 エリ―先生は心配そうに言う。


「随分長い間死んで、生き返ったり死んだりしてたのでしょうから、起きるのが大変なのかも知れませんね」

「生き返ったり死んだりって、ああ、頭が痛くなりそうですよ」


「先生、ほんっとうに申し訳ないんですけれど、バイクこちらまで乗り付けられますか?」


 先生は、はいはい、と言いながら立ち上がった。三途の川の下流には赤い橋の他にも石橋が掛かっていたので、通れるだろう

 彼の頭を膝に乗せる。

 全身に張り付いていた獣の肉はすべて蒸散している。額の前髪を払うと、微かに瞼が動いた。


 目が緩やかに開いていく。


「ああ……」

 思わず声が出る。


 黒い瞳が左右に動く。いい天気だから、眩しいだろう。帽子を持ってくればよかった。

 彼が私の顔を見た。まだ焦点が合っていなさそうだ。眉をしかめている。彼らしい。


「だ……れだ?」

 そう聞こえた。


「よかった……お待たせしました、お兄様」


 彼の額に水滴が落ちた。

 指で拭ってやっても次々と落ちてきて、ジュリーはもう、諦めるしかなかった。


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