後編
始まりでもないプロローグ
轟音を聞いた。夕闇を照らし出すかのような光の奔流。続いて、家をミキサーにかけたような、太陽が滝へ落ちたかのような鳴動。躰が盾にした荷物ごと吹き飛ばされ、地面に擦られる。
燃えている。
樹が、森が、燃えている。熱で空気が歪んでいる。風車が回っていた方向から風上を計算する。
彼はどうなったのか。走れ、と言った。
「ああああ、クソ、こんなこと」
炎の中から、異様なものが現れた。
白い顔。皮膚が一部剥がれている。
純白だった髪は乱れ、ほとんど焼き切れている。その顔は、こちらに気づいた。
「……やぁやぁ。五体満足で、よく生きてたね」
顔が。顔だけが、浮かんでいる。首が途切れ赤と白の細い管がぶら下がっていて、何か黒い液体が
ナギサ、いや、大和? 白い光に包まれているようだった。
「渚はぁ、やんなっちゃうね。どこに飛んだ? あぁ! まずいなぁ」
ナギサはこちらを見ていない。視線の先に、黒いボールのようなものが落ちている。ヤマト、渚? どっちでもいい。彼だ。
「動いたら、撃ちます」
腰のベルトに差してあった拳銃を手に持った。
スライドを引く。構える。安全装置を外し、撃鉄を起こした。
「うわぁ! 危ないなぁ、それ人に向けちゃいけないって
白い顔がこちらを見た。白い光をこちらに向け、拡散させていく。
引鉄を引いた。手元で破裂音。
当たらなかった。
「やめろ! ああ! なんなんだよ、お前さぁ!」
狙う。撃つ。
当たらない。
光は拡散を止め、白い顔を包み込む。もう一度撃つ。
収縮した光は静かに消えた。
跫が。
顔だ。顔だけの。獣。
赤黒い顔が樹々を掻き分けて現れた。
怒りに満ちた表情。眉と髭が白い。顔の後ろには、漆黒の翼。
顔に比べて翼が小さすぎる。翼をひと羽ばたきさせるとその巨大な躰が跳ねて、地面を揺るがしながら移動する。
顔はこちらを見ていない。その代わりに見ているものは、やはり顔。
ボール大の顔。ヤマト。
私は、ヤマトが赤い顔に喰われるのを身を隠して見ているしか出来なかった。
******
「ジュリー、ただいま」
扉を開けると黒猫が座っていた。
今は、躰を休めなければいけない。お風呂に入って、着替えて、寝る。
朝起きたらごはんを食べるのだ。先生にあいさつをしに行こう。
靴を脱いで鞄を下ろしたら、鞄といっしょに尻もちをついてしまった。そのまま
猫がにゃあと鳴いて、頬を舐めるのを感じた。
涙は流れない。泣くより先に、やることがある。
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