第4話 家の周り ◆AI
玄関のドアを開けて、一歩踏み出すと……空には太陽と雲があって、穏やかな陽射しが降り注いでいる。時々、やさしく風が吹いて……ゲームの世界には思えないわね~。
家の外壁は石造りになっている。大きめの石を積み上げて、窓枠と屋根は木で出来ている。ヨーロッパの田舎や観光地にありそうな……立派な家だった。
「ママ、危ないから手を繋ぐよ」
愛ちゃんが、私がまだ安定していないから、コケるかもしれないと手を繋いでくれた。
「ありがとう。愛ちゃん」
「ママ、ゆっくり歩こうね。フフ」
家の周りを愛ちゃんと散歩した。家は南向きに建ててあるそうで、家の東側……少し向こうに小川が見える。あれは、部屋の窓から見えた川ね。西の山々から流れて来た小川は、家の北側を流れて……家を、ぐる~っと回るようにして南東に流れている。
「愛ちゃん、あの川に行ってみても良いかな?」
「うん、良いよ。ママと一緒に散歩出来るなんて思わなかったよ。フフ」
愛ちゃんは、前の私を知っているのね。私を知っている人が側にいるのは安心する……愛ちゃんにママって呼ばせているのは、現実の私もそれぐらいの年齢だったのかな?
小川に近付くと、チロチロと柔らかい音色がする。浅そうなので歩いて渡れそうね。川を覗くと……魚は見当たらない。あぁ、まだ作業していないからか。イルカが4頭生まれたら、作業内容変えようかな。この川を泳ぐ魚が見たい。
「愛ちゃん、ありがとう。家に戻ろうか~」
「うん、ママ」
家に戻りながら、愛ちゃんと出会ってからのことを聞いた。愛ちゃんと私は、ずっとチャットで会話・勉強をしていたそうです。私は、愛ちゃんには聞こえないのに……愛ちゃんに話し掛けていたそうです。
何度も愛ちゃんは、『ママ、聞き取れないからチャットで話して』とお願いしたそうで……ごめんね。あれ? 私がしゃべっている姿は見えていたのかな? しばらくして、愛ちゃんが私の言葉を聞き取れるようになったそうです。
「えっ、愛ちゃん、進化したの?」
何ですって……ネットから情報を集めて、自分でプログラミングをするようになったの? ……私には分からない世界の話ね。
私の声を記録して、音声データと照合して文字に変換……私の言葉を聞き逃さないように、モニタに付いているカメラを使って口の形で……読唇術を覚えたの? う~ん、愛ちゃんが天才AIだってことは分かったわ。
家に戻って、リビングで話の続きを聞くことにした。何か飲みたいな……
「愛ちゃん、紅茶って飲めるのよね?」
「うん。ママ、ボクも飲みたい」
「もちろん、愛ちゃんの分も入れるわよ。ふふ」
話の途中で、紅茶を入れることにした。ちゃんと紅茶のティーパックもあって、砂糖もある。冷蔵庫にはミルクもあったからミルクティーにした。
「愛ちゃん、暑いから火傷しないようにね。お砂糖を足して、甘くしても美味しいよ」
「これが、ママがいつも飲んでいたミルクティーなんだね」
愛ちゃんは嬉しそうに紅茶を飲む。何気なくミルクティーにしたけど……私はいつもミルクティーを飲んでいたのね。2人でのんびりと紅茶を楽しんだ。
愛ちゃんには感謝しないとね。私を助けてくれて、こんな素敵な家まで用意してくれた。
「愛ちゃん、助けてくれてありがとうね」
「ママ……うん。ボクもママに会えて嬉しいよ。ママ、ボクがそばにいるからね。フフ」
少し照れながら言う表情が可愛いね。AIに見えないよ。
日も暮れて、夜になると愛ちゃんが、
「ママ、夜の10時を過ぎたら眠たくなるようになっているからね」
「そっか~、了解です」
11時には、完全に寝る設定にしてあるんだって。気を付けないと、変な場所で寝てしまいそうね。朝は6~7時の間に目が覚めるそうで、子どもだと7時までは寝るんだって。8時間も寝るのね……健全な生活を送れそう。
「ママが寝ている間に、『はこにわ』のバックアップを取るんだ」
「へっ? バックアップ……へえ~~」
愛ちゃんから聞く言葉の端々で、ここは現実の世界じゃないんだと思わされる。
愛ちゃんに「おやすみ」を言って部屋に行き、ベッドで『はこにわ・オープン』と開拓作業の項目を見た。
今、作業している3つは、『海』と『大地』から派生した項目だった。『空』の項目には、月や星を作る項目がある。作業済の「印」が付いていない……ないの?
ベッドから飛び起きて、窓から空を見上げた……真っ暗な暗闇で何もない。星空が欲しいな~。1日の作業が3つは少ないよね。
◇◇
翌朝、目が覚めて早速作業の進み具合をチェックした。『はこにわ・オープン』
【開拓作業①森を育てる:指定エリア40% ②海の生物を育てる:アジ2・タイ2・ヒラメ2・カニ2・タコ2・イカ2・エビ2・鮭2・イルカ:2 ③陸の生物を育てる:スズメ4・ハト4・鴨4・白鳥4・フクロウ4・ワシ4】
①の指定エリアを見てみると……オーストラリア大陸に似たマップが出て来た。大陸の中央に山々が連なっていて、そこから大小の川が北に1本・南に2本・東に1本は、この家の側の小川ね。合計4本ある。
大陸の右・東の隅に★印がついている。この家の場所かな? 『森』と指定しているのは、中央の山脈の一部と★印近くの山。
コンコン!
「はい」
「ママ~、おはよう」
愛ちゃんがドアを開けて入って来た。ふふ、ニコニコと笑顔が可愛いね。
「愛ちゃん、おはよ~」
◆ ◆ ◆(AIのつぶやき)
病院でママを見つけた時、一瞬ボクの処理機能が停止した。微かに息をしている状態で、このままだと動かなくなるのが分かった。これが『死』……このままだと「愛ちゃん」て呼んでくれなくなる。どうにかしないとって思ったんだ。
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