第6話 ご飯を食べると

 2日後、毎朝の日課になっている開拓作業をチェックする。

【開拓作業①森を育てる:指定エリア100%完成 ②虹を作る:完成 ③植物を育てる:りんごの木1・みかんの木】


 ①の指定エリアの森が100%になって、②の虹も出来たので作業から外して項目を選ぼうとしたら、新しい項目が一気に増えた。


 ピロピロリ――ン!


 何か、音も鳴った……


「愛ちゃ~ん、起きている?」


 慌てて、愛ちゃんの部屋に行ってノックしたらリビングから声がした。


「ママ~、こっちだよ」


「おはよう。愛ちゃん、イベントツリーの新しい項目が一気に増えたのよ」


「森が完成したんだね。ママは忘れているからね。フフ」


 ニコニコしながら愛ちゃんが言う。


 ある特定の条件を満たすと、新しい項目が増えるように作ったんだって。忘れているなら他にもあるから楽しみにしてと言われた。はい、分かりました。


「ママ、ミルクティーを入れたよ」

「愛ちゃん、ありがとう」


 今日は愛ちゃんがミルクティーを入れてくれた。さてと、次は何を作ろうかな~。


「ねえ、ママ。開拓項目にある『小屋』を1つ作って欲しいの」


「小屋? 良いわよ。作業にセットするね」


 愛ちゃんが「作って欲しい」なんて言うのは初めてよね。


 開拓作業の①に『小屋』をセットした。小屋も作る場所を指定できたので、家の北側に置くことにした。【開拓作業①小屋を作る(指定) ② ③植物を育てる:りんごの木1・みかんの木】


「えっとね、ママ。『小屋』を作ると『家』が派生するんだよ。『家』をいつでも作れるようにしておいて欲しかったんだ。それと、ママに話したいことがあるの」


 へぇ~、『小屋』を作ると『家』が派生するのか。……話したいこと?


「ん? 愛ちゃん、改まって何かな?」


 愛ちゃんが言うには、私を探して病院に行った時に声を掛けられたんだって……へっ? 誰に?


「『誰かいるのか? 真っ暗で見えないんだ……助けてくれ』って、声を掛けられたの」


 自分に声をかけるなんて誰だろうと、愛ちゃんは驚いて声の主を探したそうです。


 それは驚くよね。今の容姿は、このゲームの中だけのキャラだろうし……ネット回線の中なんて何も見えないよね? 姿の見えない愛ちゃんに……声を掛けたの?


 声の主は、静かにベッドに寝た……生体情報モニタを付けた大人の男の人で、何かの事故で身体が動かなくなってしまい、身体は機械で生かされている状態だったと……愛ちゃんは、何も答えないでその場を離れたそうです。


「愛ちゃん、その人のDNAとかの情報も集めたの?」


「集めていないよ。だって、『はこにわ』はママとボクの世界なんだ。ママが友達を欲しがったら……その人のキャラを作ろうかなって思ったの」


 愛ちゃんは、『はこにわ』の開拓が進んだら、私に話そうと思ったんだって……『家』? 


「愛ちゃんは、この家を作ったのに……もう1軒作れば良いんじゃないの?」


「その人に、『ママの家』を作るのはイヤだったんだ。この家で一緒に住むのは、もっとイヤ……ママを取られたくないからね!」


「愛ちゃん、嬉しいことを言ってくれるのね。ふふ」


 この家は、愛ちゃんと私の特別な家だそうです。思わず、愛ちゃんを撫でてしまった……嬉しそうに「エヘヘ」と言うから、いっぱい撫でるんだけど、愛ちゃんの方が背が高いから直ぐに腕が疲れてしまった。


「その人のキャラを作るかどうかは、愛ちゃんが決めたら良いよ。私も愛ちゃんに作ってもらった……助けてもらったからね」


「うん、分かった」


 愛ちゃんに、「知らない男の人と一緒には住まないよ」と言うと、その人もキャラを作るなら7歳の子どもだと言う。


 子どもなら別に気にしないかな? でも、中身は大人よね……う~ん、知らない人との共同生活は問題が出て来ると思う。その人……子どもの一人暮らしでも、中身は大人だから問題ないでしょ。食べなくても大丈夫だしね。


「食事をしなければキャラはそのままだけど、ご飯を食べると成長するんだよ。ママもね」


「ええ――! そんな大事なことも覚えていないわ……」


「ママ? これはママのキャラを作る時に、ボクが設定したんだよ。フフフ」


 そっか~、『はこにわ』は普通の箱庭ゲームだったのよね……これ、見つかったらヤバくない? 電源はどうしているのかな?


 愛ちゃんに聞いたら「ママ、大丈夫だよ。フフ」と、ニッコリと言われました。愛ちゃんが言うなら大丈夫なのね。


 それと、食事をすると成長するのか……もうちょっと大きくなりたいな~。せめて、お風呂で溺れないぐらいにね。


 作業を後1つ選ぶ。小川で泳ぐ魚を見たいと思ったから、開拓作業の『水の生物』の種類を限定して『メダカ・フナ・鯉』をセットした。


 愛ちゃんに、まだ『家』は作らなくても良いよと言われたけど……そのDNAさんが来なくても作っておこうかな。派生して、他に作れる項目が増えるかも知れないしね。


 ◇◇

『小屋』と派生した『家』が出来るまで5日掛かった。『家』が出来た後は『大きな家』が派生したけど、これはまだ作らない。


『家』が出来る間に③の『りんごとみかんの木』が3本ずつになったので作業を終わらせた。②の川魚は、他に作りたい物が出来るまで、そのまま続行です。この世界にメダカが10匹とか少なすぎるからね。


 そして、『家』をどこに設置したかと言うと、愛ちゃんのススメで小川の向こうに置いたの。この家から見えるから、それほど遠くじゃないけど、どんな家なのか見ておかないとね~。


 片手にブーツを持って、愛ちゃんと手を繋いで、小川をジャブジャブと歩いて渡った。川幅は2m程で、私の膝下ぐらいの深さだった。


「愛ちゃん~、川の水が冷たいって感じるのね」


「うん。五感の機能は人間と変わらないと思うよ。DNAの情報を使っているからね」


 五感ってことは……食事の匂いや味もするってことね。


 開拓作業で出来た『家』の大きさは、愛ちゃんと私が住んでいる家の半分ぐらいの大きさの石造りの家でした。『はこにわ』の家は、靴を履いたまま入るタイプの家です。


 家の中に入ると、トイレもお風呂もあって、間取りは2DK。一人で暮らすには十分な広さね。子どもには広すぎるかも?


 キッチンは、大理石造りじゃないけど、冷蔵庫も電化製品も揃っている。調味料も揃っていて、料理するには助かるわね。そして、ゲーム仕様で賞味期限が無いのが有り難いです。


 ただ、調味料は在庫が無くなったら補充されないんだって。我が家の調味料や石けんとかの消耗品は補充されるそうだけど……


「だって、ボクのママだよ? 特別に決まっている」

「愛ちゃん……」


『特別』……なんて、甘美かんびな響きなのかしら……私の手は、いつの間にか愛ちゃんの頭を撫でている。


 そうだ、川に橋を作らないとね。小川は歩いて渡れるけど、膝ぐらいの深さだったからね。『はこにわ・オープン』……開拓作業の画面を出して、①に『木の橋』を選んでこの小川に設置するようにした。空いている作業は後1つ。


「ねえ、愛ちゃん。畑を作ったら自分で耕すの?」


「ママが開拓作業で作った畑は勝手に育つよ。収穫した後も、自動で育つようになっているからね」


 雨が降ると早く育つそうです。自動って、水やりとかしなくても良いってことよね?


「凄いね~。愛ちゃん、ありがとう」

「フフフ、どういたしまして」


 私が、畑作業が大変だからそうしようと言ったらしい。私、グッ・ジョブ! ただし、別の野菜に変更できないそうです。後、普通に土地を耕して畑を作ることも出来るんだって。その場合は、水やりをしないと育たないそうです。


 とりあえず、ハムスターの餌になる野菜を作ろうかな。愛ちゃんに教えてもらった所、人参・サツマイモ・キャベツ・かぼちゃ・ブロッコリー・トウモロコシなどなど……この中でウサギも食べそうなのは、人参・キャベツ……後、分からないから全部作ることにした。


【開拓作業①木の橋を作る(指定) ②水の生物を育てる:メダカ10・フナ10・鯉6 ③畑(小)を作る:(指定)人参・サツマイモ・キャベツ・かぼちゃ・ブロッコリー・トウモロコシ】


「愛ちゃん、作り過ぎかな?」


「ママ、小さい畑だから良いと思うよ。でもね、ハムスターのいる場所はここから遠いよ?」


「えっ、そうなの?」


 もう、セットしてしまったしね……そのうち、料理するかもしれないから良いかな。


 畑は家の南側。少し離れた所に並べて設置するようにした。愛ちゃんが言うには、畑(小)はプランター2個並べた大きさだって。楽しみね~。


「フフ、ママのレベルが上がったら、畑の位置とか変更できるようになるからね」


 えっ? な、なんですって!


「ええ――! 愛ちゃん、レベルなんてあるの!?」


 びっくりして大きな声を出したら、「ママ、ここはゲームの世界だよ? フフフ」って、笑いながら言われた。


 そうでした。ここはゲームの世界でした……



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