第358話 ダンジョン政策と野心(前編)
「えっ? もうそんなに無人惑星を組み込んだの?」
「だって、一日も早くダンジョンに冒険者なりゴーレムを潜り込ませないと、なんの価値もない無人惑星になってしまうからって。汎銀河連合に属する惑星国家も、近場のダンジョンが出現した無人惑星の管理はちゃんとしているけど、少しでも遠いとうちに丸投げよ。人手が足りないって」
「無人惑星のダンジョン探索はゴーレム任せなんだから、そこは引き受けてくれても……」
「今はゴーレムも不足しているからね。イワキ工業も、古谷企画も、デナーリス王立ゴーレム工房も、全然需要に追い付いていないじゃない。しかも、生産されたゴーレムはデナーリス王国が優先なんだから」
「……『ゴーレム職人』のスキルを持つ冒険者、滅多に出ないからなぁ……」
「だからこの前、パース星の『ゴーレム職人』が、他の惑星国家に誘拐されそうになって、その星の大統領が逮捕されて問題になっているじゃない」
「全然暇にならねぇ……」
せっかくダンジョンが出現した無人惑星を放置して消滅させてしまうことほど、大きな損失はない。
以前、近くの無人惑星にダンジョンが出現したのに、冒険者、ゴーレム不足を理由に放置したらダンジョンが消滅してしまい、そのせいで辞職させられた大統領がいたほどだ。
ダンジョンが出現する無人惑星だが、月以外は空気があって呼吸もできる。
ところが、重力が地球の十倍だったり、逆に十分の一だったり。
空気はあるけど、生物どころか植物もゼロ。
年中砂嵐や暴風に晒されていたり、年中極寒、酷暑、一年の気温差が120度など。
ゴーレムを設置して管理するのも大変な無人惑星も多く、それらはすべてデナーリス王国に押し付けられ……任された。
結局のところ、無人惑星のダンジョンから産出された品を輸入した方が早いし安いのと、能力もないのに無人惑星を管理してみたら全然成果が上がらず、他の惑星国家に批判されたなんて話もあり、汎銀河連合は『デナーリス王国は、国際協調のお手本のような国』だと褒め称え、そのせいで俺が死ぬほど忙しくなっている。
『新たにダンジョンが見つかった無人惑星です。ダンジョンの数は、今のところ五十七箇所。すべてに、宇宙輸送船に積み込んだゴーレム軍団を降下させます』
動画では、まるで軍事作戦のようにゴーレム軍団を載せた揚陸艇が大気圏を突入し、最後に細かな調整をかけてダンジョンの横に着陸する。
『この揚陸艇は、そのままゴーレムたちの整備、修理基地と、予備機の保管庫となります』
揚陸艇から降りてきたゴーレムたちは隊列を整え、ダンジョンへと入っていく。
『あとは、徐々にダンジョンを攻略をして、様々なものを集めてくれます。魔導筒に一定量溜まったら、銀河系中を巡回している高速輸送艦を呼び寄せ、魔導筒は惑星軌道上に到着した高速輸送艦に向けて打ち上げられ、回収後に現在全銀河に支部が増えつつある『取引所』に運ばれ、毎日オークションで競り落とされます』
ダンジョンが発生した無人惑星に、ゴーレム軍団を送り込む様子を撮影した動画で世間に周知し、デナーリス王国が全銀河系の征服を目論む悪の王国だという陰謀論が広がらないようにするのも忘れない。
どこかの第三帝国の宣伝相が、『嘘も百回言えば真実になる』なんて言っていたので、陰謀論にはちゃんと反撃しないと損をする世界になってしまったのだから。
「そうでなくても、ダンジョンの産出品の需要は増える一方で、特に低階層の品の供給が止まればどの惑星国家でも暴動や反乱が起こってしまう。ダンジョンが湧き出た無人惑星の大半をデナーリス王国が押さえることになっても、私たちは動きを止められないわ」
「確かにそうだけど」
「デナーリス王国はついに、二千を超える無人惑星をその領土とすることに成功し、銀河系で一番多くの惑星を有する惑星国家となったわ」
「というか本星以外、ダンジョンとゴーレムしかないけど」
「ちゃんと富は生み出しているから問題なし……管理経費でその利益もそんなに多くないけど……」
「一日も早く、近い惑星国家に売り飛ばしたい」
「もっとゴーレムの生産力が上がって、惑星国家の冒険者が増えないと持て余すから無理」
「ですよねぇ……」
いくらダンジョンがあるといっても、大半がなにもないどころか環境が悪い無人惑星なのだ。
そんな星を一万領有したとしても、デナーリス王国が銀河系の支配者になるなんてあり得ない。
そうでなくても、汎銀河連合に加盟する国から、『もっとダンジョンの産品売ってくれ!』と催促されているのだから。
「城谷さん、事務次官への就任おめでとうございます」
「五十歳前の就任って、最速じゃないですか」
「ダンジョン関連の仕事が多いので、経済産業省の責任は重大ですからね」
「そういえば城谷さんは、あの古谷良二と中学の同級生だったとか」
「となると、ダンジョンからの産出品の価格上昇抑制が進みそうですね」
「……」
苦労の末に、私はようやく経済産業省の事務次官に就任した。
ようやく経済産業省のトップに昇りつめたが、私の夢はまだ終わっていない。
「(政治家になり、そして総理大臣になるんだ!)」
事務次官就任は、夢の第一歩というところか。
そんな私は、あの古谷良二と中学生の頃同級生だった。
その頃の古谷良二は学業成績も運動神経も普通の生徒でしかなく、オタク友達の山田と漫画、アニメ、ゲームの話ばかりしていたのを思い出す。
一方の私は、文武両道で学級委員も務め、教師からの印象もよく、高校も地元で一番の進学校、東大に入学し、キャリア官僚になった。
当時、そんな私を羨む人は多かったが、私の心は満たされずに今に至る。
「(私は心を満たすために、この国の頂点を目指すのだ!)」
せっかく東大を出てキャリア官僚になったのに、その頃には教室で漫画とアニメとゲームの話しかしていなかった古谷良二が、世界一の冒険者にしてインフルエンサー、資産家として有名になっていたからだ。
『私に冒険者特性があれば!』
私の頭脳と運動神経があれば、古谷良二なんて目じゃない冒険者、インフルエンサー、資産家になれたはず。
悔しくはあるが、ただ悔しがっていては他の負け犬たちと同じだ。
そこで私は、事務次官を目指すことにした。
なぜならこの国においては、バカで有権者に媚びを売ることしか考えない政治家よりも、官僚の方が力を持つことができるからだ。
その後、AIやゴーレムの普及により、生涯安泰と言われていた官僚の世界にも大きな変化が訪れ、リストラや採用減があって多くの上司、同僚、部下がリタイアしていくなか、私はキャリアを積み上げ、出世競争に勝利した。
「(しかし。それはスタートでしかない。まずは事務次官として、功績をあげなければ……)」
今、日本で問題となっているのは、ダンジョンからの産出品の価格が下がらないことだ。
これまで多くの官僚、政治家がどうにかしようと奮闘したが、急激な上昇を抑えるのが精一杯だった。
日本は世界一のダンジョン大国であるが、すでに世界は全銀河系に広がっている。
どの国や惑星国家でもダンジョンからの産出品が不足しており、これを手に入れるためにお金を惜しまない状態が続いていた。
ダンジョン大国なのに、他の国や惑星国家に買い負けた日本は、ダンジョンからの産品の価格が上昇し続けている。
だが、この問題の解決は非常に難しい。
下手に日本の冒険者からダンジョンの産品を安く叩こうとすれば、簡単に他国や他惑星に逃げてしまうからだ。
冒険者としても、命がけの対価を安く買い叩かれては堪らない。
たとえ宇宙人にでも、少しでも高く買い取ってくれる人に売るのは当たり前だ。
それでも強引に価格を押さえればいいという意見も少なくなかったが、日本は汎銀河連合への加入を目指すと公言している。
汎銀河連合に加盟している国は、ダンジョンからの産出品の自由な売買を認めるこが条件となっており、だから古谷良二が責任を持って供給量の増加と、自由な売買ができる取引所の設置を増やしているのだから。
「(しかし、このままでは……)」
またも、ダンジョンからの産出品の価格が下がらなければ、国民と政治家たちが大騒ぎするだろう。
当然、我々官僚たちへの批判も大きくなるだろう。
それなら税金で補填……というのも難しい。
幸いにして、経済成長が続いている日本の税収は増え続けていたが、だからといって財源は無限ではないからだ。
「(さて、どうしたものか……。やはり……)」
同級生が古谷良二だった。
その縁を利用……だが……。
「(確かに私は古谷良二と同じクラスだったけど、別に親しかったわけではない)」
はたして、古谷良二が私を覚えているのか?
以前、アニメ産業の銀河系進出に関する話し合いを責任者としたのだが、なんとその人物は同級生の山田だった。
好きなアニメ、漫画、ゲームで稼げるようになって羨ましい限りだ。
正直腹も立ったが、日本のアニメ、漫画、ゲーム産業の経済貢献度は高いなんてものじゃない。
山田を紹介した与党の政治家たちも、『山田さんの機嫌を損ねたら、即座に左遷コースになるぞ』と私を脅したくらいなのだから。
そういえば、前任者が突然左遷されたが、彼は漫画、アニメ、ゲームにまったく興味がなく、むしろバカにしていたし、『あんなものを銀河系に紹介するなんて恥ずかしいし、補助金を出すなんて反対です!』と言っていたのを思い出した。
「(とはいえ、元同級生である事実に違いはない。そこを利用して……)」
しかし、ここで変に偉そうに強気で出たら、交渉も上手くいかない。
「(私は将来、総理大臣になる男だ!)」
トップエリートである私が、冒険者の如き野蛮人に頭を下げるのは業腹であるが、これも将来総理大臣になるためだ。
私は、古谷良二に依頼のメールを送るのであった。
※※※※
「というわけで、このところのダンジョンの産品の価格の上昇は無視できないものがあります。どうにかならないでしょうか?」
「手はなくはないんだけど……」
「是非お願いします!」
なんとか手を尽くして元同級生の古谷良二と顔を合わせたが、こんなにオーラがある奴だったかな?
役所の同僚も後輩たちも、経済産業省に姿を見せた彼を畏怖の表情で見ていた。
元同級生で、成績も容姿も普通の奴にここまで差をつけられたことは屈辱だが、ここで変なプライドから自分の方が上だと思い込み、古谷良二を自分の好きに使おうと画策するも失敗し、最後には破滅した政治家、官僚、財界人、インフルエンサーは掃いて捨てるほどいる。
「(将来、私が総理大臣になるためだ)」
そのためなら、私は古谷良二に媚びることを厭わない。
なぜなら私は、過去にちっぽけななプライドのために古谷良二を敵に回し、自滅したバカたちとは違って真に優秀だからだ。
「ダンジョン攻略の効率化を進めるしかない」
「ダンジョンの効率化?」
「つまり、低階層をゴーレム軍団で攻略させてみてはっきりしたんだけど……」
すでにダンジョンと冒険者が出現して三十年以上の月日が流れ、今はただ冒険者をダンジョンに送り出すだけでなく、攻略効率を重視しなければならないと、古谷良二は説明する。
「冒険者特性を持たない冒険者や、低レベル冒険者たちがそれぞれバラバラにダンジョンの低階層で活動するよりも、無人のダンジョンでゴーレム軍団だけを稼働させた時の方が成果も多いとデータに出た」
古谷良二からの説明は理に叶っていた。
新人で冒険者特性も持たない冒険者の成果などたかが知れているし、同じ階層内で成果の奪い合いも発生する。
倒したモンスターの素材の解体が下手で品質が落ちたり、量が減ることだってあるだろう。
「一方ゴーレム軍団は、最初から効率よくモンスターを狩るでしょうからね」
「ええ」
これは他の仕事でAIやゴーレムを使う時と同じだが、新品でも情報センサーにリンクすれば、これまでの知識と経験を使ってベテランのようにうにう働けるからだろう。
「つまり、日本のダンジョンの低階層は、すべてゴーレム軍団で運用した方がいいってことですか」
「数値だけを見ればそうなるかな。だけど……」
「新規に参入する冒険者は不利になるし、冒険者特性を持たない冒険者は仕事すらなくす可能性があるのか……」
「効率を重視すれば必ずそうなる。日本国内でダンジョンが増える可能性はかなり少ないし、結局のところ海外に買い負ければ意味がないってのもある」
すでに世界は全宇宙に広がった。
過去には地球内のみでグローバリズム派と反グローバリズム派の激しい争いがあったが、その答えが出る前に、世界は勝手に宇宙と繋がってしまった。
地球に統一政府を作れず、地球は汎銀河連合にも加入できない未開の惑星扱いであったし、独自に他の惑星に人や物を送り出すに至っていない。
だがそれでも、全宇宙にダンジョンが出現して資源とエネルギ-をそこから得なければいけない状態に陥ってしまったため、全宇宙から地球のダンジョンで産出した品を買いに来る宇宙人は増える一方であった。
日本のみならず地球の国々が、宇宙人たち相手にダンジョンからの産出品を買い負けているのも、ダンジョンからの産出品の価格が上がり続ける要因でなのだ。
中には、ダンジョンからの産出品の輸出禁止にする国も出てきたが、不思議とそういう国はダンジョンの産出品の輸入で買い負けてしまう。
結局ダンジョンからの産出品の不足と値上がりが止まらないという悲劇に見舞われ、政権が倒れる国も珍しくなかった。
「日本の低階層、たとえば五階まではゴーレム軍団のみに任せると、今の産出量の35パ-セント増しになるけど……」
「世論の反発は必至ですね」
低レベル冒険者と、冒険者特性を持たない人はどうするんだって話になるからだ。
「そこは国が補助してレベリングと実戦訓練を施し、短期で中階層に挑めるようにすれば、もっと産出量は増える。冒険者特性がない人には、マジックアーマーのレンタルや購入時に補助金を出せば……財源があればだけど。そしてこの施策を始めると、冒険者になりたての低レベル冒険者は、最初他の惑星のダンジョンで活動するようになるだろう」
日本のダンジョンの低階層をゴーレム軍団に占拠されるようになるので、自然と訓練は他の惑星になるってことか。
「月とデナーリス王国のダンジョンは初心者お断りなので、自然と他の惑星のダンジョンで経験を積むようになるはずだ。他の惑星国家のダンジョンは、まだ冒険者が足りないから歓迎されるから」
だがそうなると今度は、初心者を脱するために他の惑星で仕事を始めた冒険者が、戻って来なくなる危険も出てくるのか。
「他の惑星国家、冒険者優遇政策を掲げているから」
そうなると、日本から冒険者が大量に流出することになるのか……。
「大半の冒険者は、中階層やよくて深階層の入り口ぐらいでキャリアを終える。それならどこの惑星のダンジョンでもいいわけで、買い取り金額が日本よりも多くて、税金が安かったら、レベルを上げても日本に戻って来なくなるかもしれない」
「むむむむ……」
どうして歴代の政権や大物官僚たちが、この問題に手を出さなかったのかようやく理解できた。
「このまま少しずつ、ダンジョンからの産出品の価格が上昇している今が一番健全という意見も少なくないんだ。ダンジョンの低階層攻略にゴーレム軍団を使うと、これも失業率の上昇を招くから」
「……」
これは困った。
このままにしておくのが一番安全ではあるが、物価高で現政権の支持率が徐々に低下しているのも事実であり、なによりこのままでは私が凡百の事務次官で終わってしまう。
なにかしら斬新な政策を実行して、私の功績と名前を世に知らしめなければ。
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