第277話 VIPパーティー

「ミーチューブを運営している会社から、パーティーの招待状が届いた」


「私もですわ」


「リョウジ君は当たり前として、ボクやイザベラ、アヤノ、リンダ、ダーシャ、デナーリス、リナ、タケシも招待されてるよ」


「行こうかどうか、悩むな」


「だよねぇ、これまで一度も出席したことないし」


「毎年開催している動画配信者のパーティーならともかく、今回は厳選された招待客だけしか招待されていませんし、ビルメスト王国とデナーリス王国の女王陛下とイギリスの伯爵、他にも世界中の動画配信をしているセレブたちが招待されていますから、警備は厳重だと思います。里奈さんなら、こういうパーティーにお詳しいかと……」


「国内の有名動画配信者が出席するパーティーに毎年参加していましたけど、問題行動を起こしたり、ナンパしてくる人たちがいて、私はすぐに帰っていました。ですが、このパーティーは不定期開催で、真に厳選された動画配信者たちしか参加でにないので安全だと聞いています」


「リナさんは、招待されたことがないんですか?」


「ありません。このパーティー、ただチャンネル登録者が多ければ呼ばれるという種類のものではないんです。有名な動画配信者でも、招待するのに相応しくないと判断されると……たとえば炎上系や、迷惑系の人や、問題を起こしたことがある人は招待されないとか……。かといって、いくら身分が高かったり資産があったとしても、動画配信をやっていない人は呼ばれませんから……」


「その条件なら、私たちってこれまでに招待されてそうなのにね」


「招待しても来ないだろうと思われたのでしょう」


「確かに、私たちって忙しいものね」


 ダーシャとデナーリスは、女王様なので忙しい。

 なにより、動画配信者のパーティーよりも他のパーティーを優先するだろう。


「せっかくなので、一度くらいは参加してみようか。どんな人が来るんだろう?」


「それはパーティーに参加してからのお楽しみですね」


「イザベラの知り合いが参加してたりして」


「どうでしょうか? 動画配信をやっていて、有名な方はいなかったはずです」


「変な奴は来ないみたいだから、みんなでパーティーを楽しもうじゃないか」


 というわけで俺たちは、特別な゙動画配信者しか出られないパーティーに参加することになったのであった。





「ですから、このパーティーは動画配信者の中でも、特別な゙方しか出られないんです。えっ? 動画を始めた? いえいえ、そんな動画を始めてすぐの方は招待できませんよ」


「どうした?」


「また政治家からですよ。我が社のVIPパーティーに参加させろって。動画配信者限定だって断ったら、動画を始めたって言ってきまして、調べてみたら、チャンネル登録者はたった数百人。動画配信を始めてすぐにバスったのならともかく、こんな数字では招待できません。ミスタフルヤ目当てでしょうね」


「他に、突然古臭い政治家や企業経営者が、動画を始める理由を思いつかないな」


 動画配信サイト『ミーチューブ』を運営する我が社の稼ぎ柱にして、大物株主であるリョウジ・フルヤ。

 どうにか彼を動画配信者が参加するパーティーに参加させたかったのだけど、動画配信者ってのは、ちょっと頭のネジが外れている人も一定数混じっている。

 彼らとミスタフルヤを会わせるわけにいかず、参加者限定のVIPパーティー開催のため、これまで綿密に準備を整えてきた。

 人格、身分共によく、それでいて動画配信者として数字を稼いでいる。

 条件が厳しいので参加者は限定的になったし、参加者を選ぶのは骨だった。

 ようやく招待状を送り、ミスタフルヤと彼の奥さんたちからも参加の了承を取ったのに、どこから聞きつけたのか。

 政治家や企業経営者などが、パーティーに参加させろと要求してきた。

 彼らの目的は容易に想像できたが、そんな要求が受け入れられるわけがない。


「彼らを参加させたら、もう二度とミスタフルヤたちはVIPパーティーに参加してくれなくなるぞ」


 彼らが限定されたパーティーにしか参加しない理由は、わざわざ説明するまでもなかろう。

 彼らに必要以上に絡んだり……そんなのはまだマシな方か……。

 自分の商売ために利用しようとしたり……それもまだマシだな。

 ストーカー行為や、女性配信者に性的によからぬことを企む者たちもいて、動画配信者とは冒険者と同じく本当にピンキリな存在なのだ。

 詐欺の片棒を担がせようと狙ってる奴までいて、普通の動画配信者パーティーでも、過去に何度も酷い目に遭った。

 有名な動画配信者が不祥事で駄目になってしまったり、我が社が詐欺の片棒を担いていたのに動画配信者に押し付けて逃げた、なんて根拠のない批判をされたりもある。

 だから我が社としても、変な人をVIPパーティーに招待しないよう、厳密に下調べをする必要があって大変だった。


「ミスタフルヤや、彼の奥さんたちレベルになると、多くのストーカーを生み出してしまいそうですしね」


「そんなのまだマシな方だ」


「そうなんですか?」


「ああ、ミスタフルヤの殺害を目論む奴も出かねないな」


「ファンなのにですか?」


「ファンだからさ」


 ファンだからこそ、自分だけのものにしたい。

 そのために殺す。

 そんな理由で、好きなインフルエンサーを殺そうとする奴は過去にもいた。

 ミスタフルヤにも、そういう奴がいないという保証はないのだ。


「ゆえに、ただの政治家や企業経営者なんて招待できないな」


「それを聞いたら、向こうは発狂しそうですね」


「変にプライドだけは高いからな」


 どうにかミスタフルヤと縁を結び自分の利益とするためえ、強引にVIPパーティーに参加しようとする奴なんて、所詮は二流以下だ。

 一流なら、この機会を利用せずともミスタフルヤに会えているだろう。

 もしくは、無理に会わなくても仕事はできるはずだ。

 駄目だからミスタフルヤに相手にされていない。

 今も我が社に相手にされていないけど。


「まがりなりにも、政治家と企業経営者なんですけどね」


「政治家や企業経営者だからって、昔ほどの力はないさ」


 この世界にダンジョンができ、冒険者が台頭してきたら、それが明白になってきた。

 大物や一流は例外だが、ただの政治家なんて案外金がなくて、寄付をくれる金持ちの言いなりだったりするからだ。

 企業経営者だって、資本家やインフルエンサーを兼ねた冒険者の台頭でどれだけの人たちが没落したか……。

 レベルアップの影響で知力が上がり、自前で事業資金が出せる冒険者起業家に駆逐される既存の企業経営者は多かった。

 ミスタフルヤと縁を結ぼうとする企業経営者は、かなり困窮している人も多いはずだ。


「エネルギーと資源を自力で獲得し、それを売ったお金で会社を経営。動画配信者としても顔と名前が知られている。ミスタフルヤを始めとして、しばらくは冒険者がこの世界の主役になるだろう。彼らの機嫌を損ねるわけにいかないが、オワコン政治家や企業経営者に嫌われたところで、我が社の経営は揺るがないさ」


 そうでなくても、我が社の業績はミスタフルヤの影響が大だからな。

 彼の動画を独占配信することで、どれだけ売り上げがあがったか。 

 彼のおかげで、奥さんたちを含む多くの有名冒険者が、我が社と独占契約を結んでくれたというのも大きかった。

 それに加えて、気がつけばミスタフルヤが経営する古谷企画が、我が社の大物株主になっていたのだ。

 ミスタフルヤが我が社と独占契約を結んだ直後からプロト2社長が徐々に株を買い増していたそうで、我が社の業績向上による株価の上昇や配当金で大儲けし、その利益でさらに株を買い増した。

 他にも、古谷企画が大株主になっている世界の大企業は多い。

 彼は、稼いだお金でさらに力を増していた。 


「ミスタフルヤは、我が社の大切な大株主でもあるのだ。ただの政治家や企業経営者に気を使う意味なんてない。もし彼になにかあったら、CPOも会長も激怒するなんてものじゃない。我々のクビが飛ぶぞ」


「……変な参加者はすべて参加不許可で!」


「当たり前だ」


 それに、ミスタフルヤが参加するパーティーは非常に少ない。

 彼はイギリスのナイトの称号を持つので、国王陛下主催のパーティーと、ビルメスト王国の女王陛下の王配なので、ビルメスト王国主催のパーティー。

 あとは、実質的なデナーリス王国の国王なので、デナーリス王国主催のパーティーと、懇意にしているイワキ工業主催のパーティー。

 このくらいかな。

 彼がちゃんと参加するのは。


「イワキ工業のパーティーですが、えらく出席者の選定が厳しくなりましたからね」


「以前、ミスタフルヤを暗殺しようとした参加者がいたらしい。それ以降、イワキ工業のパーティーに参加できることがステータスという評価になった。我が社もそれに続けと、CPOと会長が檄を飛ばしている」


「参加者の選定とチェックは、やりすぎなんて言葉はないくらい慎重にやらないといけませんね」


「そうしてくれ。万が一もあってはならないのだから」


 そんなパーティーに一般人が出席するには、イワキ工業か我が社に勤めるという手がある。

 上手く入社できても、パーティーの仕事を割り振られなければ駄目だけど。

 それと、イワキ工業も我が社も、なかなか就職できないことで有名だがね。





「……せっかく参加したけど……」


「誰も近寄ってきませんわね」


「なんか、ボクの考えるパーティーと違うなぁ」


「私たち、警戒されているのでしょうか?」


「私たちって、冒険者だから恐れられているとか?」


「私たちを中心に、輪ができてますね」


「こうなったら、食べるしかないわね。リョウジ、食べるわよ」


 せっかく参加したVIPパーティーだったけど、なぜか他の参加者がたちが誰も喋りかけてこなかった。

 世界的に有名な動画配信者ばかりだから、こっちから話しかけるのも緊張してしまうので、そのうちミーチューブ運営会社の社員さんたちが紹介でもしてくれるのかと思ったら、誰も動かないという悲劇。

 仕方なしに飲み食いに集中すると、さすがはVIPパーティー。

 美味しいものばかり並んでいるので、つい大食いしていたらパーティーが終わってしまった。


「ビュッフェじゃねえか!」


「それな!」


 剛のツッコミに賛同する俺。

 パーティーで変な人に話しかけられるもの嫌だけど、警戒されているのか、誰からも話しかけられないのも困るので、来年はなんとかしてほしい。




「……ミスタフルヤと奥さんたちが参加するので、失礼がないようにと事前に他の参加者たちに知らせておいたら、誰も話しかけませんでした。お料理と飲み物は気に入っていただけたようです」


「……来年に向けて、改善が必要だな」


「ええ……」


 とはいえ、気軽にミスタフルヤに話しかける動画配信者たちは危険だし、人前が本当に難しいな。

 誰かこの仕事、変わってくれないかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る