第243話 ブランド化

「おおっ! スープが輝いてる!」


「ブラックドラゴンの骨だけでスープを取ったのだ」


「スープの味が深い! 良二、こいつはうめぇ」


「このネタで、漫画原作を始める予定でござる。今度はガッツリ系のラーメンを作りたいでござるな」


「濃厚な旨味があるけど、しつこくありまけんわね」


「スープが透き通ってて、綺麗だなぁ。清湯なのにこんなに旨味が強いなんて凄いよ。さすがはブラックドラゴンの骨だね」


「麺もコシがあっていいですね。ブラックドラゴン肉のチャーシューも美味しいです。さすがに煮卵は、ブラックドラゴンのものではありませんか」


「大きすぎて、丼に入らないんだよね、これが」


「ジャパニーズラーメンは人気あるわよね。私も大好きだけど」


「ラーメンは海外の観光客にも人気ですからね。最近、ビルメスト王国人冒険者が定期的にSNSで画像をあげるので、ビルメルト王国にも日式ラーメンのお店ができましたから」


「私、ラーメンも大好きよ。こっちの世界には美味しい物が沢山あるわね。そりゃあ、リョウジが帰りたがったわけよね」


「おいちい」


「おかわり」


「そうか、。美味しいか。沢山食べるんだぞ」


 家族サービスとして、剛と同志山田と一緒にラーメンを作ってみた。

 まずは、2500階層まで成長した上野公園ダンジョンでブラックドラゴンを倒す。

 それを持ち帰って解体し、その骨を大鍋で下茹でする。

 一度お湯はすべてこぼし、下茹でした骨をよく洗って血合などを取り除いてから、再び水と骨だけで高火力で煮て出汁を取っていく。

 水は、ダンジョンに湧いている霊水を。

 あとは下茹したブラックドラゴンの骨と、チャーシュー用の肉だけだ


「こうすることで、ブラックドラゴンの骨と肉の旨味だけのスープを取るのだ」


 ただ、普通の火力ではブラックドラゴンの骨と肉から旨味を取り出すことはできない。

 上位の火魔法レベルの火力を半日維持しないといけないので、ブラックドラゴンラーメンは食材自体の希少性と合わせて、かなりのお値段となってしまうだろう。


「麺は、黄金小麦を品種改良してラーメンの麺によく合うようにした新品種を。メンマはダンジョンバンブーの中にたまにいるリトルダンジョンバンブー、動くタケノコから作る。骨と一緒に煮ていたチャーシューは柔らかい。煮卵はコカトリスのものでも大きいから、放し飼いした鶏の卵を使っているけど」


 たかがラーメンに随分と手間隙かけたけど、イザベラたちと子供たち、剛とその家族、同志山田夫妻も美味しそうにブラックドラゴンラーメンを食べていた。


「これを出したら、凄く流行りそうだな」


「剛殿、問題はこれをいくらで売れば元が取れるかでござる」


「値段かぁ。それは問題だな。で、どうなんだ? 良二」


「ええと、一杯百万円でトントンです」


「百万? マジで?」


「マジで百万でも利益ゼロ。量産すれば、百万でも利益が出るってプロト1が。『アイテムボックス』のおかげで廃棄が出ないから、それは救いだな」


「……誰が買うんだ? これ」


 これでも前よりは安くなったけど、まだブラックドラゴンを狩れる冒険者は少なく、他の食材だって決して安くはない。

 俺の人件費なども考慮すると、どうしてもその値段になってしまうのだ。


「売るのは無理でござるな」


「やってみるのだ」


「やんのかい!」


 これまで静かにしていたプロト1が、希少モンスターから取れる食材を使った、超高級料理の販売を始めると宣言。

 心配……はもうしてないけど、『一杯百万円のラーメンなんて誰が買うんだろう? 』と、思ってしまう俺であった。


「ラーメンの煮卵には使えないけど、ブラックドラゴンの卵でオムレツを作って、オムレツ好きの心を揺さぶるのだ」


「心を揺さぶるのはいいけど、それはいくらで売るんだ?」


「ブラックドラゴンの卵は貴重なので、一人前一千万円なのだ」


「もっと高え!」


 ブラックドラゴンの卵は、ブラックドラゴンを十匹倒して一匹の割合でしかドロップしないので、高くて当然というか……。


「問題は、売れるかだな」


 今の時代、料理は高品質でリーズナブルか、超高品質で希少性があり、アイデアも駆使した超高価なものしかないといっても過言ではない。

 中価格帯の飲食店はかなり消えたからなぁ。

 とはいえ、さすがに食べると消えてしまうものに百万円や一千万円を払えるかどうか。

 そこは疑問ではあった。

 お店なら高レベル冒険者が通うのだが、ブラックドラゴンラーメン、オムレツは通案で売る計画だからだ。


「赤字にはしないのだ」


「プロト1に任せるよ」


「任されたのだ」


 プロト1は、どんな事業でも赤字にしたことがないからなぁ。

 そこは信用できるし、実はブラックドラゴンの素材は、俺が定期的に鍛練名目で倒しているから素材が余っていた。

 たまに安く放出しているが、高く売れるならそれに越したことはない。


「高級料理として売るのだ」


 こうしてプロト1は、高価なモンスター食材を使った、超高級料理の通販を始めるのだが……。




『これが、百万円のブラックドラゴンラーメン……。しかも一人前です。早速作ってみましょう』


『どんな味なんだ? おおっ! 温めたスープが光ったぞ!』


『早速いただきまぁーーーす! ……なにこれ? 今までに食べたことない強烈な旨味を感じる。こんなに美味しいスープは初めてだ!』


『ブラックドラゴンのチャーシュー、ジューシーで柔らかくてうめぇ』


『もう食べ終わっちゃった。また食べたいなぁ』



 ブラックドラゴンのラーメンが発売されると、世界でトップクラスの動画配信者たちがこぞってこの商品を紹介し始めた。

 プロト1が頼んだ宣伝なのかと思ったら、みんな案件じゃなくて自前で購入したと動画で説明している。

 冷凍麺なので自分で作って食べ、その味を絶賛していた。


「しかしまぁ、よく動画の企画とはいえ、百万円のラーメンを買うよな」


「百万円のラーメンなんてそうそう食べられるわけがないから、それを経費で購入できるトップクラスの動画配信者たちは、視聴回数が稼げると考えて購入するのだ。自分たちは一流だから、百万円のラーメンを買える。そして彼らのファンがその動画を見て楽しみ、中には試しに購入してみる人が出るのだ」


 確かに、動画やSNSで『覚悟を決めて、百万円のラーメンを買ってみました!』的な投稿が増えていた。


「話題になってくると、段々と、自分も百万円ラーメンを購入して食べる動画をあげないと、トップ動画配信者とは言えない、的な空気が出てくるのだ」


 ライバルがブラックドラゴンラーメンの試食動画をあげているのに自分がやらなかったら、沽券に関わるってことか。


 そのおかげで販売数も増え、最初百万円でも収支はトントンだったブラックドラゴンラーメンだったが、量産効果で利益が出るようになってきた。


『古谷企画で販売を始めたブラックドラゴンラーメンですが、チャーシュー麺も百五十万円で販売することになりました。他にも、ブラックドラゴンの卵を使ったオムレツ、ステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶセットなどなど。新商品が続々と出るのでこうご期待。他のモンスター食材を使った『至高の料理』シリーズをよろしくね』


 モンスター食材を使った料理は以前から売られていたけど、プロト1のは値引きもせず、強気でブランド効果を狙った商品を出し、見事成功したってことか。

 俺やイザベラたちも動画内で試食、宣伝をするのは当然として、他の動画配信者たちが動画のネタとして食べてくれるので、その存在はあっという間に広がっていく。


「多くの人に知られれば知られるほど販売数も増え、実際に食べた人の口から、他の人に商品が知られていくのだ」


「……インフルエンサーの特質を上手く利用して、こちらの宣伝費を無料にしたのか……」


 正規のルートで彼らに宣伝を頼むと多額の広告費がかかるが、動画の視聴回数が伸びると判断すれば、インフルエンサーたちはブラックドラゴンラーメンを自腹で購入する。


「当然だけど、黒字なのだ」


「だろうな」


 最初は、百万円のラーメンなんて本当に売れるのか怪しいと思っていたけど、高価なモンスター食材を使った超高級料理の販売事業も無事黒字化に成功するのであった。

 そんなに数は出ないのは当然として。




『……。さすがに、『ロックゴーレム』は食べられないよなぁ』


『古谷殿、もしかしたらイケるかもしれないでござる……ただの岩でござるな。うっ、歯が……』


『あとで治癒魔法で治してやる。他にいくらでも食べられるものがあるんだから、無理にもしかしたら食べられるモンスターを探すのなんてやめないか?』


 美味しいモンスター、高価なモンスターのネタは出尽くした感があるので、俺、剛、同志山田で、さすがにこれは食べられないだろう、というモンスターを調理して試食する動画を流していた。


 クレイジーツリーは木のモンスターなので、どれだけ煮ても柔らかくならなかった。

 いくら割りばしを調理しても食べられないのと同じだ。

 ロックゴーレムは岩なので、同志山田が齧って歯が欠けたと騒いでいた。

 他にも……。


『レッドフィッシュ……新鮮なのに生臭ぇーーー! うぇーーー!』


『これは駄目だろう……オエ!』


『無理でござる!』


 海の階層で倒した魚型モンスターの中に、衝撃的に不味いやつがいて、それを食べた瞬間、三人がそれを盛大に吐き出すシーンにモザイクが入る。

 動画編集あるあるだな。


『このビックシェルの身は美味そう……泥臭い!』


『良二、砂抜きというか、泥抜きをすればよくないか?』


『アサリじゃないから無理だろう』


 貝型モンスターの中にも、酷い味のやつがいる。 

 アサリやシジミから生きたまま砂抜きもできようが、貝型モンスターは倒さないと駄目なので、あとは調理方法を工夫するしかないのか。


『酒蒸しにしたけど……おぇーーー!』


『これはキツイ!』


『肝の部分だけでなく、身も泥臭いでござる! 少々の臭み消しでは効果がないのでござる!』


『……マジッククロース。良二、さすがに布は食えないだろう』


『剛殿、拙者たちは実際に食べてみてそれを確認しないうちは、絶対に食べられないと決めつけてはいけないのでござる』


『この動画の企画! 俺はマジで苦手だ!』


 イザベラたちを参加させるわけにいかず、俺、剛、同志山田で始めた『ゲテモノモンスター調理企画』だが、俺たちが試食で酷い目に遭っているところがウケ、世界中で人気となっていくのであった。




「良二さん、私もゲストに呼んでくださいよ」


「桃瀬さん、ビックリするほど不味いから、女性は呼べないんだよ」


「残念です……」


 確かに視聴回数は取れるかもしれないけど、女性にゲテモノモンスター料理を試食させるのはどうかと思う。

 そのくらい、食べらないモンスターは不味かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る