第19話 冒険者のコスト

「二年生になったから、始業式のために戻って来ましたよ」


「古谷さん、海外のお仕事は順調ですか?」


「それは勿論。ただ全部は終わっていないので、これからも、ちょくちょく海外に出かける予定です。夏休みまでにはすべて終わる予定……仕事が増えなければですけど」


「ははは……相変わらず凄いですね。で、古谷企画はようやく一年目の決算を迎えたのですが……」





 四月。

 俺は無事二年生になった。

 仕事はとても順調で、今は新規の仕事はほとんど断っている状態だ。

 俺の正体って、世間にあまり知られていないはずなのに、仕事が減らないのはどういうことなんだ?

 依頼された国のダンジョンを攻略しながら動画を撮り、詳細な地図も作成し、生息するモンスターの情報なども各国の政府に提供する。

 撮影した動画はプロト1によって編集され、それを独占契約を結んだ動画配信サイトに順次にあげていく。

 俺のダンジョン探索情報チャンネルと、ダンジョン探索『後』情報チャンネルは、今では登録者数と視聴回数が世界一のチャンネルとなっていた。

 最近、岩城理事長の会社が、ようやくダンジョン内で撮影可能なビデオカメラの販売を始めたので、低階層の様子をテレビ番組で放映するのが精一杯という状態なのに、俺のチャンネルでは二百階層以下の映像と、モンスターとの戦いの様子が配信されていたからだ。

 ビデオカメラを装着したドローン型ゴーレムでの撮影に慣れてきて、任せとけば『魅せる』絵を撮ることができるようになった。

 そのおかげで。冒険者でない人たちも多数、俺のチャンネルを見るようになっていたのだ。

 サブチャンネルでやっている、モンスターの素材を使った料理の動画も本チャンネルに負けない視聴回数を稼いでおり、その他に冒険者としての収益もあるので、設立一年、従業員一人の一人法人にしては驚異的な収益を稼ぎ出していた。


「とんでもない売上と利益ですね……経費なんてたかが知れてますから余計に……」


「経費かぁ……そんなにないよね」


 本社を自宅の一室に設置しているので、家賃と光熱費の按分ぐらい?

 一人で活動しているし、交通費は『テレポーテーション』のおかげでほとんどかからない。

 海外に招待された時も、向こうが交通費を出すか、チャーター便を出してくれるからなぁ。

 動画配信業でかかるのは、電気代と通信費ぐらい。

 パソコンは新規購入したけど、ビデオカメラはどうせ色々と改良しなければいけなかったので、ネットのフリーマーケットで一番安いやつを買ってしまった。

 経費は、売上と比べたらないに等しい。


「ちゃんと納税すればいいんでしょう?」


「税務署の人たちも、驚愕の決算内容ですけどね。どうしてこんなに経費が低いのに荒稼ぎしているんだろうって」


「それは俺が冒険者で、今や世界一の動画配信者ですから」


「まあそうなんですけどね。でも普通の冒険者って、案外経費がかかるみたいで。それは同業者から聞きました」


「ああ、武器や防具って、高性能なものほどメンテナンスで経費がかかるんですよ」


 ゲームみたいに、手入れもしないでずっと使えるなんてことはありえない。

 自分でできる作業もあるが、できなければプロに依頼するしかないのだ。

 そしてメンテナンスに武具を出している間、冒険者も遊んでいるわけにいかないから、予備の装備を用いて低階層で活動する者たちも多かった。

 治癒魔法が使えなければ、最近ようやく生産職の人たちが製造したり、ダンジョンでドロップするようになったポーションの費用も必要となる。

 もしものためにある程度予備が必要なので、こちらも経費はかかるというわけだ。


「武器は、俺はダンジョンの中で手に入れた素材から作ったり、既存の武器を改良できたりするので、買ったことはありませんね」


 俺が作った方が性能も耐久性もいいし、自分が作ったり改良したものだからこそ、メンテナンスや修理がしやすいというものもあった。

 ダンジョンで、運よくドロップした高性能な武器に喜んでいたら、持て余して売却する冒険者というのも珍しくない。

 維持費で赤字になってしまうのだ。

 その前に、俺は向こうの世界で山ほど武器と防具を手に入れていたというのもあった。

 簡単なメンテナンスなら、プロト1が操るゴーレムたちに任せてしまうので、時間もそんなにかからないんだよなぁ。


「ゲームみたいに、最初のレベル1の状態で一番強い武器や防具を手に入れても、現実世界では持て余すんです」


「普通の人が銃を手に入れたとしても、撃つくらいはできますが、弾丸を手に入れたりメンテナンスをするのは難しいですからね。戦車やジェット戦闘機ならもっと難しい。そういうことですか?」


「そんなわけで、冒険者は意外と金がかかります」


 実は、スライムを狩るくらいならそうでもないけど。


「深い階層に潜って強いモンスターを倒し、高額の素材を手に入れるには、相応のコストがかかるんですね」


「そういうことです」


「古谷さんの給料とわずかな経費以外は太陽銀行の口座に入ってますし、納税に問題はないでしょう。税務署もなにも言ってこないと思うんですよねぇ。ただ……」


「ただ?」


「古谷企画にお金があることがバレしまうので、おかしなことをしてくる人が増えてくるかもしれません。もしなにかあった時は、すぐに顧問弁護士に相談してくださいね」


「いましたね。顧問弁護士」


「いましたよ。これまでは暇だったと思いますが、これから忙しくなるかもしれないなぁ……。人はお金持ちになると、変な知り合いが増えるんですよ」


「なるほど」


 確かにそんな話はよく聞くので、これからは気をつけないといけないな。

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