異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます！

第1話 稼ぐ冒険者には、わずらわしいことが多い

「メールかぁ……税理士事務所から……いったいなんの用事なんだ？　なになに？　……古谷さんの会社を上場しないかと、証券会社からお誘いがありました。一応、伝えておきます。『上場すれば、あなたは莫大な利益を手に入れられます』だそうです。……。今でも十分に大金持ちだし、どうせそんなに金があっても使いきれない。だいたい俺は、従業員を雇ってないっての。どうやって上場の条件を満たすんだよ」

「良二様、オラがいるじゃないですか」

「『プロト１』は『特級ゴーレム』で、従業員ではないな」

「備品みたいな扱いですかね？」

「みたいなものかな？　渡しておいた動画の編集と投稿、各種ＳＮＳの更新に問題はないよな？」

「順調ですよ」

「ならいいんだ。あとは任せた」

「了解です」

　今日も朝からダンジョンに潜り、平均的な稼ぎ（俺基準）を得てから自宅に戻ってメールを確認する。

　それが終わると、自宅兼古谷企画の本社がある高級マンションの一室で、様々な業務を任せている特級ゴーレムプロト１に、頼んでいた仕事をちゃんとこなしたかどうかを尋ねた。

　プロト１に限ってミスはないと思うが、念のためである。

　プロト１は、俺が『向こうの世界』で最初に作ったゴーレムだ。

　通常、ゴーレム職人は腕を上げる度に古いゴーレムを破棄し、新しいゴーレムを作る。

　だが俺は、日本人的なこだわりもあったのであろう。

　わざわざ手間をかけて、初めて作ったプロト１を改良し続けた。

　そのおかげであろうか？

　プロト１は少し人間臭くなり、俺の仕事のほとんどを任せられるほど高性能になった。

　俺が出かけている間、頼んでいた業務をちゃんとこなしてくれるのだから。

　こう見えてプロト１には高度な戦闘力もあるので、留守を任せても安心だ。

　プロト１と、彼が使役する多数の多目的ゴーレムがあれば、人を雇う必要がない。

「良二様、『古谷企画』を上場するんですか？」

「いや、しないよ。だって面倒だもの」

　会社が儲かっていると、上場した方がいいと言ってくる人たちが必ずいる。

　頼んでいる税理士が教えてくれたが、俺の会社は一人法人だ。

　従業員数が足りなくて、上場できないんだよなぁ……。

　それに株主が増えると、おかしな経営方針を言い出す人が出てくるから怖い。

　ダンジョン探索で儲けていた冒険者が、何故か大勢の従業員を雇って法人を上場したばかりに、株主たちから『もっと儲かる事業を始めた方がいい』と言われ、なぜか不動産投資に手を出して失敗し、見事に破産したなんて話を聞く。

　正直意味がわからなかったし、この世の投資家や大株主と呼ばれている人たちの全員が、決して賢くはないのだと理解した瞬間であった。

　もしくは、欲で頭が呆けたのかもしれないな。

　非上場の一人法人で、俺が１００パーセント出資して株を押さえておれば、周囲の余計な雑念に惑わされることなく、ダンジョンに潜れるのだから。

「もし上場するのなら、オラも頑張って働きますよ」

「上場なんてしないよ。面倒なだけだし。プロト１は、通常業務で頑張ってもらわないと」

「任せてください」

　上場ねぇ……。

　現在の『冒険者成り上り社会』において、稼げる冒険者である俺は世間から注目されている。

　俺が、現役高校生だからというのもあるのであろう。

　だが俺は自分のペースで生活したいので、俺の名声と金を利用しようとするような連中とは関わりたくない。

　それに、ダンジョンに潜ってる間は公休扱いとはいえ、必要な出席日数を稼がなければ卒業できないのだから、学業を優先するに決まっている。

　たとえそれが、冒険者高校だとしてもだ。

「夕食はデリバリーで頼んで、少し休んだら、明日の登校に備えて寝るかな」

「おやすみなさいませ」

「おやすみ、プロト１」

　頼んだ夕食を食べ終わってからお風呂に入った俺は、明日の登校に備えて、この日は早めに就寝するのであった。

「あら、リョウジさんではありませんか。今日は登校日ですの？」

「ちょっとどうしても外せない用事があってね」

「リモートでも駄目なのですか？」

「これが駄目なんだなぁ」

「それはご愁傷様ですわ」

　自宅のある高級マンションを出て、冒険者高校までの道のりを歩いていると、道路を走る高級外車の後部座席の窓が開き、聞き慣れた声に呼び止められた。

　俺と同じく冒険者高校の『特別クラス』に属するイギリスからの留学生、イザベラ・ルネ・グローブナーであり、彼女は優秀な冒険者のみならず、伯爵家の当主でもあり、資産管理会社のオーナーでもあった。

　もの凄い金持ちなので、学校へも運転手つきの車で通っているというわけだ。

　それにしても、ロールスロイス・スウェプテイルとは……確か、特別仕様だと十億円以上するんだよなぁ。

「私もそうですが、そのまま校門まで歩いて行くと面倒なことになりますわよ」

「また増えたのか？　寄生虫たちが」

「ええ、その全員がリョウジさん狙いではありませんが、リョウジさんは一番人気ですから」

「俺が？　白銀の聖騎士であるイザベラさんじゃなくて？」

「そんな私を軽く凌駕する実力の持ち主であるリョウジさんのパーティに入りたい、多くの冒険者たち。ところがいざ、他の優秀な冒険者の方々を見れば、またそちらにも興味がわく。ようは、優秀な冒険者のお零れに与かりたいだけの面倒くさい方々ですわ。ああ、それと。リョウジさんの自称親戚、恩人、親友の方々が、毎日リョウジさんを校門前で探していると聞きました」

「あいつら、しつこいな」

　冒険者なのでレベルアップして知力が増しているとはいえ、イザベラさんは日本語がペラペラだった。

　まあ、今世界中の優秀な冒険者たちの大半は、流暢な日本語を喋れるけど。

　なぜなら、日本語ができた方がダンジョン探索で圧倒的に有利だからだ。

　俺が通っている冒険者高校にイザベラさんを始めとして留学生が多いのには、そんな事情もあった。

「というわけですので、私の車に乗った方がよろしいかと」

「これは、借りになるのかな？」

「まさか。私、この程度のことで他人に恩を売るほど落ちぶれておりませんから」

「じゃあ遠慮なく」

　後部座席のドアが開き、俺はイザベラさんの隣に座った。

　それにしても、さすがは特別仕様の高級車。

　座り心地が最高だ。

「ところで、リョウジさん」

「はい？」

　特別仕様車の座席の感触を楽しんでいると、突然イザベラさんが顔をぐっとち近づけてきた。

　金髪、碧眼の美少女で、スタイル抜群という。

　ラノベなら定番すぎるほどの美少女である彼女は、冒険者高校のブレザータイプの制服がとてもよく似合っていた。

　俺と同じ十六歳なのに、レアジョブ『聖騎士』を持つ優秀な冒険者であり、伯爵家の若き当主で、大金持ち。

　まさに、絵に描いたようなセレブというわけだ。

　冒険者としても非常に優秀で、その美しさから多くのファンもいる。

　そんな彼女に顔を近づけられると、無防備になった彼女の胸が俺の腕に当たるのには勘弁……不可抗力だな、これは。

「私たち、知り合ってもう半年以上も経つのに、『イザベラさん』と呼ぶのは他人行儀だと思いませんか？」

「俺たち、つき合っているわけじゃないから」

　友人ではあるが、恋人同士ではないからな。

「あら、私は、今すぐにでもおつき合いを始めて構わないと思っておりますのに」

「はははっ、イザベラさんは冗談が上手だなぁ」

　相手は本物の貴族様なんだ。

　代々由緒正しい一般庶民の俺となんて、釣り合いが取れないじゃないか。

「ひとたび男女が愛し合えば、身分差など関係ありませんのに……」

「嘘つけ」

　そこはあえて強く突っ込んでおいた。

　身分違いの恋なんて、実は自由と言われている現代社会でも滅多にないことなのだから。

「理想と現実の間に大きな壁があるのは事実ですし、決して打算がないとは言いませんが、『上野公園ダンジョン』の三十七階層で、私を含めてリョウジさんに助けてもらった全員が、リョウジさんをお慕いしているのは事実です。ですから、私のことをイザベラと呼んでくださいな」

　欧米だと、ファーストネームは呼び捨てだからいいのかな？

「イザベラ」

「はあ、とてもいい響きですわ。このままなし崩し的に、リョウジさんとおつき合いを」

「ええっ！」

「逃がしませんわ！」

「しまった！」

　ここは、イザベラの所有する車の中。

　運転手はイギリス人の渋い初老の男性で、長年仕えているご主人様の全面的な味方だろうから、俺を助けてくれそうになかった。

　普通こういうシーンって、男性貴族にか弱い女性が襲われるはずなのに、これじゃあ逆じゃないか。

「（まさか、車を壊して逃げるわけにも……イザベラに怪我をさせられないし……）」

「リョウジさん、このまま熱い口づけを！　むぅーーー」

　なんて残念なイギリス貴族なんだと思いながら、タコの口になったイザベラのキス攻撃をかわしていると、突然後部座席の窓ガラスがノックされた。

「はいはい！　なんの用事でしょうか？」

「車の窓をノック？　どなたですか？」

　イザベラのキス攻撃をかわしながら窓を開けると、そこには仏頂面をした同じ冒険者高校の制服を着た美少女がジト目をしていた。

　彼女も『聖闘士（せいとうし）』のレアジョブを持つ冒険者だ。

　香港から留学してきた武　紅花（ウー　ホンファ）という、艶やかなライトブラウンのロングヘアーと、スレンダーだがスタイル抜群の同級生であった。

　冒険者として活動する時には髪型をおさげにするが、『それもいい！』というファンがついているほど。

　彼女の実家も、香港やシンガポールに拠点を持つアジアでは有名な大物華僑の一族であった。

「イザベラ、抜け駆けかい？　さすがは卑怯なブリテン貴族だね」

「ホンファさん、こういうことに抜け駆けもなにもないと思いますけど。もしかすると、私に勝つのが難しいから、そのような負け惜しみを？　確かにその慎ましやかなお胸では……」

「ボクの胸が慎ましい？　年を取ると胸が垂れ下がるジョンブルには理解できないかもしれないけど、ボクの胸は標準なんだけどなぁ。形はとてもいいし。ねえ、リョウジ君」

「ええまあ……」

　確かに、ホンファさんの胸は標準……Ｃカップほどであった。

　イザベラは推定Ｆカップくらいか……さすがは大きい！

「だいたいホンファさんは中国の方なのに、語尾に『アル』がつかなくて、リョウジさんを失望させているではありませんか」

「イザベラ、それはどこの漫画の話かな？　だいたいキミの読む日本の漫画は全部古いんだよ！　今の世に、語尾に『アル』をつける中国人キャラなんていないから！　言うまでもなく、実在の中国人にだっていないからね」

「そうなのですか？」

「イザベラって、知り合いに中国人が多いくせに！」

「そう言われてみると……商談の時は日本語で会話しないので、気がつきませんでしたわ」

「リョウジ君、教えてあげなよ」

「イザベラ。俺はこれまでの人生で、語尾アルをつけて日本語を話す中国人に会ったことないけど」

「そうだったのですね！　ですが、リョウジさんは渡しません！」

「それは関係あるのか？」

「ふんだ！　こうすれば！」

　ホンファさんは開いた窓から素早く手を突っ込んで後部座席のドアロックを外し、すぐさま車に乗り込んでしまった。

　これで俺は、美少女二人に挟まれる格好となってしまう。

「ボクも、校門でおかしなのに絡まれる率が高いから助かったよ」

「ホンファさんも、私のように車と運転手を用意すればいいのです」

「うちの家風に合わないんだよねぇ。リョウジ君も同じみたいだから、ボクたちが結婚したらきっと上手く行くと思うな。伝統にばかり拘る古臭いジョンブル貴族と結婚すると、結婚生活で息が詰まって大変だよ」

「あなたの実家も、同じようなものではないですか」

「うちは自由な家風だから。ボクは跡継ぎじゃないしね」

「うちだって、ロンドンの大地主であるグローブナー本家の分家ですので。リョジウさんと結婚したら、東京に本拠を移しても問題ありませんもの」

「あのぅ……」

　勝手に、俺を婿にする話をされても困るんですけど……。

「良二様、この二人のような下品な女たちを相手にしてはいけません。ここは、由緒正しき鷹司家の出である私、綾乃が、あなたの可愛い奥さんになりますから」

「……綾乃さん。あまり市中で『テレポーテーション』は使わない方が……」

「ああっ、体のバランスが……」

「（綾乃さん……いい匂い……）」

　つい彼女の体を受け止めてしまったが、とても柔らかくて……これは役得だな。

「綾乃さん、日本の貴族ってお下品ですのね」

「なにが体のバランスが崩れただよ。そんなタマじゃないくせに。ボクとリョウジ君の間に入り込むな！」

「ホンファさん、車内で動くと危険ですよ」

「この性悪お公家娘め！」

「まあまあ、喧嘩しないで」

　いくら特別仕様の高級外車とはいえ、後部座席に四人となると狭いな。

　突然魔法で後部座席に現れたパーフェクト大和撫子は、分家ながら公家の一族だそうだ。

　ご多聞分に漏れず、実家は大きな会社を経営しているとかで、鷹司綾乃（たかつかさ　あやの）も大金持ちのお嬢様であった。

　よく手入れされた黒髪のロングヘアに、イザベラには少し負けるが推定Ｄカップの胸。

　冒険者高校で、男子生徒たちに大人気の同級生だ。

　イザベラとホンファさんも同じくらい人気だけど。

　綾乃さんもレアジョブ『賢者』を持つ、同じく特別クラスに属する同級生であった。

　同じクラスだから、同級生で当たり前？

　ダンジョンに潜る時には公休が無限に認められる冒険者高校において、毎日学校に通うというのは、冒険者としては実力が低いことを意味する。

　さらに、レベルアップに伴う知力上昇のおかげで、あまり勉強しなくても東大に合格できてしまう知力を持つ冒険者は多い。

　そのため、特に天才が集う特別クラスには、すべての学年の生徒が所属していた。

　ただ、今年の特別クラスには三年生が非常に少ないそうだ。

　俺たち二年生が豊作と言われており、今年は一年生が最初のクラスか、各学年のＡクラスから何人上がってくるか。

　冒険者高校に入るには、生まれ持った冒険者としての才能と、高い競争率の入試を突破する必要があったが、入学した一年生が短期間で爆発的に強くなるケースは少なくなかったからだ。

　実際この三人は、入学してから一ヵ月も経たずに特別クラスに移ることになった。

　俺は……二年になるのと同時に特別クラスに移ってきた。

　色々と事情があって、その前からこの三人と縁があったわけだ。

「お嬢様、もうすぐ校門です」

「裏口の駐車場に回ってくださいな」

「畏まりました」

　正面の校門には様々な多くの人たちが待ち構えていた。

　同じ冒険者高校の同級生たちもいるし、全然関係ない一般人も沢山いる。

　後者は校内に入れないので、こうやって正面の校門に毎朝集合して、特別クラスの人たちが登校するのを待つわけだ。

　その目的は、同じ冒険者高校の生徒たちは、どうにかして特別クラスの冒険者とパーティを組みたい。

　一般人たちは、特別クラスの優秀な冒険者たちがダンジョンで獲得する魔石、鉱石、魔物の素材、採集物、ドロップアイテムなどを手に入れたい企業関係者が多かった。

　稼ぐ冒険者にどうにか渡りをつけて利益を得たい、怪しげな連中。

　そして、稼ぐ冒険者になった親族、友人、知人に集りたい、残念な人たちもいた。

　まあ、この手の『金持ちには友人と親戚が増える』話は、どんな業界でもある話なのだけど。

　この世界にダンジョンが登場してから二年近く。

　なぜかそのせいで、世界中の鉱山から資源が消滅し、油田、炭田、ガス田も枯れ果てた。

　資源が欲しければ、ダンジョンからそれを獲ってくる冒険者たちから手に入れるしかないのだ。

　当然各国政府も、どうにか冒険者から買い取っているのだけど、国によっては比較的自由に冒険者自身が売却できる。

　世界中で、金属資源やエネルギー源である魔石が不足しているため、自由販売枠がある国の冒険者たちに、世界中の国や企業が押しかけるわけだ。

　もっとも、この手の交渉はとても難しい。

　面倒だったり、騙される事案も多く、面倒を嫌って国が経営する『買取所』にすべて売却する冒険者も多かった。

　特に、『アイテムボックス』を持たない冒険者は。

　これがあれば大量の在庫が持てるので、利に敏い冒険者は買取相場が安い品を在庫として持ち、相場が上がったら売り飛ばすなんてこともできた。

　ただ、『アイテムボックス』の容量は冒険者によって大きな差があったのだけど。

「またいるな」

　そっと正面門の前を見ると、そこには俺が顔も見たくない人たちがいた。

　まずは、伯父、叔父、伯母、叔母やその子供たち。

　俺の従兄たちだ。

　みんな、俺が冒険者として大金を稼いで会社を作ったため、そこで役員として雇えと押しかけているのだ。

　俺のおかげで、働かずに一生遊んで暮らせると思ったらしい。

　最初俺が断ったら、毎日自宅に押しかけてきて大変だった。

　だから、セキュリティーがしっかりした新しいマンションに引っ越したんだけど。

　特に俺は、中学三年生の時に両親を事故で亡くした。

　その時も、両親の遺産や保険金を寄こせと迫ってきて大変だったんだ。

　ただ一人で暮らしてみると、天涯孤独がこんなに気楽だと思わなかったのは誤算だったな。

　親族たちは『家族の団結』みたいなことを口にするが、彼らは俺の金が欲しいのであって、前者は口だけだと思う。

　無視だな。

　そしてもう一人。

　俺と同学年の少女で、幼馴染みであった……いや元幼馴染か。

　名前を、三橋佳代子（みつはし　かよこ）と言った。

　彼女は今、二年生のＢクラスに所属している。

　冒険者高校は各学年にＡ～Ｅクラスまであり、Ｂクラスなので優秀な方だろう。

　一方の俺は、冒険者高校に入学したばかりの時はＥクラスだった。

　それも、全生徒の中で成績がビリ。

　一年時からＢクラスになった彼女からすれば、いくら同じ冒険者高校に入学できた幼馴染同士とはいえ、Ｅクラスの俺との友人付き合いはご遠慮願いたいとなったわけだ。

　『良二君と幼馴染だったことが知られると恥ずかしいから、もう二度と話しかけて来ないで』と言われてしまった以上、俺としては距離を置くしかなかったのだ。

「あの方もしつこいですわね」

「自分からリョウジ君を無視しておいて、リョウジ君が特別クラスに移るってわかったら、同じパーティに入れてって言ってきた子だよね。ムシがよすぎるよ！」

「良二様は、あのような心が汚い方と関わり合いにならない方が……」

「関わり合いにはならないさ」

　佳代子の件は、俺もショックだったからなぁ。

　冒険者高校に入るまでは仲がよかっただけに、余計。

　だからこそ、今さら関係を元に戻そうとは微塵も思わなかった。

「リョウジさん、その悲しみを私の胸の中で！」

「ボクが、いい子いい子してあげるからね」

「親戚の方々の件もそうですけど、良二様の心を癒して差し上げられるのは私だけです。今夜、私のマンションに……」

「それなら、私のマンションに来ていただければ。最高級の勝負下着でお待ち申し上げておりますわ」

「ボクのマンションにおいでよ。中華料理を作ってあげるから。良二はマーボー豆腐が好きだったよね？　それも辛いやつが。そのあとは、ボクと熱い夜を」

「私が最高のイギリス料理を作ってお待ちしておりますから」

「イギリス料理は、日本人である良二様にはちょっと……」

「アヤノさん、それは大いなる偏見です！　イギリスには美味しい料理が沢山ありますから」

「良二様のリクエストなら、どのような料理でも作って差し上げます。それができるのが、鷹司家なので。そのあとは……長い夜の始まりです」

「リョウジさんとは私が！」

「ボクが！」

「教室に行かないと遅刻するから」

　俺は、逃げるように車を降りて教室へと走って行った。

　俺が最初Ｅクラスだったのには大きな理由が存在したのだけど、それも含めてこれまでのことを、まずは話していこうと思う。