15、私は死神と呼ばれている
遊園地で満足するぐらいに遊んだ。
とは言え、俺の事が好きだ、と言った七色が無理矢理、俺を駆り出した感じだが。
だけど悪い気はしない。
何故だろうな、とは思うが。
それから車に乗って帰って来てリビングに向かうと.....宝珠が居た。
ビックリしながら七色は俺を確認したりする。
その様子を伺いながら宝珠を改めて見る。
その目はやはり宝の様な目をしている。
ただ.....光はあまり無いが。
「.....まだ居たの。貴方」
「.....そうだな。俺は一応.....冨樫さんの命令で此処に居るからな」
「.....そう。.....私にとっては貴方の存在は不愉快に近いんだけど」
「俺は何処でも不愉快な存在だ。.....その言葉も仕方が無いと思う」
そして沈黙。
俺達は見つめ合いながら.....居る。
それから10秒経ったぐらいに先にこの沈黙を引き裂いたのは宝珠だった。
貴方はとてもじゃないけど受け付けられない、と。
七色が言葉を発した。
「宝珠お姉ちゃん。何でそんな事を言うの?」
「.....七色。.....この男は.....あの日の.....」
「.....あの日?.....お母さんが亡くなった日?」
「あの日の運転手の顔に似ているから。受け入れられない」
「.....」
俺はジッと宝珠を見つめていたが。
意を決して聞いてみる。
宝珠に。
聞いても良いか、と言葉を発する。
宝珠は俺を不愉快そうな目で見てくる。
「何かしら」
「.....お前は母親と一緒に居たんだな」
「.....」
「.....それで事故の現場を目撃したんだな?」
「.....それが何か」
「.....俺は母親の死に顔も見ている。父親の死に顔も.....妹も。.....お前の気持ちは50パーセントぐらいは理解出来る」
その言葉に宝珠は俺を睨み付ける。
そして、貴方は母親が死ぬ場面を見た訳じゃ無いでしょう。
貴方のせいで死んだ訳じゃ無いでしょう。
だったら貴方なんかに気持ちは分からないわ、と捲し立ててくる。
コップをドンッと台所に凹むぐらいに置きながら、だ。
「.....だがお前には家族が残っている。.....それは俺とお前の最大の違いだ」
「.....家族が残っているから何なの。私はこの家族を不幸にした。死神なのよ」
「.....」
「私の母親は.....私が忘れ物をしたのを追いかけて死んだ。.....私が.....殺したのよ」
「.....だがお前は罪滅ぼしをしている。.....今お前は.....こうして悩んでいる。それは家族も分かっている筈だ」
煩い煩い煩い!!!!!黙れ!!!!!、と宝珠は絶叫する。
その言葉に春が慌ててやって来た。
春はそれから宝珠を見ている。
七色も、だ。
俺は宝珠を見つめる。
「.....正直俺はお前自身じゃない。.....だからお前の気持ちは100パーセントは絶対に分からない。.....だが宝珠。これだけは言える。.....お前は十分に罪滅ぼしをしているからな」
「.....貴方なんかに何が分かるの。ただの赤の他人が」
「宝珠の気持ちは正直分からない。だが境遇が似ている。.....お前を助けたい気がするんだ。それは命令じゃない。俺の意思で、だ」
「一真さん.....」
俺が運転手に似ている。
それは変えようがない事実だ。
だけどそれは逆にチャンスだと思う。
何故かといえば俺が良い方向に導けば。
多少は宝珠も部屋から出れるんじゃないだろうか。
「.....宝珠.....」
「.....宝珠お姉ちゃん.....」
春と七色が宝珠を抱き締めた。
宝珠は涙を浮かべて泣いている。
その姿を見ながら.....俺は。
やはりこの家族は不思議だ、と思った。
そして.....傷だらけだがそれでも絆を培える事が出来る。
そう.....思えた。
3人で1つなんだな.....と。
バラバラになった真珠のネックレスが。
繋ぎとめられる様な。
そんな感覚だ。
「宝珠」
「.....何」
「.....正直言ってお前の現状況を変える事は難しい。.....だけどそれでもお前を思ってくれる人は沢山居る事を.....知っておいたらいい」
「.....何なの貴方。.....本当に」
「俺はただの端くれだ。.....特に何もない凡人だ」
俺は言いながら目を閉じて開ける。
宝珠達は暫く涙を流していた。
それもまさに宝石の様な涙を.....七色と春と共に、である。
俺はその姿を見ながら.....少しだけ柔和な顔になった。
笑みは浮かばすことが出来ないが、である。
ここからがスタートなのかもしれない。
俺が今.....ここに居る理由にもなるのかもしれない。
「一真さん」
「.....何だ。七色」
「.....貴方はやっぱり私の期待した通りの方でした。.....本当に良い人です」
「.....それは気のせいだ。俺は.....良い人間じゃない」
そもそもに俺が。
俺があの時。
父さんと母さんに何も言わなければ。
死ななかったのだから。
だから何も言わない事にした。
でもそれは間違っているのかもしれない。
もしかしたら言葉を発しても良いのかもしれないな。
考えながら.....目の前の3人を見る。
花束と言えるかもしれないが。
「ねえ」
「.....どうした。春」
「.....何でアンタは何時も助けてくれるの」
「.....俺は助けているんじゃない。.....お前達から貰ったものを.....返しているだけだ。だからこれで相殺という事だ」
「違う。.....アンタは.....それ以上の事をしている。一真」
「.....」
それ以上の事、か。
何もしてないと思うのだが。
これは相殺だ。
だから何もそれ以上でもそれ以下でもない。
返しているだけだ。
宝物を。
「私、一真さんを好きになって良かったです。.....大好きです」
「.....それを今言うか。七色。.....流石に少しだけ恥ずかしいのだが」
「私達ってそれ以上の事をしましたよね?」
「.....」
冷や汗でも出そうな気がする。
目の前の2人が、貴方.....。
やら、一真.....、と絶句している。
まさか手出しをしたわけじゃ無いよね、とも聞かれた。
完全な誤解なのだが.....全く。
七色の奴め。
酷い話だ。
「えへへ」
「.....ハァ.....」
この家に来て.....俺は。
色々な事を学んだ気がする。
例えば.....悪い事ばかりじゃない、等だ。
その様に思える。
今のコイツ等の姿を見ながら、だ。
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