14、七色、激昂する

七色がとんでもない行動をしてきた。

俺にキスをしてきたのだ。

それもファーストキスだという。

何をしているのだ七色は?


俺はただ見開くしか出来ず。

そのまま七色を見ずには居られなかった。

それはまるで世界の軸が変わる位に衝撃であり。

地球の回転が変わるぐらいの感じだ。


それで、そういえば.....女性に告白されたのは初めてだったな、と思う。

こういう時、亡くなった妹ならどうするのだろうか。

俺を小馬鹿にしてくるかもしれない。

だけど、良かったね。それは大切にしてね、と言ってくれるかもしれない。


俺は考えながら.....観覧車からゆっくり降りる七色を見る。

七色の事は.....正直。

妹程度にしか思っていなかったのだが。

だけど十分に大人だったのだ。


「.....えへへ.....」


「.....お前は本当に俺が好きなのか。何故俺を.....」


「それ以外の人にあんな事しません。私は貴方が好きになりました」


「.....」


七色は本当に七色の様な笑みを浮かべて俺を見てくる。

それは虹が掛かる様な.....その位の笑みを。

俺はその姿を見ながら眉をひそめる。


だけどその思いには答えられないだろう、と思いつつ。

俺はそもそも恋をする気は無い。

もう十分だ。


俺は死神だから。

幸せになった時に失うのは。

だから恐れているのかもしれないな。

考えながら俺は目線を逸らす。


「.....七色。.....お前の気持ちは本当に良く分かった。.....だがやはり付き合えないし付き合う気も無い。.....すまないが」


「良いんです。.....私を見ていて下さい。いつかきっと振り向かせます」


「.....それは無理だと思う。.....壁が高すぎる」


「何でそんな事を言うんですか。全く」


プンスカ怒りながら唇をキュッと締める七色。

俺はその姿に溜息を盛大に吐く。

それから.....俺達は観覧車から降りてから。

ジェットコースターなどを見ていた。

どれに乗りたいのだ。


「.....私の目標は達成しました。だから後は遊ぶだけです」


「.....俺は帰りたいんだが」


もー!!!!!、と七色は怒る。

それはそうだろう。

そもそも俺は場違いすぎる。

考えながら歩いていると。

目の前から声がした。


「あれ?お前斉藤じゃね?」


「.....宮下.....」


宮下嗣(みやしたつぐ)だったか。

所謂リア充という言葉が当て嵌まる様な男だが。

男だが.....俺はクラスメイトに会ってしまった。


高校の時の、だ。

眉が自然と寄ってしまう。

そして宮下はニヤッとながら俺を見る。


「金を貸してくれよ。斉藤」


「.....またそれか。申し訳無いが俺には金は無いのだが」


「そう言わず。な?」


こういう奴だ。

つまり嫌味がある人間なのだが。

非常に不愉快極まりないとしか言いようがない。

だから遊園地は嫌いなのだが.....。

考えていると.....七色が怒った様に間に入った。


「貴方誰ですか?.....斉藤さんに何の用事ですか」


「これは何?彼女?斉藤」


「その子は彼女じゃない。.....だが大切なパートナーだ」


「.....へえ?お前の様な死神に彼女?.....へぇ。人間が死ぬのにな。お前に近寄ると」


話を全く聞かない。

これは相変わらずだな。

それから何時もそうやって俺を馬鹿にする奴だったな。

俺は思いながら七色と共に立ち去ろうと.....するが。

七色が絶叫した。


斉藤さんに謝れ!訂正しなさい!!!!!、とである。

俺はビックリしながら真っ赤になって激昂している七色を見る。

七色はこれまでに見た事も無い様な顔をしている。


「死神とか失礼極まりない!!!!!謝れ!!!!!」


「.....七色?」


「こんなに一緒に居て楽しい人は居ない!そんな事言うな!」


「.....へえ?何このクソガキ」


そして七色の髪の毛を握った。

俺は驚愕して宮下を見る。

そのまま七色の髪の毛を引っ張った宮下。

痛い!、と言う七色。


「おこちゃまは黙ってな。俺達の問題だから」


「.....」


髪の毛を掴んで離さない宮下に。

俺の胸の中で。

何かが千切れる音がした。

そしてそのまま宮下の胸倉を掴む。


それから言う。

何やってんだ、と。

宮下は、おう。警察沙汰にでもなりたいかお前、と俺を見下す。


「流石にこれは許せない。.....宮下。.....謝ってもらおうか」


「謝る?馬鹿なのかお前は」


「.....」


すると騒ぎを聞きつけたのか警備員が来た。

何しているの!、と。

それから引き離される俺達。

俺はジッと睨む.....しかし何だこの感情は。

此処まで怒ったのは久々の様な気がするのだが。


「騒ぎは起こしたくない」


「.....俺もな。.....あーあ。ここまでか。.....やっぱり死神は死神だな」


「この!まだ言うか!!!!!」


まるで血管でも切れそうな感じで激昂しながら七色は暴れる。

これまでに見た事も無い顔だ。

俺はそれを制止しながら.....宮下を見る。

それから七色をまた見る。

七色に言い聞かせる様に、だ。


「.....落ち着け。七色。怒っても仕方が無い。.....お前の気持ちはよく分かるが」


「.....そうですね。.....一真さんが言うなら.....落ち着きます」


脅す様な感じで警備員が警察沙汰になりたいのか君達は、と言うものだから。

俺達はそのまま宮下と別れた。

それから直ぐに七色を見つめる俺。

すまないな。俺の過去に巻き込んで、と答える。

七色はまだ怒っていた。

唇を噛みながら、だ。


「私はどうでも良いです。.....私じゃない。.....一真さんが気になりますから」


「.....お前らしくない。.....あまり怒るな」


「絶対に忘れないです。.....好きな人なのに」


「.....そう言ってくれるのは嬉しい。.....だけどあまり怒るな。俺は.....お前なら笑っている顔が好みだから」


俺の言葉に七色はハッとして笑みを浮かべる。

そうですか?、と。

全くその通りだから。


あんな粗大のゴミと言える様な男に怒っても仕方がないのだ。

怒るだけ意味が無い。

無駄な活力を使っても仕方がないのだ。

俺は、七色。デートの邪魔をしたな、と目線だけ動かす。


「.....良いんです。.....怒ったのは私ですから。許せなかったから」


「.....七色。.....でもな。有難うな。こんな俺の為に怒ってくれたのは嬉しかった」


「一真さん.....」


「.....お前は正義深いな」


「.....そうですね。お姉ちゃんを目指しているんです。.....だから強くないとって思いました」


「.....そうなんだな。.....七色。お前はもう十分大人だぞ」


そう言ってくれる一真さんが好きです。やっぱり。

と笑顔を浮かべる七色。

俺はその姿に少しだけ柔和になった。

それから七色を見ると七色は前に駆け出して行く。


「私、一真さんに出逢えて良かった」


「.....」


こんな俺にも。

出逢えて良かったと言ってくれる人が居るんだな。

昔は違ったが、だ。

考えながら俺は.....七色を見つめた。

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