12、それでもヒーローだと思う
有意義な買い物が出来た様な気がする。
久々に.....であるが。
それは何故か。
俺にとってはずっとそんなに有意義な事は無かったからな。
考えながら目の前の参考書を3冊買った春を見る。
俺も参考書を1冊買った。
春はとても嬉しそうに鼻歌を歌っている。
それは無邪気な子供の様に。
そんな春に聞いてみた。
「幸せか」
「.....うん。とてもね。心地良いかも」
「それは結構な事だな。.....俺もあの人には興味がある」
「.....そうなの?」
「.....また行きたいって事だろうな。良く分からないが」
春は、そう思ってくれたんだ、と笑みを浮かべる。
俺はその姿に、まあ、と真顔のまま返事をした。
そうして歩いていると。
後ろから誰かが因縁をつけてきた。
「邪魔なんだが。歩行の」
「そうそう」
その姿を笑う姿を見ると。
パーカーに.....サングラスだった。
さっきの男共か、と思いながら俺はその男達を見る。
するとそいつらは春の手を握ろうとしてきた。
春は青ざめながらビクッとする。
「姉ちゃんよ。そんなひょろい奴じゃなくて俺達と一緒に遊ばね?」
「そうそう。それが良い」
そして春はそれを振り払い。
俺の顔を怯える様に見てきた。
怖い、という感じの目だ。
その姿を見つつ俺はそいつらを見た。
それから溜息を吐いて前に出る。
「すまないが彼女はその様な趣味を持つ様な子じゃない」
「.....へぇ?そうなんだなぁ。.....お前彼氏か?こんな女の子の隣を歩くのは勿体ないわ」
そして俺の手を力いっぱい握ってくる。
何だコイツ.....!相当な腕力だ。
見掛けに寄らず、だ。
俺は痛みに、ッ、と声を出す。
このまま折っちまっても良いか?、とニヤニヤしてくる。
「お金持ちの家のお嬢様をお前ごときが求めるのはおかしいんでね」
「それな。家からひょろ男が一緒って腹立たしいわ」
そんな不良共がケラケラ笑う中。
腕を掴まれたまま俺は春に向いた。
それから、逃げろ、と一言だけ伝える。
これは面倒な事だから、だ。
そして春は慌ててスマホを出す。
「あ、アンタ達!110番するから!」
「いや。ポリ公ぐらい怖くないよ。俺ら」
「そうそう。それ以上の事しているしな」
「.....」
面倒な事になってきた。
俺は通行人を見るが.....人通りが少なすぎる。
そして俺は掴んでいる男を見る。
すまないが離してくれないか、と告げて。
だが男達はその腕を離しはしなかった。
骨折へ導こうとしている。
「じゃあその女置いてけや。それと引き換えって事で」
「.....」
「そうだな。それが良いわ」
こんな時。
俺だったら逃げる.....というか。
関わり合いを持たないのだが.....だが。
今回は.....違う。
怯えている春を見ながら俺は男達を見る。
「.....すまないが。それは断る。.....春は大切な俺のパートナーなんだからな」
「!」
「残念。じゃあこの腕へし折るわ」
「やっちまえ。山口」
これこそ万事休す、だな。
本当に身動きが取れないな。
そう考えていると。
向こうから声がした。
丁度、春の後ろ辺りから、だ。
「お前ら」
「.....あ?」
「そいつはアタシの大切な息子なんでね。.....その辺りにしてもらおうか」
何故か前田さんが居た。
序でに子供も、だ。
しかし子供は避難させている様だ。
ビルの陰からこっちを見ている。
そして前田さんは、というと。
かなり激高している。
笑みを浮かべてはいるが。
「.....何だコイツ?」
「.....何か分からないけどやっちまうか?」
そんな会話が聞こえ。
俺の腕が離されてから前田さんに殴り掛かる。
しかしその前田さんは飛んできた腕を掴み。
そのまま背負い投げをした。
地面に叩きつける。
え?、と思いながら俺は目を丸くする。
流石に驚いたのだが。
前田さんこんなに強かったのか?
俺は思いつつ前田さんを見る。
その前田さんはもう1人の不良に、まだ続ける?、と睨みながら聞く。
「このクソアマ.....クソッ!」
それから地面に叩きつけられて気絶している男の肩を組んでから。
そのまま、覚えてろ。コラ、と言いながら去って行った。
前田さんは、ったく、と言いながら手をはたきつつエプロンを整えてから。
俺の右手を掴んで立ち上がらせた。
驚く俺を指差してくる。
「腕は大丈夫か」
「.....まあ.....かなり痛いですけど大丈夫です」
「.....お金持ちの家はやっぱ狙われるか。.....気を付けてな。一真」
そして何事も無かったかの様に子供を呼んでから。
そのまま俺に笑みを浮かべた前田さん。
そうしていると春が寄って来た。
涙目で、だ。
良かった、と呟きながら涙を拭う。
「.....アイツら.....前も絡んで来たから」
「.....そうなのか」
「.....でも一真が.....どうなるかと思って心配だった.....」
「.....すまない。みっともない姿で」
「.....私を逃がそうとしてくれた。.....それだけで十分.....男らしいよ」
言いつつ春は前田さんに向く。
それから頭を下げた。
こんな形で申し訳ないですが初めまして、私.....冨樫春です、と自己紹介する。
その言葉に、やっぱり可愛い女の子だね、と前田さんはニコッとする。
そして手を差し出した。
「私は前田。前田千佐子。.....宜しくね。一真の里親だ」
「.....そうなんですね」
そんな柔和な雰囲気に割り込む形で申し訳無いが、と思いつつ俺は見つめる。
それから前田さんを見る。
こんなに強かったのか、と考えながら、だ。
前田さん、と向く。
「.....驚きました。.....前田さんめっちゃ強いっすね」
「.....まあもう引退したけどね。柔道やっていたから」
「.....もろ初耳ですよ。.....そんな事をやっていたなんて」
「話しても仕方無いよ。だから話さなかった」
「.....」
靭帯が切れた、という事は知っていた。
つまり柔道を引退したのって。
考えながらも。
俺はそれ以上割り込まなかった。
さてと、と手を叩きながら前田さんは子供達を撫でつつ。
春と遊んでいる子供を見ながら。
「.....そろそろ行くわ。.....用事があるからね」
「.....そうっすね。俺達も帰ります」
そんな会話をすると。
前田さんはニヤッとした。
それから春に近付く。
そして何かを聞く。
聞こえないんだが、と思いつつ見ていると。
春はボッと赤面した。
まるでアルコールランプに火が灯る様に。
「無いですから!!!!!」
「そうかなぁ?怪しいなぁ」
「.....何の話をしているんだ。春」
「いや、ちょ、な、何でもないから!!!!!」
「???」
何故その様な顔をする。
全く訳が分からないんだが。
考えながら見てニヤニヤしている前田さんと。
全力で赤いまま否定の言葉を発する春を交互に見る。
何がどうなっているのか。
全く分からないんだが.....?
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