春と七色と宝珠との絆

11、その幸せは流星の様に降り注ぐ

翌日になった。

俺は春と共に参考書を買いに行く約束をしていた為にそのまま外に出る。

薄い上着を羽織って、だ。

それから.....家の前で待っていると。

春が、待った?、とやって来る。


その姿に俺は目を丸くする。

春の姿は.....かなり可憐な姿だった。

やる気の入っている姿である。


パーカーにワイドパンツ.....だったか。

あまりファッションに詳しくないので良く分からないが.....。

と思いながら見ていると。

春が?を浮かべて服装をキョロキョロと見渡す。


「.....何かおかしい?私の服装」


「いや。少しだけビックリしただけだ。.....正直言ってお前がそんなに張り切った服装をするとはな」


「.....え?私はこれぐらいするけど.....何時も」


「.....そうなのか。よく似合っているな」


その様に言いながら春を見る。

春は、へ?、と言ってからボッと湯気を出す様に赤面する。

それから、あ。有難う.....、と春は言う。


そして春は、赤いまま踵を返す。

ちょっと待てよ?何か変な事を言ったか俺は?

考えながら顎に手を添えるが.....答えは俺の頭には水の様に注ぎ込まれなかった。

取り合えず春は恥ずかしがり屋なのだな、とは思うが。


「春」


「.....な、何」


「.....医学関係の参考書の見当はついているのか」


「.....え?.....あ、うん。ついてる。.....私は.....心療内科医か外科医を目指しているから」


「.....」


母親の影響か、と聞こうとしたが。

俺は以前に七色に聞いて失敗した感じなのを思い出した。

その為に聞かない事にする。

そうしていると、早く。行くわよ、と春が笑みを浮かべた。

まるでfanfareでも聞こえてきそうな感じで、だ。


「.....元気だな。お前」


「.....私はお姉ちゃんだから。.....だから頑張らないといけない」


「.....」


そうか、とは言えなかった。

春が泣いている姿を思い出して、だ。

その為に俺は別の行動をとった。

それは.....春の頭を撫でる行動。


「.....へ?ちょ!いきなり何!?何を!?」


「.....お前はお姉ちゃんの様だが。.....だけどそれでも俺の方が年上だ。つまり俺に頼って良い。.....気を張りすぎるな」


ふえ?、と目が丸くなる春。

効いている様だ。

恋愛のテクニック本に書かれていた方法を試してみる。

何故そんな物を読むかといえば簡単だ。

春と七色の年頃の気持ちが分からないか、と思ったのだ。


「アホなの!?アンタ!!!!!馬鹿!!!!?」


「え.....」


「も、もう!!!!!アホ!」


「.....」


何か俺は間違っているのか?

ずっと怒られてばかりなのだが.....。

これは困った。


直ぐに修正した方が良さそうだ。

考えながら俺は.....顎に手を添えて春を見る。

頭を下げた。


「.....すまない。割に合わない行動だった」


「.....べ、別にそんなに凹む必要無いし.....ちょ、ちょっと格好良かったし」


「.....何か言ったか。声が小さくて聞き取れない」


「言って無いし!!!!!」


もう!早く行くわよ!、と怒る春。

しかしさっきと声音が違う。

つまり.....少しは謝った事が効いたか。

少しだけホッとしながら俺は.....春の後ろを付いて行く。

それから.....歩き出す。


「.....この先に本屋が有るから。そこで買うわよ」


「.....確かに商店街の中に本屋が有るな。.....そこで買うのか」


「そうね。.....顔馴染みだから。本屋のお婆ちゃんとは」


「.....そうか」


それから歩き出すと。

目の前でガムを噛んでそうなパーカーを深く被ったのと。

サングラスを掛けた男が2人。

車止めを背もたれにして俺達を見ていた。

面倒臭い感じだったので.....俺はそのまま春の肩を掴んだ。

気付いていないようだったので。


「.....春。迂回するぞ」


「.....え?ちょ、何で?!」


「.....良いから。面倒臭い感じだ」


「.....分かったわ。アンタが言うなら迂回するわ」


驚く春を見つつ。

そのまま俺は春を導いて迂回した.....のだが。

これがまた面倒臭い事になるとは.....誰が思ったのだろうか。

その男達によって、だ。

それは簡単にいえば.....絡まれる事だったのだが。



「いらっしゃい。春ちゃん」


「美鈴お婆ちゃん。こんにちは」


商店街の中に在る少しだけ古いお店。

看板が少しだけ錆びている様なそのお店の中。

吉田美鈴さんというお婆さんらしい。

丸眼鏡に頭をお団子状にしている一般的な高齢女性。

御年90らしい。


春は嬉しそうに笑みを浮かべてからそして美鈴さんとハグし合った。

俺はその姿を春の背後から眺める。

そうしていると俺を見てから春を驚きの眼差しで見た。

まるでビックリ箱でも見た様な反応である。


「.....おや?!そっちの子は彼氏かい?!」


「ち、違うよ!お婆ちゃん!お友達だよ!」


「.....そ、そうかい。残念だねぇ。彼氏さんかと思ったよ」


「お友達だから!」


真っ赤になりながら否定する春。

その姿を伺いつつ俺は周りを見渡した。

そこには新品の本が律儀に並んでいる.....。


しかし驚いたな。

品ぞろえが沢山だ。

マイナーな俺の読んだ本まで置かれている。

なかなか手に入らない.....本なのだが。


「今日は何をしに来たんだい?」


「参考書を買いに来たわ。.....この場所が一番好きだから」


「.....そうかい。私も春ちゃんは孫の様だからね」


「もー。お婆ちゃん.....」


仲が良さそうだ。

俺は暫く二人きりにしてやろうと。

そのまま書店内を回り始めた。


しかしこれは驚きだ。

何故なら20年ぐらい前の本まで置かれている。

状態が良いまま、である。

日焼けも若干しているが.....それでも新品に近い。


「.....興味深い書店だな.....」


そう思いつつ俺は本を一冊手に取る。

福沢諭吉の、学問のすすめ、であるが.....。

驚いたな.....これを見るなりかなり前のだが。

本の端に埃すら積もって無い。


大切にしているんだな本当に本を。

考えながら俺はふと思い出す。

そういえば.....父さんも好きだったと思う。

本が、だ。

しかしそういう記憶が.....埋もれている。


「.....忘れようとしているんだな」


呟きながら俺は本を仕舞う。

そうしていると、何やっているの?、と春が来た。

俺は、いや。状態が良い本ばかりだと思ったのだ、と答える。

その言葉に春は、そうね、と笑みを浮かべる。


「.....美鈴お婆ちゃんは本が好きだからね。孫の様に扱っているから」


「.....やはりそうか。.....その様な事を感じ取れる本ばかりだからな。埃が全く積もって無い。日焼けも少ないし虫食いも無いしな」


「.....そういえばアンタも本が好きなんだっけ?」


「.....あまり好きではないな。.....ただ気を紛らわせる為に読んでいる感じだ」


「.....え?」


目を丸くする春。

その目を見て、そうか、と俺はハッとした。

俺が.....本を好きな理由というか。

読んでいるのは。

父親を忘れない為の強迫行為だったんだな、と。


「.....俺は父親を忘れない等の為に読んでいただけだろうな。.....本を読むのは」


「.....お父さんの事.....」


「.....すまない。俺は本が好きでは無いのかもしれない。本当は」


「.....」


「.....春。悲しい顔をするな。.....俺は大丈夫だから」


春は唇を噛む。

その顔を見せられるのが逆に俺は.....気が引ける。

そう考えながら.....俺は春の頬に手を添える。

そして頷いた。


「.....落ち着け」


「.....可哀想としか.....思えない」


「.....」


優しいなコイツは、と思う。

七色以外のまた別の魅力を.....感じる。

考えつつ俺は無意識に春の頭を撫でた。


すると春は涙目でされるがままになっていたが。

ハッとして俺の手を弾いた。

赤くなりながら、だ。


「子供扱いしないでよ」


「.....すまない。.....だな」


春は、もう、と呟く。

それから踵を返した。

俺達は参考書を探す為に来たんだからな。

美鈴さんが俺達をニコニコ見る中.....俺達は当初の目的を達成する為。

周りを見渡して探した。

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