9、健一郎が一真を家に招いた理由

「やあ。来てくれて有難うね。一真君」


体調が良くなった。

それから調子が良くなってから俺は冨樫さんに、私の部屋に来てほしい、と言われたので向かいノックしてから.....そのまま部屋に入る。

それから.....冨樫さんを見る。

立ったまま俺を柔和な顔で見つめていた。


そんな冨樫さんの部屋だがまるで洋風な感じの部屋だった。

棚には本が沢山である。

絨毯も有ったりする。


俺はその全てを見ながら.....冨樫さんを真剣な顔で見る。

冨樫さんはその中で俺に目の前の椅子に促した。

本当に俺の親の様な優しい目つきで、だ。


「.....体調は大丈夫かな。.....もし体調が良くて話を聞ける体力があれば大切な話が有るんだ」


「.....大丈夫です。何の話ですか?」


「.....実は.....早速だけどこの家を継いでもらうつもりで君を呼んだんだ。重い期待で申し訳無いんだけどね」


「.....大体は予想出来ていました。つまり.....」


ああ。

君は3人のうちの誰かと婚約する事になると思う。

と俺に告げてくる冨樫さん。


俺は驚きながら目を丸くする。

でも酷くは驚かない。

まあそうだろうな、と思ったが。


前に.....七色からチラッとは聞いていたけど、である。

冨樫さんは、君は本当に.....良い子だと思う。君を選んで正解だった。と冨樫さんは笑顔を浮かべる。


俺はその姿に、しかし.....何故.....俺に全てを継がせるとかいう話になるのでしょうか、と聞いてみる。

だってそうだろう。

冨樫さんは.....かなり若く見えるのだが。


「.....実はね。.....私は遺伝子病のSMAを発症したらしくでね」


「.....それはまさか筋ジストロフィー.....!?」


「.....私は48歳だが.....これは難病の疾患だ。最近。腕が鉛の様に重くなったから.....病院に行ったらこの有様だよ。.....この病には薬があまり効かないんだ。.....そう診断されて考えたんだよ。しっかりね。.....それで君を迎え入れようという事になったんだ。.....君にこの話をするのが辛いけど.....」


「.....責任を押し付ける気がして気が引けたって事ですね」


「.....そうだね。この事はまだ娘達には話してない。.....これ以上.....悲しませたくないから。だけどこの事は君が嫌なら白紙にするつもりでもあるから.....」


俺は顎に手を添える。

それから.....額に手を添えてから言葉を発した。

頭を下げながら、である。

そして、大変申し訳ないです、と話した。


「.....俺には荷が重すぎます。馬鹿な俺には継ぐなんて。.....この家から出て行っても良いので.....それだけは.....と思います」


「.....そうか。.....うん。大丈夫。.....でもだからといって君を追い出したりはしないから安心してほしい。有難う。話を聞いてくれて」


「.....いや。.....俺は家に帰ろうと思います」


その言葉に見開く冨樫さん。

決定に至った理由だが.....俺は目的も無いのにこの家に置いてもらう理由が見つからないのだ。

だから俺は.....出て行くつもりだった。

迷惑しか残らない。

俺なんかが居ても、だ。


「冨樫さん。短い間でしたが.....」


そこまで話したところで後ろの冨樫さんの部屋のドアが勢い開いたよく開いた。

それから.....胸に手を添えて.....春と七色が顔を見せる。

この家から出て行くの、と俺に向いてくる七色と春。

ちょっと待て。

まさか聞いていたのかコイツら。


「七色.....春。盗み聞きは良くない」


「お父様.....止めないですか!?」


「.....止めたいのはやまやまだ。でも彼は彼なりの考えがあると思う。此方が止める理由は無いと思える」


「.....で、ですが.....」


俺を困惑しながらチラチラ見てくる七色。

それと俺を見る春。

そんな春と七色に俺はゆっくりと頭を下げる。


世話になったな、と言いながらである。

それから俺は冨樫さんに向く。

そしてお礼を告げた。


「お世話になりました。冨樫さん。春、七色」


俺なんかの様な邪魔者が.....迷惑を掛ける訳にはいかない。

次の継いでくれる人を.....、と思っていたのだが。

俺の腕に七色が絡んできた。

それから首を振る。


「嫌です!私は.....一真さんが良いです!」


「七色!駄目でしょ!尊重しないと.....」


「私は.....一真さんじゃなきゃこの家を支えられないです!」


「し、しかし.....七色.....」


涙目で冨樫さん達に対して否定する七色。

俺はその姿を見ながら膝を曲げて七色の視線に合わせた。

それから見つめる。

七色は俺の視線に涙を浮かべたまま見る。

そして頭に手を添える。


「七色。本当に有難うな今まで。世話になったな。.....感謝しているぞ」


「.....」


七色は納得がいかない、という感じで俺を見てくる。

そして唇を噛んだ。

その姿を見ながら.....俺は妹をふと思い出す。


春と宝珠と七色の姿も。

妹とかもこんな感じだったな、と。

それから冨樫さんを見る。


「.....こんな俺でも役に立てますかね」


「.....それはどういう意味だい?」


「.....俺.....役に立てるなら役に立ちたいと思いました。七色の姿を見て、です」


「.....勿論。君を.....全力でサポートするよ。私は。.....君に負荷が掛からない様になるだけ配慮する」


「.....」


じゃあ俺.....役に立ってみたいです。

と冨樫さんに告げる。

冨樫さんは目を丸くしながら俺を見る。

本当に良いのかい?、とである。

俺は頷く。


「.....春と七色が悲しむ姿を見て.....諦めるのもな、と思いました。.....だから頑張って見ます」


「.....君は.....やっぱり.....」


そこまで言い掛けて冨樫さんは首を振った。

それから.....俺を柔和な目で見てくる。

本当に君は私の期待をいい意味で裏切ってくれる。

君が来てくれて良かった、と。

その様に言ってから笑みを浮かべた。


「.....役に立つ、か」


こんな俺でも.....役に立てるのか?

考えながら.....俺は顎に手を添える。

そして考えてみた。

ボロ雑巾でも役に立てる日が来るんだな、と。

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