7、春、一真の看病をする

この家の者達は恐らくだが全員.....大変に傷付いていると思う。

それはどれだけかといえば.....残念ながら測定するなどは出来ないだろう。

俺はその事を思いながら.....俺の横に腰掛けている七色。

そして俺の目の前には春が、その横の目の前に富樫さんが腰掛けている。

俺はその姿を見ながら目の前のご飯を見る。


そこには所謂、パスタ料理が並んでいる。

フルコースといった所.....だとは思う。

俺はそれを見ながら.....少しづつ食べていく。


遠慮は要らない、等と言われたので、である。

このまま放置する訳にもいかないだろう。

考えながら俺は食事をする。

すると.....横に腰掛けている七色が俺にそっと何かを置いてくる。

煮豆であるが.....?


「こら。七色。駄目でしょそんな事をしたら。大きくなれないよ」


「うえぇ.....でも私はこれ苦手だよぉ。.....一真さんはパクパク食べているから良いかなって思って」


「.....もー.....」


別に俺は構わないが、と春に告げる。

春は、良くないわよ。何言っているの、と俺に怒りながら向いてくる。

富樫さんも苦笑いを浮かべながら、まあまあ、と言う。


お父様も甘いですよ、と春は文句。

この場合はどの様に対応すれば良いのだろうか。

俺は顎に手を添えながら.....ハタと思う。

そうかこうすれば良いか。


「.....七色。口を開いて」


「.....え?どういう事ですか?」


「.....俺が食べさせてやるから。.....それから水を飲むんだ。嫌な味はそれで消えるだろう」


「.....ふえ?」


俺の言葉にボッと火が点いた様に真っ赤になる七色。

?を浮かべてから七色を見る俺。

何か間違った事をしたのか.....俺は?


考えながら.....俺は眉を顰めながら七色を見る。

俺は考えるが答えが分からなかった。

そんな七色は俺の様子にフンッと両手で拳を作る。

それから目を輝かせた。


「.....えっと.....じゃ、じゃあお願いします!」


「.....分かった。じゃあ.....」


「もー.....七色は甘えすぎ」


そんな様子を見つつ七色に煮豆を食べさせると。

うぇ、という感じの顔をしたが。

俺は直ぐに水を渡して飲ませると。

七色は涙目になりながらも飲み込んだ。

それから硬直した笑みを浮かべる。


「大丈夫か。七色」


「.....は、は.....い.....」


「嫌な事は嫌だとは思う。俺も良く分かる。.....だが.....乗り越える事も大切だから」


「はい。一真さんが言うなら.....」


体調悪そうにニコニコする七色。

これに対して改めて春を見ると春はかなり驚いていた。

俺はその姿に首を傾げる仕草をする俺。

その姿がかなり印象にあるからだ。


その春の代わりに富樫さんが言葉を発した。

珍しいね。七色は本当に煮豆が嫌いなんだけど、とである。

俺は言葉に七色を見る。


「.....そうなのか。七色」


「でも一真さんが優しくやってくれたから。だから食べようと思いました」


「.....」


春と富樫さんは七色の言葉を聞いてから。

驚きに目を丸くする。

しかしそれはそうとそんなもんなんだな。


単純すぎるのではないだろうか。

苦手なものは苦手であるのが人間だろう。

克服など.....時間掛かるものだろう。

基本は、だ。


「.....何?七色ってもしかして好きなの?ソイツが」


「.....え!?.....ち、違うよ!春お姉ちゃん!」


「ふーん。怪しいなぁ」


「.....も、もう!」


そんな会話をする2人。

俺はその姿を見つつ.....かつての光景を思い出した。

それは.....妹と両親に囲まれていたあの食卓を。

そして俺は.....頭に手を添える。

頭痛がしてきた。


「一真さん!?」


「だ、大丈夫かい!?」


富樫さん達が慌てる。

気が付くと俺は俯いていた。

それから.....ゼエゼエ言っている。


俺は、しまった、と思ってしまった。

これはPTSDの発作だ。

何時も出るのだが.....今出るかこれが。

最悪最低だな.....。


「大丈夫ですが.....部屋で少し休みたいです」


「.....そ、そうかい。お薬などを持って行くから。後程にね」


「一真さん.....大丈夫?」


「.....すまない。七色」


それから七色を見てから俺は春を見る。

春も心配そうに俺を見ている。

仮にもコイツも心配してくれているんだな。


そんな顔をさせて悪いな。

考えながら俺はそのままリビングを後にして.....自室に戻る。

それから心臓に手を添える様な形を取る。


「.....蓄積していたストレスかな。.....全くな。.....肝心な時に出るなよ」


俺はイライラしながら.....そのまま目を閉じる。

そしてずっと考える。

幼い頃の記憶では無い、児童養護施設の記憶を。

そうしていると.....背中に暖かい感触を感じた。


「.....?」


ふとそれから気が付くと。

21時を超えた夜になっていた。

しまったものだ、何をやっているんだ俺は。

こんな馬鹿な.....。

まるで怠慢な人間ではないか。


歯磨きも何もしていない。

風呂とかもどうしたものか。

考えながら.....背後を見ると.....。

そこに.....何故か春が寄り添う様に寝ていた。


「スースー」


「.....!?.....何をしているんだコイツは.....」


丁度、俺を抱き枕の様にして寝ている。

その春に呆れながら背後を見ると。

薬が用意されており。


水も用意されていて水タオルも用意されている。

その近くに椅子がありそれがこちらを向いている。

つまり.....この状況を推察すると、だが。

あくまで予想だが。


「.....コイツが看病していたのか?」


「スースー.....」


俺は春をよく見る。

やはり美少女だな、と思える様な顔立ちをしている。

小顔だしEラインなども整っている。

全く.....人のベッドで寝るとは。

それも男の.....ベッドなのだが無防備すぎる。

胸元も僅かに見えるしな。


「オイ。春。起きろ。何をしている」


「.....うーん.....あ.....ああ!!!!?」


何を起き上がって絶句しているのだ。

そもそも寝ていたのはお前だ。

そう思いながら.....俺は睨む様に春を見る。


春は赤くなりながらゴホンと咳払いをしてから俺に薬を差し出してくる。

これロキソニン。

飲んでもらえるかしら、と。


「.....お前は何故、俺のベッドで寝ていた」


「悪い!?もしかしたら風邪かもしれないし看病するなら温める事かと思ったし!」


「考えが極端すぎる.....風邪ならうつるだろう。どうする気だった」


「もー!!!!!良いから飲みなさい!!!!!」


命令で言われてロキソニンをそのまま飲む。

俺はそれから溜息を吐いた。

それから俺からコップを受け取ってから背を向ける春。


何かを用意している。

俺はそんな春に聞いてみた。

囁き声の様なそんな感じで、だ。


「春。お前が何故看病を?」


「.....嬉しかったから」


「.....何がだ。俺は何もしてない」


「.....七色が笑顔を見せてくれた。笑顔を取り戻した。それが嬉しかったから。それはアンタのお陰だろうと思う。だからアンタを今日だけ看病してあげる」


「.....そうかい」


有難く思いなさい!

と赤くなりながら春は俺に指差す。

全く素直では無い。


だけど.....思い出すものがあるな。

俺は考えながら初めて笑みを浮かべた。

この家に来てから初めての笑みだろうけど。


「分かってる。春。有難うな」


「.....!.....アンタ.....」


「.....俺の母親の様だ。お前は」


「.....!」


そして俺は水を貰ってからもう一杯飲んでから。

横になって天井を見上げた。

春は良い子なんだな。

根っから良い子で.....素直じゃ無いけど、である。

全くな。

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