母親の記憶
6、七色、宝珠、春の思いと健一郎の願い
七色の案内によって。
俺はこの家に書庫、リビング、台所、食料保存庫などがある事に気が付いた。
それを見ながら.....俺は七色を見る。
七色は何時もニコニコしていた。
それから全部を案内してから手を広げて俺を見てくる七色。
まるで遊園地にやって来た子供だ。
「案内は以上でーす!」
「.....有難うな。七色。.....お陰で何が何処にあるか分かった」
「そう?私.....偉い?この事を企画したの.....」
「そうだな。.....その点も感謝だよ。七色」
「えへへ。有難う。一真さん」
そんな会話をしていると。
さっきからあちこちで何をしているのよ?、と本を抱えながらの.....俺達に春が言ってきた。
七色は、春お姉ちゃん。また参考書を読んでいたの?、と笑顔を浮かべる。
参考書?、と思いながら春を見てみる。
その視線に気が付いた様に春は、何よ、と俺を見ている。
警戒して睨む様に、だ。
猫が威嚇する様な。
「.....悪い?.....私は医者になりたいって思っているから」
「.....悪いなどとは言ってないだろう。.....大きな夢じゃないか。.....奇遇ながら俺もそういう分野を目指している」
「.....そうなの?.....アンタも.....人の心を?」
「.....残念ながら俺は何故その分野を勉強しているのかは分からない。.....だが.....何かを掴みたいのかもしれない。.....だからその分野を勉強しているのだろう」
「.....アンタも大変なのね」
春は俺の目を見つめながら.....視線をずらす。
その目を見て.....思った。
成程な、と。
彼女は.....多分、母親を想っているのだろう。
だから医者を目指しているのだろう。
それはあくまで予想だが。
この家の.....宝珠はどうか知らないが。
みんな母親を想っているのだな。
考えながら居ると。
「やあ。みんな何をしているんだい」
帰って来てから仕事をしていた冨樫さんが俺達に声を掛けてきた。
春も七色も柔和になりながら声を挙げる。
俺も頭を下げた。
そして冨樫さんを見る。
春が冨樫さんに声を掛けた。
「.....お父様。ご夕食の時間ですか」
「.....そうだね。少しだけ遅くなってごめんね。.....ところで宝珠は.....変わらずかい」
「そうですね.....」
「.....そうか。ならまた後でご飯を持って行こう。.....彼女も家族の食事に出て来れたら良いんだけどね.....」
「.....」
俺は悩む3人を見ながら。
背後の宝珠の部屋という緑の扉を見る。
七色に案内された場所だ。
そして顎に手を添える。
それから3人を見た。
冨樫さんが申し訳なさそうな顔で俺を見ている。
緑色の扉の視線に気が付いた様に。
「.....すまないね。宝珠は.....昔はあんな子じゃなかったんだ」
「.....そうなのですね」
「.....ああ。きっかけがある。あそこまで変わってしまったのは.....母親が亡くなった事が原因だ」
「.....そういえば聞いて無いですが.....亡くなった原因はあるのですか」
「.....」
この言葉に冨樫さんは七色と春を見る。
許可をもらう様な仕草をする。
それから.....俺を見てくる冨樫さん。
そして、母親は.....交通事故で亡くなったんだ、と俺に告げてきた。
俺は思いっきり見開く。
「.....まさか.....」
「.....信号無視の右折車に轢かれてね。.....即死だった。その当時、居合わせたのが七色でね。.....ショックを受けていたよ」
「.....」
衝撃的だった。
俺の親も妹も交通事故で亡くなった。
その事で.....余りにも衝撃的だったのだ。
思いつつ眉を顰める。
それから.....七色と春を見る。
「.....お母さん.....」
「.....ママ.....」
「.....そんな過去があったのだな.....お前達には」
何も気が付かなかった。
俺は顎に手をまた添えながら考えてみる。
そうか.....ようやっと気付いた。
この家の住人は.....傷付いているんだな。
だから七色も春も宝珠も。
バラバラになっていたり性格がこんな感じなんだな、と。
それはまるで.....真珠のネックレスが切れて地面に落ちて真珠が勢い良くバラバラになる様に。
全てがバラバラになってしまっているのだろう。
纏まらない様な、だ。
「暗い雰囲気になってしまったな。.....すまない。.....食事にしようか。みんな」
「.....はい。お父様」
「はい。父様」
「.....」
2人は笑顔を浮かべる。
冨樫さんも、である。
俺だけは別の考えを浮かべていた。
この家は相当に複雑だな、と思ってしまっている。
だけどそれでもみんな笑顔で.....居るのが凄いと思う。
その様に思える。
俺が情けないだけなのか、と思ってしまった。
「.....一真君」
「.....はい。何でしょうか」
「君は恐らく一人で悩み続けてきただろう。だけど私も居る。みんなも居る。頼って良いからね」
「.....俺は.....」
「.....そもそも私が君を引き受けたのは.....」
そこまで冨樫さんは話してから口を噤んだ。
そして、今は話さないでおこう、と小さく呟かれ。
それから俺を再度見てきた。
とにかく君は一人じゃないから。
問題もあるかもしれないが私達を頼って欲しい、と告げてくる。
「.....それが私の願いだ」
「.....そうですか」
「.....そうだ。.....私を親と思ってくれ。.....それが願いだな。今の」
「.....」
本当に不思議な家族だな。
俺は.....そう考えながら。
今まであった家族とは違う何か別のオーラを感じていた。
それはまるで心地良い一つの風、だ。
何故こうも違うのだろうか.....。
考えつつ.....ニコニコしている七色と難しい顔だが柔和の春を見た。
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