3、「怖いよ.....」
身体への輸血。
それは生命を助ける為に必要な応急処置。
違うか。
正確には出産とかにやる際の非常事態用の医療行為だ。
必要な出血多量の患者に輸血バンクからの血液を投入し。
命を救う行為.....と言える。
そんな輸血だが。
俺はこの世界からその全てが無くなってしまえば良いと思うぐらいに.....心底から憎んでいる。
何故憎んでいるかといえば簡単だ。
輸血で妹を救ってくれなかったから、である。
あの医者は.....。
俺の妹に助かる見込みは限りなく無いと。
交通事故で即死した親の代わりの瀕死の妹から俺に輸血した。
勝手な事をした。
だから嫌いなのだ。
何故.....同じ様にそれなりに傷を負った俺の血液を逆に使ってくれなかったのか。
ただそれだけが悔やまれる。
「.....」
俺は自室で寝かせていた七色を冨樫さん達に引き渡し。
そのまま俺は.....小説を読み始めた。
あの涙は.....何だったのだろう。
その様な下らない事をふと思いながら俺は参考書を読む。
「.....雑念も凄まじいものだな」
考えながら俺は.....部屋から出る。
取り敢えずは水を一杯だけでも拝借、貰うか。
水道水でも十分なのだが。
考えつつ台所へ向かうと.....そこに赤髪の肩ぐらいの長髪の少女が居た。
かなりの美少女といえる横顔。
性格にはモデルになっても良いぐらいに。
その少女は飲み物を飲んでいる。
すると何かを察したのか俺の方をバッと見てきた。
「.....誰!?」
「.....」
「.....何だ。アンタか」
「.....失礼ながら君は確か冨樫春だったな」
「.....そうだけど。気安く名前で呼ばないでくれる」
眉を顰めながら俺を睨みに睨んでくる。
相手に対して礼儀がなってない。
その様な.....というか。
このタイプは俺は嫌いだ。
妬ましいというか.....頭にくる。
俺は考えながらコップを先程の案内の際に見掛けたのでそれを取り出した。
それから.....水道水を注ぐ。
すると横から、アンタ水道水を飲むの、と言ってくる。
「.....そうだな。.....俺はこの家の居候だ。.....だからなるだけ迷惑を掛けたくない」
「.....はっ。そうね。アンタは居候だもんね」
「.....そうだな。だからさっさと去る」
「.....」
睨みを俺に向けたまま。
まるで猛獣の様に俺を見つめたまま。
俺を見据える。
何だコイツは.....別の意味で腹立たしい。
礼儀がなっていない奴は嫌いだ。
だけどこの家ではコイツらが家主だしな。
考えながら俺は石鹸で律儀にコップを洗ってから戻そうとした。
すると、ちょっと。その場所は置き場所が違うわ、と言ってくる春。
俺は、そうなのか。それはすまない、と謝る。
「.....何処に置けばいい」
「.....その上よ。.....それぐらい分かりなさい」
「.....そうだな。すまない」
「.....」
春は視線だけ動かしながら。
俺を見てくる。
そしてそんな春に対して、邪魔したな、と頭を下げてからそのまま台所を後にする。
すると、待ちなさい、と止められた。
声音の張った様な声で、だ。
何だ一体。
「.....アンタの部屋に何で七色が居たの。説明しなさい」
「.....簡単に言えばアイツが勝手に居候してきた。それだけだ。お前らなら分かるだろう。性格とか」
「.....ふーん。連れ去った訳じゃなくて?.....それだったら面白かったのに。アンタを追い出す口実になるわ」
「.....そうかい。俺もそこまで確執は無いのでね。.....出て行く時は潔く出て行くさ」
そう言い残しながら。
俺は台所から出て行った。
それから自室に戻る。
そして少しだけ伸びをした。
腕時計で時刻を確認する。
「.....もう18時か.....」
外を見てみる。
何だか今日は風が強いのか外が少しだけ荒れている。
俺はその景色に.....顔を顰める。
思い出すは.....あの交通事故の日だ。
此方はゆっくり走っていたのだが.....。
「.....思い出してどうなる?下らないもんだな」
それから小説を読もうとした時。
いきなり全ての電気が消えた。
所謂、停電というヤツらしいが。
後に残されたのはガタガタと窓枠が鳴る音。
薄暗い感じだが.....そう言えば冨樫さんは侍女の人と手伝うという名目で買い物に出掛けたな。
人助けが趣味らしいが.....今の時点では困る。
これは仕方が無いな.....。
「.....やれやれ。邪魔が入るものだ」
思いつつブレーカーを探す為に台所に時計の光でやって来ると。
グスグス、と声が聞こえた。
俺は?を浮かべて台所を見る。
そこに.....春が涙を流して蹲っていた。
「怖いよ.....」
そう呟きながら、だ。
俺は目を丸くする。
この様な姿を見せるのだなコイツは。
考えながら、春、と声を掛ける。
直ぐにバット顔を上げたが。
涙でグショグショだ。
「.....何よ!」
「.....何をしている。ブレーカーを上げてくれ」
「.....わ、私は.....」
「.....?」
か細い弱い声。
俺は首を傾げながらも。
軽く納得をした。
コイツは.....暗いのが心底苦手なのだ、と。
俺は思いつつブレーカーを探すと。
天井付近にあった。
「.....春。怖いのか」
「.....悪い!!!!?私は暗いのが苦手なのよ!!!!!」
「.....いや。それは悪いとか貶している訳じゃない。.....俺も怖いからな。暗いのは」
「.....え?」
それから俺はブレーカーを上げる。
そして電力は何とか復旧した。
俺は男だが。
暗いのは苦手なのだ。
だから光る腕時計をしている。
春を見る。
「春。お前だけじゃない。暗闇が苦手なのは。.....俺は男だが暗いのは心底苦手なんだ。馬鹿にするとかそんなのは無い」
「.....暗いのが苦手なの何で」
「.....それは話せないが。.....大切な人を失った時は何時も暗かった。だから苦手なんだろう」
「.....」
「.....だから馬鹿にしない」
その言葉を受けながら春はその場を去って行く。
すると途中で俺に向いて来た。
それから、少しだけ見直したわ。アンタの事、と言ってくる。
俺は見開きながら見る。
そしてまるで小動物が逃げる様に去って行った。
「.....全くな」
そう呟きながら。
俺はまたコップで序でにと思って水道水を飲みながら。
それからそのコップを石鹸で洗って。
元の位置に律儀に戻した。
怖い.....か、と考えながらである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます