過去話には酒を

「ありがとうございました」

ケーキ屋の店員さんの言葉を流すように聞き、僕はマンションに向かった。

「急にケーキ食べたくなったら買っちゃった。今日春川さんと一緒に食べよ」

そう言い僕は気分よく鼻歌を歌った。

「早く帰って春川さんの手料理食べたいな、今日はどんな料理なんだろう?」

マンションに着き自分の部屋に向かった。

部屋につきドアノブを引いて中に入った。

「ただいま」

そう言うとチッキンの方からドタドタと足音が聞こえた。

足音の方を見るとそこには春川さんが笑みを浮かべてこちらに向かってきた。

「おかえりなさい天川さん!」

春川さんはそう言いながら勢いよくジャンプしてきて、それを僕は受け止めず横に1歩引いた。

「あべし!」

春川さんは速度を落とさず勢いよくドアに当たった。避けた僕が言うのもなんだが、とても痛そうだな。

「うぅ、痛たた。受身を取ってなかったら顔に当たってましたよ」

涙目をしながら腕をすりすりとして痛みを和らげた。あの距離で受身を取れるなんて流石殺し屋だ。

「ご、ごめんね」

「うぅ、許しません!」

春川さんは涙目をしながら頬を膨らませて、ぷいっと右に向いた。

「春川さんの大好きな苺のケーキ買ってきたから機嫌直してよ」

「ありがとうございます天川さん!大好きです!機嫌直しました!」

ケーキの箱を見せたら機嫌の変わりが恐ろしく早い。好物の力恐るべしっだな。

春川さんは笑み浮かべながら仕事用のカバンとケーキを持ち、洋室に向かった。

「あ、そうそう。もうすぐでご飯出来ますので着替えて待っててくださいね」

春川さんは荷物を仕事用の机に置き、台所に向かった。僕は仕事用の服を洗濯機に投げ、寝間着に着替えて席に座った。

待っている間スマホを見ていると、春川さんがお盆に料理を乗せて持ってきてくれた。

「今日はなんだかお酒を沢山飲みたい気分なので、お酒に合う料理を作りました」

机に並べられた料理は鳥の唐揚げや餃子、豚カルビ、フライドチキン、枝豆など油っこい料理や辛い料理などが並べられた。

どれもこれもとても美味しそうだ。

それに乗せ方がとても綺麗でより一層食欲がそそる。僕にはできない芸当だ。

そう思ってると春川さんがお盆の上にお酒を乗せてこっちに向かった。

「春川さん、麒麟とストロングどちらにしますか?」

「そうだな...明日休みだからし、今日は酔いたい気分だからストロングにするよ」

「分かりましたどうぞ」

「ありがとう」

春川さんからストロングを貰い、フタを開けコップに注いだ。

「それじゃあ乾杯」

「はい乾杯です。今週お疲れ様です」

「ありがとう、春川さんもお疲れ様」

そうして僕らは、お酒を飲んで料理を食べて世間話をした。


食事を初めて数時間、机に並べられた料理は殆どなくなり買い溜めしていたお酒も机にある2本しか無くなった。

15本ほどあったお酒を僕達2人だけで飲むとか豪酒なのかな僕ら?

「うへへ、天ちゃんいい匂いしてて好きぃ」

春川さんは僕の横におり、缶ビールを両手に可愛く持ちながらチビチビと飲んでいた。

白い肌は真っ赤に染まり、今まで見た事がないほど甘えてきた。

お酒に酔った春川さんってこんな感じなんだな、初めて知った。

そう思いながら僕がお酒を飲んでいると春川さんは人差し指で僕の頬をつついてきた。

「どうしたの春川さん?」

「天ちゃんさぁ、なんかお話してぇ。さっき私のお話したからなんか話してよぉ、過去話でもいいからさぁぁ」

春川さんはうへへっと言いながらつまみのチーズを取り、ハムっという効果音が似合いそうな表情をして食べていた。

「過去話か...」

そう呟きお酒を飲んだ。

これを話していいのか、いや別に害にはならないから話していいか。

僕そう思いは酒を飲むをやめて、春川さんの顔を見た。

「春川さん実は僕過去の記憶がないんだよ」

「どういうことなの天ちゃん?」

春川さんは頭の上にハテナを浮かばせた表情をしていた。

「実は僕、ある事件か事故で3年前から記憶喪失なんだよね。それで過去の記憶が思い出せないんだ」

「そんなんだね」

「そうだよ。幸いにも自分の身元は知れて、まだ新人会社員だったからそこまで大変じゃなかったよ」

「それは...良か...たね...」

途切れ途切れの声で春川さんの方を振り向くと、眠そうな顔をしていた。

「うん、とても良かったよ。話は終わったからそろそろ寝る?」

「うん 、寝る...」

春川さんの方から寝息が聞こえて僕は、春川さんを起こさないように抱えて、ベットに優しく入れた。

僕も寝ようと思ったが、机にある皿やコップがまだ洗っていないので洗った。

全て洗い終わって時間を見ると深夜の3時すぎ、僕もそろそろ寝ようか。

床に毛布を敷いて寝ようとした時、

「天ちゃん...大好きだよ...」

っと寝言を言っていた。

僕は寝ている春川さんの頭を軽く撫でた。

「僕も大好きだよ。それじゃおやすみ」

そうして僕は床に寝そべり眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る