殺し屋に一目惚れされました

「早く映画見たいな~」

僕はビデオ屋で借りた海外ホラー映画のCDを、仕事用の鞄に入れ、大事に持ちながらマンションまで向かおうと思った時、ふと思い出した。

「確か、酒とつまみは切らしてたな。仕方がない、コンビニで適当に買いに行くか。明日は休みだし堪能しよう」

僕はマンションに向かう道のりのコンビニに向かうことにした。


コンビニから出た僕はビニール袋を見て頬を緩ませた。

缶ビール3本とサラミやチーズ等のつまみが入ったビニール袋を、手に持ちマンションのエレベーターに向かった。

誰もおらなかったのでスムーズにエレベーターが動いた。自分の部屋の階まで着いた僕は、首に結んでいたネクタイを部屋に入る前に解いた。

部屋の前に立ち、胸ポケットから部屋の鍵を取り出して、鍵を鍵穴に差し込んで扉を開き、誰もいない部屋に向かって挨拶をした。

「ただいま」

鍵を玄関の棚に置き、洋室に向かった。

洋室の中に入ると、暗闇に人影が浮かび上がった。

僕は鞄とビニール袋をゆっくりと音を立てずに床に置き、キッチン収納からフライパンを取り出し、人影の所にゆっくりと足音を立てないように向かった。

人影の持ち主はまた気づいてない様子だ。人影までの距離は約3メートル程。フライパンを強く握りしめて人影の所までゆっくりと歩を進んだ。

後2メートル。フライパンに全握力を乗せる思いで強く握りしめた。

そもそもなんで僕の部屋なんかに侵入するんだよ。ここは4階だぞ、金目当てなら1階とかで盗めばいいじゃないか。いや待てよ、もし金目当てじゃなかったら、何が目的なんだ?

そう思いながらゆっくりと近ずいて行った。

1メートル、ここまで近ずけば後はフライパンを振りかざすだけだ。

僕は侵入者の頭を狙い、フライパンを振りかざそうとしたその時、

「情報より1時間程遅く帰ってきたね」

女性の声に驚いて少し躊躇してしまった時、女性は僕の方に振り向き、右手に持っているナイフを僕に向かって刺す瞬間、フライパンでナイフを防いだ。

人影はフライパンに刺さったナイフを捨て、懐からナイフを取り出し、僕に向かってもう一度刺しにきた。

僕はその攻撃を避けて、押し倒そうとしたが、逆に押し倒されてしまい、馬乗りのように体の上に乗ってきた。

女性はナイフを振り上げた時、僕は死を悟った。まさか今日死ぬなんて思いもしなかった。死ぬ前にせめて、今日借りてきたホラー映画見たかったなっと思い目線をカーテンの奥の月を見た。

そういえば今日は満月だったのか。満月の光を浴びながら死ぬなんて、何かの小説で読んだことあるな。なんだっけあのタイトル。

まぁいいか、もう死ぬんだし。

僕は殺されるのに呑気なことを思ってると、満月の光は僕の顔に当たった。

美しいなっと思っていると、女性はナイフを床に落とした。

驚いた僕は女性の顔を見つめた。

何故か女性は顔を隠してでも分かる程、顔が赤くなっている。

女性は顔を赤くして体から降りて、僕との距離をとった。

はわわっとした表情をしながら恥じらうように顔を全力で隠していた。

「ど、どうしたんだ?」

僕が女性に質問した。

「え、えっと、あの、その...」

女性は言葉を詰まりながらになっていて、一度深呼吸をして少し落ち着いたようだが、まだ顔は赤いまんまだ。

そして女性は僕が予想してなかったことを告げた。

「あなたの事を一目惚れしてしまいました」

女性はそう言い、また顔を手で隠した。

その言葉を聞いた僕は数秒思考停止して、その言葉を疑った僕はもう一度確かめた。

「...え?一目惚れ...?」

女性は恥じらいながらこくりと頷いた。

いやいやいや、待て待て、ついさっき僕殺されかけたんだよ。なんで殺す相手に一目惚れするんだよ。おかしすぎるだろ。どういう神経してんだこの人。少なくとも普通の神経では無いことは確かだ。

「あ、あの...」

僕が考えていると女性は口を開いた。

「そろそろ私...帰ります...」

「え、あ、はいさようならってなるか!」

僕が声を荒らげると、女性はびくりと驚いた。

「君は何しに来たの?僕を殺しに来たんじゃないの?」

「は、はいそうです。ですがさっきも言った通り私は貴方に一目惚れをしました。なので殺しません。あ、御安心をちゃんと殺したと報告するので」

「いやいやそういう事じゃなくて」

僕が立ち上がり女性の方へ向かおうとした時、カーペットに足を滑らせてしまい、床に頭をぶつけてしまった。

強く打ちすぎたせいで、意識が遠のいていった。

「だ、大丈夫ですか!」

女性は焦りながら僕の方に向かってきた。

なんで今日はこんな日なんだろう。

お気に入りのフライパンは使えなくなるわ、殺し屋には殺されかけて何故か一目惚れするわ、床に頭をぶつけるわ、本当に今日はなんて日だっと思いながら僕は意識が飛んだ。

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