第17話 抗ウ者

カラスが一斉に羽ばたく。

まるで、何かから逃げるかのように。

空が、黒く染まる。

終焉を告げるかのように。

声が、響く。

『終わりを、始めよう。』

その産声と共に、返り血でどす黒く染まった

着物と、まるで天女の様な羽衣を纏い

見るもの全てを本能的に畏怖させる

禍々しくも神々しい槍を持った神が降り立つ。

「我が子たちよ、目覚めよ。」

大気が震える。

大地が割れ、その深淵から

幾つもの黒い影が出現する。

「破壊を始めろ。

 カグツチ。」

その黒い影の中に突如として現れた

緋色の影が、炎を纏う。

「了解しました、母様。」

その声と共に、まるで濁流のように炎が溢れ出す。

その炎は、エンドタウンをたちまち飲み込み

一瞬にして、焦土へと姿を変えさせた。

、、、筈だった。

「随分と物騒な挨拶だな。」

一人の男が、炎の中から影を現す。

紅い、紅い、その景色の中で、青い影を纏い

その男はイザナミを睨みつける。

「殺す前に、問うてやる。

 貴様は、何だ?」

宝石のように澄んだ青い瞳で、

その深淵のように黒い瞳を見据え

力強く、こう言う。

「てめぇを殺す為だけに生れ落ちた、人間だ。」


時は少し遡り、イザナミ出現の一時間前。

「手筈はこうだ。

 天岩戸、つまりイザナミの出現する場所をアルファ

 そして、その場所からキルゾーンまでの場所をベータ

 最後に、キルゾーン自体をガンマとする。

 イザナミは、目覚めたら破壊活動を始めるだろう。

 それも、自分の手下を使って

 自身は一歩も動かずに。

 だからこそ、俺がポイントアルファで

 直接あいつを挑発する。

 そこからは、ベータで待機する湖鳥と

 合流しながらガンマまで後退する。

 レミエルは、ガンマで待機して

 ガンマからの援護射撃を頼む。」

、、、と、なったわけだが。

目覚めて早々、広域破壊攻撃とか想定してねぇぞ。

それに、何より不味いのは

イザナミの手駒が思ったより強いことだな、、、

バカ真面目に相手してはいられない。

なら、一気に本体を叩くか!

「照準ロック、バーストファイア!」

発射された銃弾は、イザナミへと一直線に向かう。

それを見たイザナミは、煩わしそうに槍を振るい

銃弾を全て叩き落とす。

「反抗するか、愚かな。

 塗り潰せ、黒の頁。」

体に、感じたことのないほどの重圧がのしかかる。

まるで内部から自分が破壊されていくかのように

その力は、徐々に自分を蝕んでいく。

イザナミからすれば、その時点で勝敗は決していた

筈だった。

ただ、メビウスは不敵な笑みを浮かべ、こう言った。

「かかったな。

 制限限定解除、打ち消せ 白の頁!」

黒の頁の、対象に無条件に死を与えるという力は

メビウスに届かなかった。

何故、と問う必要すらないだろう。

だって彼は、対イザナミ専用の能力を持っているのだから。

それを認知し、初めてメビウスを脅威として認識したのか

「唯一、不愉快な気配があると思えば

 貴様がそれか!」

その降り立った場所から歩き出し

メビウスにその槍を振りかざす。

よし、食いついた!

「零式試作スラスター全開。

 おら、追って来いよイザナミ!」

イザナミの手駒が、追ってこれないような速度で

ビル群の間を駆け巡り、ひたすらに逃げる。

それを仕留めようと、イザナミが槍を振るうたびに

ビルは真っ二つになり、大地は文字通りに割れる。

「そんな大事な槍を適当に振り回すなんざ

 余程余裕がないんだな、イザナミ!」

あの槍が、イザナミと言う神に関わる神話の

モノであれば、おそらく名前は『天地開闢』

日本と言う国を作り出した文字通りの神器。

本来はそう簡単に振るえるはずがないんだが、、、

出力を絞ってるのか?

「黙れ!

 貴様は存在するだけで不愉快だ!」

この異常なまでの俺に対する嫌悪

昔を思い出すな。

「あぁ、俺もお前が大嫌いだよ!」

そう言い、銃弾をバラ撒く。

ただ、それも先ほどと同じように槍で叩き落とされ

イザナミに届かない。

「チッ、やっぱりだめか!」

照準を絞って、decisionモードで

内部から直接破壊するには、演算する時間が足りなすぎる。

それに、奴の弱点が全く判明していない以上

やったとしても、効くことはないだろう。

ただ、俺ではダメだとしても!

「ポイントベータに到着。

 行くぞ、湖鳥!」

ビルの陰から、仮初の一対の翼を持った天使が現れる。

「「エンゲージ!」」

「ガンマに着くまでに、少しでも削るぞ!」

「ん、了解。

 白鶴 展開、敵を切り裂いて。」

仮初の白い翼を構成する、鋭利な白い菱形の羽根が

一枚一枚翼から分離し、空中でまた集まり

姿を再構築し、一振りの剣に姿を変える。

その剣は、イザナミに無造作に振り下ろされる

が、またもや槍に阻まれ、届かない。

「っ、湖鳥でもダメか!

 掴まれ、とっとと逃げるぞ!」

もともと、滑空はできるが、空を飛べない湖鳥を抱え

全力で空を駆ける。

後ろには無数の黒い影と、冥府の神。

一瞬でも判断が遅れれば

こっちがやられるな。

「湖鳥、白鶴で視界を塞げるか?」

幸い、白鶴は俺の血で再構築できる。

なら、紙吹雪みたいに

一瞬視界を切るくらいなら出来るはず。

「できる。

 吹雪いて、白鶴。」

イザナミとメビウスたちの間に

白い羽根の吹雪が立ちはだかる。

「小細工ごとき、通用するとでも思うたか!」

轟音と共に、白い羽根の吹雪は打ち壊される。

「持って一瞬か!

 いや、一瞬持っただけでも上出来だ。」

どうせ効かねぇだろうが

「照準ロック、スプラッシュファイア!」

振り向きざまの一瞬に放たれた散弾が

白鶴を破壊するために、槍を振るったせいで

一瞬だけノーガードになった

イザナミの体に、やっと届く。

「煩わしい!」

が、やはり効いている様子は全くない。

やっぱ効かねぇか!

でも、ここまで俺を仕留めれずに誘導されたのが

間違いだな。

「レミエル、ぶちかましてやれ!」

『最大火力、行くよ。』

通信デバイスからレミエルの声が響いたと同時に

雷撃を纏った弾丸が、イザナミを直撃する。

「なっ、、、?!」

イザナミにとって一番不愉快な俺を排除することしか

頭にない状態で、完全に不意打ちの最大火力を

防ぐことなど到底できるはずがなく

イザナミは雷撃を纏った神速の弾丸をモロに喰らい

まるで砲弾のような速度で、地面に叩きつけられる。

「トラップ全機器起動!

 最大火力を叩き込んでやれ!」

命令を出すと同時に、無数のミサイルと

風を裂く四つの雷撃、無数の弾丸が降り注ぐ。

今までとは比較にならないほどの轟音と爆風が吹き荒れる。

「やれた、、、の?」

レミエルが、狙撃ポイントから離脱し

こちらにやってくる。

「やれてると思いたいが、あの意味の分からん数の

 デモンズが健在な時点で、多分、、、」

爆炎の中から、傷一つない姿でイザナミが姿を現す。

「やっぱりな!

 レミエルは上空から援護、湖鳥は近寄ってくる

 雑魚を頼んだ!」

今ので流石にノーダメージはない、筈。

そう思い、イザナミを観察していると

「羽衣が消えてる、、、?」

降り立った時に纏っていた羽衣が

跡形もなく消失していた。

となると、あれはシールドの類か?

いや、考えてる時間が惜しい

動き出す前にせめて一撃!

「発射モード切替 モードdecision。  

 座標セット・・・演算完了。 ファイア!」

止まっているイザナミの胸を

内部から一発の銃弾が貫く。

当たった、、、?

そう思った瞬間に

とてつもない衝撃が体全体を襲う。

「っ?!」

いや、避ける必要すらなかったのか!

考え、結論が出たところで現状が変わるわけでもなく

背中から思い切り壁に打ち付けられる。

「嗚呼、本当に煩わしい。

 じっくり痛ぶろうかと思うていたが

 気が変わった。

 今すぐ、滅ぼしてやろう。

 『浸食領域【黒】』、展開。」

視界が急激に黒く染まる。

否、世界が急激に黒く染まっていた。

これは、、、黒の頁の力自体で

世界を塗り潰しているのか!

「打ち消せ、白の頁!」

慌てて、近くにいる二人と自分を

黒の頁の影響から離す為に、白の頁を展開する。

それと同時に、フェイスシールドを取り出し

装着する。

『システムチェック工程・・・カット

 特殊兵装 【メビウスの輪】

 緊急始動します。』

「一気に畳みかけるぞ、二人とも!」

本来は二人も同時に接続するように

作られてないシステムだが、持ってくれよ!

「「「エンゲージ!」」」


全ての大地を黒い影の大群が覆う。

『こちら管制室、デモンズの活性化及び

 大規模攻勢を確認しました。

 北方戦線担当、エージェント01イージス

 南方戦線担当、エージェント02サンライト

 東方戦線担当、エージェント04ラグナロク

 中央戦域担当、エージェント03ヴァルキリー

 一次目標である、絶対防衛ラインへのデモンズ到達を

 防ぐため、殲滅戦を開始してください。 

 もし、戦力的に余裕が生じた場合は

 特別戦域で戦闘中のエージェント00メビウスへ向かう

 敵性力の援護の妨害を

 二次目標として行動してください。』

「それじゃぁ、行こうか。

 アテナ。」

「了承しました。」

白いコートを纏った青年と、盾の形をした翼を持った

天使が、目の前の黒い波を見据え

それぞれの武器を構える。

「「エンゲージ」」

黒い波が、突如として現れた

盾の障壁に侵攻を阻まれる。

「押し潰れろ。」

前に進むことができないと気付いた

デモンズたちが後退しようとしたその瞬間に

上からもう一枚の巨大な盾が出現し

その質量で、無数のデモンズを押し潰す。

「悪いね。

 彼が一番頑張ってるのに

 守ることしかできない僕が

 守ることすらできないわけにはいかないから。」

そう言い、槍を力強く握り直し、構え、こう唱える。

『戦を超え、時を超え、永遠に語り継がれる

 不滅の盾よ。

 全てを守る、守護の盾よ。

 幾星霜の時を超え顕現し、その力を示せ!

 来い。 Absolute shield!』

絶対の盾が、その姿を顕現させる。

来るもの全てを跳ねのけ、その輝きは

何度打たれようが、切られようが

全く衰えない。

「何があろうと、絶対にここは通さないよ。」


「さーて、ついに来ちゃったか。」

「ねぇサンライト、あーんなにめんどくさがって

 嫌がってたのに、何で引き受けたの?」

地平線の向こうからやってくる黒い波を見て

嫌そうに呟くサンライトに

アマテラスはそう問いかける。

「まぁ、一言でいうなら

 俺らより短くしか生きてないあいつが

 一番命を危険に晒してんのに

 俺がわがまま言うわけにはいかなかった。

 ってとこかな?

 んじゃ、やりますかぁ。」

サンライトが立ち上がる。

今までとは違い、覇気の籠った声で

「開幕から飛ばすぞ。」

「りょーかい!

 陰陽師の子孫、サンライト君

 期待してるよー?」

サンライトが式札を取り出し、構える。

「「エンゲージ」」

「式神展開。

 来い、朱雀、玄武、青龍、白虎!」

四枚の式札が、式神へと姿を変える。

「じゃぁ、こっちもやるよー」

そう言い、アマテラスは目を閉じ

力に、形を与える。

『全てを照らす空の光よ

 不滅のその光よ

 遍く全てを照らし

 全ての闇を焼き払え!

 天照大翼!』

形を与えられたその力は、翼に宿り

その翼は、空全体を覆うほどに巨大化した炎の翼へと

形を変える。

「吹き飛んじゃぇ!」

アマテラスが羽ばたくたびに、膨大な熱波と

突風が吹き荒れる。

「四神、行け!」

それに続いて四つの式神が、黒い影を蹴散らす。

弱音を吐くのも逃げるのも、一旦全部止めだ。

ガキにカッコ悪いとこ見せらんねぇからな。

そう自分に言い聞かせる。

「悪いが、今日だけは引くわけには行かねぇ。」

式札をコートの中から取り出し、構える。

「だったら、私も本気で行こうかな!」

四つの式神と、まるで太陽そのものともいえる程の

眩い光を纏った天使を従え、その陰陽師は

黒い影の波に吠える。

「さぁ、全部まとめて祓ってやるよ!」


「何であいつの為に、ボクが足止めなんか

 しなければならないのか。」

頭ではわかっている。

気に食わないが、イザナミを倒せるのは

あいつしかいないと。

「認めることが、出来ないのか?」

オーディンがラグナロクに語り掛ける。

「悔しいが、その通りだ。

 さて、嫌われ者でも仕事はこなすとしようか。」

無数の敵を前に、その冷静さを崩すことなく

敵の前に立ちはだかる。

「「エンゲージ」」

「出でよ、グングニル。」

その招来に答え、翡翠色の槍が手の中に形成される。

「捕捉、ルーンよ、焼き払え。」

突如として、デモンズの足元が

火で覆われる。

「行け、グングニル。」

その炎で一瞬足を止めた瞬間に

グングニルに、何体ものデモンズが串刺しにされる。

「処理ペースが遅いか。 

 オーディン、やるぞ。」

そう言い、グングニルを地面に突き立て

詠唱を始める。

『幾重の時を見た。

 幾重の可能性を見た。

 そして、全てを見た。

 この瞳に見通せぬものは無く

 この槍から逃れる方法はない。

 ならば、万物恐れるに足りず!

 one eye gungnir!』

詠唱が終わったその瞬間に、グングニルは

自発的に敵に向かって突き進み

隠れる敵も、逃げる敵も、向かい来る敵も

その全てを貫いた。

「俺達の目から、逃げられるとでも思うなよ?」


「やっと私たちの出番みたいだね。

 行くよ、エインヘリアル。」

中央線域、ここを突破されれば

文字通りの終わり。

都市は蹂躙され、人類は終わる。

「分かってると思うけど。

 出し惜しみしてる暇はないよ。」

「分かってる、エインヘリアル。」

二人が見つめる先には

地面から無数に現れる無数の黒い亡霊が

その血だらけの歯を覗かせていた。

「「エンゲージ」」

「悪いけど、あなたたちみたいな悪霊に

 みんなを殺されるわけには行かないの。」

そう言い、手の中に生成された光の剣を振るう。

「エインヘリアル、上から吹き飛ばして!」

その言葉にエインヘリアルは頷くと

「討ち滅ぼせ、ケラウノス!」

手の中に、光球が姿を現し

エインヘリアルが、それを地面に思いきり投げ付けると

それと共に、無数の雷が降り注ぎ

視界内に映る影全てを一掃できた、が。

何事もなかったかのように、その黒い亡霊たちは

地面から次々と姿を現す。

「無限に湧いて出てくるってことね。

 なら、、、」

一度離脱し、ヴァルキリーは祈りを紡ぐ。

『時代の始まり、あるいは終わり

 幾重の変革と共にあるその魂よ。

 人々を導き守るその高潔なる者たちよ。

 どうか、私に戦う力を!

 Heroes soul!』

祈りが聞き届けられ、英雄たちの武器が

能力を持ち、顕現する。

「オリジナルよりは劣るけど、、、!」

一つを手に取り、振るう。

「行って、フラガラッハ!」

亡霊たちに、剣がまるで意志を持ったかのように

一直線に向かい、次々に亡霊を切り裂いていく。

それだけに留まらず、槍、弓、槌、無数の武器を用いて

亡霊をなぎ倒していく。

「戦乙女の名に懸けて、あなたたちは

 一匹たりとも通さないよ!」


天地を作り出し、破壊する程の力を持った槍が

無造作に何度も振るわれる。

「守れ、白鶴!」

咄嗟に白鶴を使い、防御する。

ただ、そんなものは防御とは呼べないと言わんばかりに

一瞬で塵となる。

「レミエル、数秒稼いでくれ!」

『音が告げるは零の時。

 それは始まり、もしくは終わり。

 それは神さえ触れることあたわず。

 されど、この眼が捉えられない道理はない!

 奏でろ。 時の調べ!』

一気に、メビウスたちの時間だけが加速する。

触れれば即死の槍から繰り出される無造作な破壊を

躱し、急接近する。

すれ違いざまに、一撃

振り返り、もう一撃斬撃を繰り出す。

「今だ、湖鳥!」

湖鳥はコクリと頷くと

『私は鳥。

 籠の中しか知らなかった、小さな鳥。

 私に近づく人は緋色の海に沈み

 それ故に人は、私を恐れた。

 それでも、私を籠の外に連れ出してくれるなら

 あなたと共に、飛び立ちましょう。

 あなたを連れて、遙か遠い遠い空まで。

 羽ばたけ、空ヲ望ム比翼!』

メビウスから血を吸い取り

夕暮れ色の翼を形成する。

そこから伸びる無数の赤い糸は

イザナミに向かって一直線に向かい

その体を貫き、拘束しようとしたが

「貴様も、不愉快だな。

 消えろ。」

その糸は、いとも簡単に振り払われた。

「、、、え?」

そのことを予想すらしていなかったのか

湖鳥は、その無造作な破壊を繰り出す斬撃を

避けることができなかった。

「湖鳥!」

俺がそう叫んだ時にはもう遅かった。

湖鳥は体こそ繋がっているものの

至る所から血が噴き出し

動くことすらできなくなっていた。

「、、、レミエルは応急手当を

 時間くらいは俺が稼ぐ!」

そう言い、蒼月とハンドガンを構え

無数に放った弾丸と共にイザナミの懐に飛び込む。

もう時の調べの効果は切れている。

無茶なことをすれば俺も一撃で、、、

いや、考えるな、考えるな、考えるな!

ただ、目の前の敵を倒せ!

「虫唾が走る。

 その仮初の友情に。」

今まで通り、優先攻撃目標が俺だと思っていたのが

一番の間違いだった。

「レミエル! 後ろだ!」

湖鳥の時と同じだ。

もう、遅かった。

そして、イザナギと対して距離を取っていない状態で

レミエルの方に一瞬意識を向けた俺が

無事で済むわけもなかった。

グシャ

「その忌々しい力の根源であるのは

 どうやらその目のようだな?

 なら、、、こうしてやるのは、どうだ?」

右目を引き抜かれる。

「貴様は、もっと苦しませて殺してやろう。」

首根っこを掴まれ、思いきり投げ飛ばされる。

『過度の損傷を感知

 特殊兵装【メビウスの輪】システムエラーにより

 停止します。』

今まで痛覚を遮断されていた分の痛みが

今になって一気に襲ってくる。

「っ、、、あがっ!?」

声にならない叫び声を上げる。

苦しくても、立ち上がろうとする。

そんな俺の前に、刃がつきつけられる。

「貴様の負けだ、人の子よ。

 人の分際で抗ったこと、あの世で後悔するがいい。」

「ふっ」

負け、、、か。

確かにその通りだ。

武装はさっきのでもう大体は使い物にならない。

何より、黒の頁の浸食領域【黒】の全てを止める事は

『俺には』できなかった。

イザナミが本気を出した時点で、俺はもう負けていた。

このまま放っておけば、世界丸ごと

黒の頁の力に包まれ、死に絶えるだろう。

「何か言ったらどうだ?」

イザナミは、その刃を顎に当て

メビウスの顔を上げさせる。

「あぁ、負けだ。

 確かに、俺の負けだ。」

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