第16話 終わりの始まり

「ん、、、」

眩しい光に照らされ、意識が現実世界に引き戻される。

「気絶しちまってたのか。

 我ながら情けないな。」

ツクヨミと、酒呑童子の討伐を終えたあの後

どうやら俺は気絶してしまっていたらしい。

「そういえば、トラップの設置がまだだったな。」

やり残した仕事を思い出し、身を起こそうとすると

何か違和感を感じる。

その違和感の正体を確かめるために

自身の体を確認してみると

「やっと、起きた?」

自分の肩に体を預け、眠っていたのか

眠そうに目をこすりながら、湖鳥が話しかけてくる。

「、、、何してるんだ?

 というか、あれからどうなったんだ?」

俺が気絶したあの場所は、敵陣の真っただ中とは

行かずとも、少なくとも安全と言える場所ではなかった。

それに、レミエルも翼に重度の傷を負っていた。

なのに何故か、周りを見回してみると

医療器具がそこらに設置されていて

自身の知っている医務室と、ほぼ同一の

光景が広がっていた。

「あの後、神宮って人が

 レミエルと、トモヤを運んで、治してくれた。」

あぁ、なるほど。

合点がいった。

普通に考えれば、天使とはいえど

重傷者二人を庇いながら、エンドタウンから

抜け出すのは至難の業に近い、、、が。

輸送機を使っての離脱なら、普通に

全ての人員を収容して、安全地帯までの

撤収は不可能ではないからな。

「それで、トラップの設置はどうなってる?」

「トラップ?

 それなら、神宮って人が、こう言ってた。

 『彼にこれ以上無理はさせらんないなぁ。

仕方ない、冥府の門に頑張ってもらいますか。』

 って、言ってたよ?」

冥府の門、か。

あの特殊作戦部隊なら、何とかやってくれるだろう。

なら、そっちの心配はしなくていいとして。

「、、、レミエルは?

 それと、お前は大丈夫なのか?

 湖鳥。

 あと、イザナミが目覚めるまでいくら時間がある?」

レミエルは、治療を受けられているとはいえ

負った傷を考えると、少し不安ではあるし。

イザナミが目覚める2075年の始まりまでには

あとどれくらいの時間が残っている?

そして何より、湖鳥が人造天使とやらに

なった経緯やらなんやら

そもそも、存在が本当に維持できるのか

そこも気がかりだ。

「レミエルは、もう起きてるけど

 念のために、寝てもらってるって。

 イザナミは、動き出すまで後一日とちょっと

 あるから、大丈夫?って言ってた。」

あと一日、されど一日か、、、

「それで、お前は大丈夫なのか?」

湖鳥は、その言葉にコクリと頷くと

「天使の体を、作ったんだけど

 動かすための、魂がなかったらしくて。

 その天使の体を、私がもらって

 前の体は、もうなくなっちゃったけど。

 私が衰弱死することは、無いみたい?」

天使の体を作って、魂を移植した?!

いやまぁ、原理的に不可能ではないが

、、、不可能ではないんだが。

「本当に大丈夫なのか?」

湖鳥は本来、あの結界の中で

人間の生命力を吸収することで

生きていたはず。

万が一、天使の体が湖鳥の魂を拒まず

移植が成功できていたとしても

本来の人間の生命力を吸収して自身の命を維持する。

その特性自体は変わっていないはずなんだが、、、

「うん。

 あ、でも。

 血が無いと、ちょっと元気が、出ないかも。」

、、、体が天使に変わったことで、大幅に

天使へと性質が変化した結果、人間の生命力は

自身の維持に絶対という訳では無くなった。

が、体の調子を万全にするには

人間の生命力、と言うより

血を欲すようになった、ってところか。

なんか、吸血鬼みたいだな。

「血、ねぇ。

 輸血パックとかを貰えば大丈夫なんじゃないか?」

そんな話をしていると

「やぁやぁ死神君。

 その子の体は、君と相性がいいように

 すこーし弄られてるから、君の血以外は

 きっと拒絶反応を起こすと思うよ?」

相変わらず余計な真似をするな、神宮は。

「何でそんな真似を?」

「いやぁ、君の戦闘に付いていけて

 尚且つ、完全なる連携を実現するためには

 遺伝子レベルでの同期が必要だからね。

 まぁ、ごくたまーにレミエル君みたいに

 付いていける子もいるみたいだけど。

 そこの彼女はそうじゃなかったみたいだし

 そもそも、戦闘とは縁がない子だったからね。

 まぁ、ちょっと戦えるように弄っただけさ。」

つまるところ、俺の戦闘データ諸々を参考に

俺の本気について行けるだけの素体を用意した結果が

これっていうことか?

何をふざけたことをって思ったが。

戦闘経験のない湖鳥が、戦うためには

確かに必要な事ではあったし、、、うーん。

「でも、俺の戦闘データじゃなくても

 良かったんじゃないか?」

そう言うと、神宮は湖鳥の方に視線を向ける。

「、、、彼女が君以外についていくと思う?」

自分も、それにつられて湖鳥の方を見ると

明らかに不満そうな顔でこちらを見つめており

まるで、『絶対にやだ』とでも言わんばかりに

膨れっ面をしていた。

「あ~、分かった。

 もうそれについては言及しない。

 で、話は変わるが

 レミエルを呼んでもらえないか?」

「いいけど、どうしてだい?」

分かってるくせに、いじらしい奴だ。

「厄災が目覚めるまであと一日と少ししかないのに

 医療ベットで寝てるわけにはいかないだろ?

 それに、お前にとっても

 対イザナミチームが全員揃ってる状態で

 説明をする方が、手間が省けるんじゃないか?」

そんなメビウスの言葉に、パチパチと拍手をすると

「うんうん、君がイザナミを倒すって言う作戦情報は

 伝えてないのに、すでにその気なのは

 僕としてもうれしいよ。

 それで、確かに君の言うとおりだ。

 んーと、じゃぁ十分後にミーティングルームに

 集合しててもらえるかな?

 それじゃ。」

そう一方的に言い残し、神宮は部屋を去った。

それを見届けた後、体をベットから起こす。

「それじゃぁ俺達も行くとするか、湖鳥。」


『識別コード確認・・・承認

 エージェント00メビウス

 守護天使00-02アマサギ

 入室を許可します。』

アマサギ? あぁ、そう言えば

天使としての識別名がそれだったっけか。

「お、やっと来た。

 遅いよーメビウス。」

「お前、翼は本当に大丈夫なのか?

 レミエル。」

そう言うと、レミエルは意味が分からないと言った様子で

「翼? 何かあったっけ?」

もしかして、、、

「神宮、これってそう言う事か?」

「まぁ、そうなるね。

 ぶっちゃけ、こんな珍しいのは僕も初めて見たかなぁ。

 喰らった衝撃が大きすぎて、痛みを知覚する前に

 気絶するなんてのは。」

うん、やっぱりそうなのか。

ツクヨミに翼を焼かれたあたりから、体全体の力が

抜けてるように見えたのは、気のせいじゃなかったか。

「、、、? 私、翼に何かダメージを負ってたの?」

「あぁ。

 あの鬼、酒呑童子との戦闘で

 離脱しようとした瞬間に、ツクヨミに翼を焼かれて

 その衝撃で、痛みより前に気絶してる。」

その言葉を聞き、レミエルは合点がいったかのような

表情を浮かべ。

「あ、妙に記憶がないと思ったら

 そう言う事だったんだね。

 なんか、カッコ悪いな、、、私。」

「正直あれは俺も察知できなかった。

 だから、お前が気に病む必要はない。」

そんなこんなで、レミエルが気絶してからの事を

一通り話した後。

「そろそろいいかな?」

と、神宮が話しかけてくる。

「あぁ悪いな、神宮。

 じゃぁ始めてくれ。」

「よーし、じゃぁ始めるよ。

 まず、今回の作戦概要について、だ。」

そう言うと共に、一枚の仮想スクリーンが

でかでかと空中に展開される。

「今回の目標は、言わずともわかってるだろうけど

 イザナミの討伐、もしくは無力化。

 そして、イザナミの覚醒によって目覚めるデモンズ

 その大群から、都市を防衛。

 この二つに分類される。

 そして、君たちには

 もっとも重要な、イザナミ本体を叩く。

 この役割を任せたい。」

今までにないほど、真剣な顔で

神宮はそう告げる。

「一番、危ないってこと?」

湖鳥が不安そうにそう呟く。

「まぁ、どう考えても一番危ないな。

 でも、俺しかそれは出来ない。」

俺がそう言うと、レミエルは

「何か策があるの?

 どう考えても、危険としか思えないんだけど、、、」

少しの間、沈黙が続く。

「策は、持ってる。

 確実に殺せる奴を。

 でも、話すことはできない、かな。

 まぁ、とりあえず今は置いておこう。」

いつもなら、その問いにはっきりと答えた筈のメビウスは

何故かその回答を濁し、話の続きを催促した。

「じゃぁ、具体的に話すとしよう。

 まず、イザナミは目覚めたその後

 その場所から動かない、と推測されている。

 これについては、おそらくだが

 天岩戸、と言う依り代があった場所と言う事で

 そこに居た方が、自身の力に補正がかかるから。

 と、推測されてる。

 だからこそ、そこからイザナミを引っ張り出し

 全開の作戦で設置した幾つものトラップを用いた

 キルゾーンまで、イザナミを誘導し

 そこで一気に決めてもらいたい。」

キルゾーン、ね。

「そのキルゾーンで叩き出せる具体的な火力は?」

仮想スクリーンがもう一枚投影される。

「使い切りタイプの、レールガン型タレットが四機。

 ガトリング型タレットが、六機。

 そして、誘導ミサイル型タレットが八機。

 全て命中すれば、その破壊力は

 衛星砲に匹敵する。」

衛星砲、、、衛星砲?!

「衛星砲ってあの軌道上から打ち込むアレか?!」

「そうだ。

 今回のタレットに詰まれている全ての弾薬には

 連鎖爆発を引き起こす、特殊型クラスター爆薬が

 推進力として利用されている。

 そして、ミサイル一発一発には

 全てその特殊型クラスター爆薬が、装填されている。

 だからこその、叩き出せる威力ではあるんだが

 あくまでメイン火力であるミサイルが

 察知されて迎撃されては元も子もない。

 だから、ギリギリまで

 イザナミを引き付けて欲しいんだが、できるか?」

なる程ね、連鎖爆発ってことは

通常の爆発の少なくとも数倍以上の威力は出るわけだ。

そして、それを利用したミサイルは

酷く爆発しやすいし、なんなら

こっち側から射出された瞬間に迎撃された時には

逆にこっちが吹っ飛ぶってわけだ。

「分かった。

 何とかしてみよう。

 それで、作戦概要はそれだけか?」

「一応、一つだけ。

 都市防衛には、この間のナンバーズ

 01~04に要を担当してもらうんだが

 他のナンバーズの迎撃地点は

 君たちの戦闘域から、数キロは離れてるから

 援護は絶対にできない、ってことくらいかな。

 まぁ、君のとこへ向かうデモンズを

 叩き落とすことくらいならできるんじゃないかな?」

つまるところ、イザナミ本体を抑えるのは

俺、レミエル、湖鳥の三人か。

「了解した。

 それにしても、作戦開始まで

 もう一日あるか、ないか、、、か。」

そう言い、時計を見つめる。

「そうそう、だから

 今から作戦区域付近で待機しててほしいんだけど

 可能かい?」

「分かった。

 レミエルと湖鳥もそれでいいか?」

そう言い、二人の方向を振り向く。

「ん、付いていく、だけだから。」

「こっちも大丈夫だよ。」

「それじゃぁ、行くか。」

そう言い、部屋を後にしようとすると

「そうそう、今送った座標に

 仮なんだけど、休憩所を設置しといたから

 作戦開始までそこで休んでてくれ。」

と、珍しく神宮が

こちらを気にかけているような様子で、そう言ってきた。

「、、、感謝する。

 それじゃぁ、また後で。」

自分一人しかいなくなった部屋で

彼はこう呟く。

「、、、また後で、か。

 おおっと、僕らしくもないな。

 よーし、決戦まであと一日ちょい

 最後の頑張りどころだ!」


ピキ、ピキ

不穏な音が、鳴り響く。

ピキ、ピキ

それは本来、存在してはならないものが

目覚める音。

ピキ、ピキ

その音は、世界中どこに居ても

人間であれば、頭の中に響いてくる。

まるで、私は此処に居る。

私が戻ってきたとでも、主張せんばかりに。

声が響く。

まるで産声の様な、それでいて

何かに呻いているような。

その言葉を聞いていると、本能的に

体が動く。

少しでも遠い所に、少しでも

逃げて、生き延びないと、と。

ただ、その直後に頭に響いたあの一言で

今までの行動全てが、無駄だったことを悟る。

『終わりを、始めよう。』

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