第14話 滅びの足音

「こちらエージェント06ビャクヤ。

 作戦目標である、天岩戸付近に設立予定の

 臨時作戦基地予定地を確保しました。」

『こちら管制室。

 周囲の安全確保をお願いします。

 それが確認され次第、工作班を派遣します。』

「了解。

 とっとと終わらせるか。

 今日も頼むよ、ツクヨミ。」

その言葉に呼応し、紫色の着物を纏い

朧けな光の翼と、満月のような光を背負った少女が

立ち上がる。

「ん、分かった。

 月光、闇を照らして。」

その少女、ツクヨミの言葉と共に

月明かりのような光が霧散し、光の欠片が

四方に散っていく。

「周囲に、敵は居ない。

 安全だよ、ここは。」

その言葉に、ビャクヤは首をかしげる。

「、、、敵がいない?

 こんなに防衛が簡単な地形で

 まだ若干ながらインフラも生きていて

 色んな場所にアクセスできる。

 奴等にとって理想的ともいえるこの場所に、デモンズが

 寄り付かないなんてことある、のか?」

そんなことを呟いていると

突然、視界が鮮血で染まる。

「あれ、私、、、何を?」

何故目の前に、鮮血が飛び散ったか。

考えるまでもなかった。

だって、ツクヨミが俺を両断していたんだから。

「ツク、ヨ、、、」

何故、と言い終わる前に

その意識が途切れる。

『大丈夫ですか?そちらの

 生命反応が低下して、、、

 生命反応消失?!

 06ビャクヤさん、応答してください。

 繰り返します 

 06ビャクヤさん、応答してください!』


「『新兵装及び、既存兵装改良案』ね。

 さて、何があるんだか。」

新兵装一覧 

『近接兵器 【蒼月(そうげつ)】』

『機動力補助兵装 【零式試作スラスター】』

既存兵装改良案

『拡張次元対応型戦闘服【蒼穹】

 内部に衝撃緩衝材を追加。

 拡張次元対応型カスタムハンドガン【souldecision】に

 弾丸を、散弾のように放つモード

 【スプラッシュファイア】を追加。』

「新装備ねぇ、、、。

 それにしてもこの蒼月って、何だ?」

仮想スクリーンにある蒼月のタブを開く。

するとそこには、月影とほぼ見た目が同一の

近接兵装、、、いや、刀が映し出されていた。

「何でビャクヤの武装の派生型が、、、?

 いや、ここまで似てると派生型と言うより

 全くの同型、か?」

俺にとっての近接戦闘の師である

ビャクヤの武装の同型を、何故?

俺はあいつと違って、長物を使うのも

正面きっての戦闘もあんまり得意ではないのは

神宮だって分かっている筈なのに。

そんな風に考えふけっていると

『緊急連絡 緊急連絡

 ナンバーズは至急、指令室に来てください。』

ナンバーズ総員呼び出し、ってことは

ただ事じゃないな。

「戦闘シュミュレーターポット、強制停止。

 ハッチ開放。」

『了解しました。

 戦闘シュミュレーション、強制停止。

 個体名レミエルの意識覚醒と

 ハッチ開放を同時進行します。』

「ん、メビウス

 何かあったの?」

「どんな事かは分からんが、少なくとも

 ただ事じゃないことが起こってる。

 ほら、一緒に行くぞ。」

そう言い、手を差し伸べる。

「ん、分かった。」


『識別コード確認・・・承認

 エージェント00メビウス

 守護天使00-01レミエル

 入室を許可します。』

「お、やっと最後の一ペアが揃ったみたいだね。」

部屋の中には、呼び出しを受けたペア

もといナンバーズの総勢が揃っていた。

「恰好だけのノロマがやっと来たか。」

04ラグナロク【知恵ノ大神】

相も変わらず辛辣で、人を見下すのは変わってないな。

「まぁまぁ、彼にもきっと事情があっただろうし。」

01イージス【白金ノ守護者】

聖人君子と言うか、何と言うか。

やっぱりこういう奴が英雄って呼ばれるんだろうな。

「おー奴さんやっと来たか。

 今回も情報持ってくるから、戦闘は頼んだぞ~。」

02サンライト【来光】

情報戦のエキスパートで、戦闘を極力避け

他人に押し付けるナンバーズの中の変わり者。

いつもそのおかげで、情報が入ってくるから

俺にとっては問題にはならないが、、、。

「トモヤ君もレミエルも元気そうでよかったー。」

03ヴァルキリー【戦乙女】

底無しの明るさと、対大群戦闘のエキスパート。

昔幾つか戦いのコツを教えたことからか

俺の事を旧名で呼んでくる、変わり者。

「全員揃って、言いたいことを取り合えず言ったかな?

 じゃぁ、本題に入ろうか。」

そう言い、神宮はパチンと指を鳴らす。

すると、部屋の中央の円形のテーブルの上に

仮想スクリーンが幾重にも展開される。

「今回君達、A&Hの最高戦力全員に

 集まってもらったのは他でもない。

 つい先日出現した、過去最高レベルの

 危険度を叩き出したデモンズ。

 天岩戸の中で眠っている

 【イザナミ】。

 その対処についてだ。」

スクリーンを一つ引き寄せて見てみると

そこには、こう書かれていた。

『怪種 サブカテゴリー堕種 イザナミ

 危険度計測の結果、深淵にカテゴリー。』

「おいおい、何の冗談だよ。

 深淵だって?

 悪いけど、この話は降りさせてもらうわ。」

危険度深淵、それは今まで一度も検出されなかった。

そして、このカテゴリーに分類されるデモンズは

一つの例外もなく『世界を滅ぼすほどの力を持っている』。

「サンライト君。 それは今回許可できない。

 ただ、君には本体との対峙じゃなく

 もっと別の事をやってもらう。」

一同がざわめきを隠せない中

神宮は、真剣な眼差しで全員を見据えた後

こう続ける。

「測定の結果、イザナミが眠りから目覚めるのは

 年が変わった時。

 つまり、今年から来年に変わった瞬間だと

 予測されている。

 藪をつついて蛇を出す、なんてことに

 なっちゃたまらないから、一つの指示を出したんだが

 それの途中に、大きな問題が露見したんだ。

 これを見てくれ。」

そう言い、全員の目の前に一つのスクリーンが送られる。

『イザナミ討伐作戦

 対象への直接的な接触は悪手と判断される為

 目覚めた瞬間に、最高戦力で迎撃できるよう

 周辺に、対イザナミ陣地を構築。

 計画実行エージェント 06ビャクヤ。

 ※追記 【06ビャクヤの死亡を確認。

      ビャクヤの守護天使であった

      06-01ツクヨミとの交信途絶。】』

その報告書に、全員が息をのむ。

「君たちには信じられないだろうけど。

 ビャクヤが、死んだ。」

嘘、、、だろ?

俺と対等にやりあえた、あいつが、、、

あのビャクヤが、やられた?

「冗談を言うんじゃない、神宮。」

そんなメビウスの反応を知っていたと言わんばかりに

神宮はもう一つスクリーンを展開した後に

こう話しだす。

「死神君の強硬偵察と、うちの遠隔測定で

 端から端まで観測したら

 デモンズが、天岩戸を守るように

 徘徊しているのを確認できたんだ。

 出来れば見たくはなかったんだけどね。」

「それじゃぁ、あれか?

 その徘徊している奴に殺された、と?」

ビャクヤだってバカじゃない。

守るべきものがある時以外はちゃんと引き際を

分かっている奴だった。

「そんな単純な話だったら楽なんだけどねぇ。

 もっと解析を進めたら天岩戸から

 一種の洗脳電波に近しいものが出てきたんだ。

 ほら、デモンズも天使も、はたまた人間も

 与えられた名前で、本質そのものが決定されるだろう?

 天岩戸に眠るイザナミ、今は冥府の神として

 この世界に君臨するつもりらしいけど。

 もし、国生みの神としてのイザナミの

 特性を持っていたとしたら?

 そして、『それにツクヨミが影響されたとしたら?』」

イザナミは、良くも悪くも

大抵の日本の神の名を冠すモノを生み出した

いわば原初の母とでもいえる存在だ。

その影響をツクヨミがじかに受けたとしたら、と

考えると、確かに不思議な事じゃない。

「じゃぁ、ツクヨミがイザナミに操られて

 ツクヨミにビャクヤは殺されたのか?」

その問いに、神宮はコクリと頷く。

「それにプラスで最悪なことが判明した。

 近頃のデモンズの活性化の張本人で、尚且つ

 今までの傾向から推測すると。

 イザナミが目覚めたら、日本中に眠っている

 デモンズはもちろんの事、世界のすべての場所から

 デモンズの津波が押し寄せることになる。」

、、、その言葉を聞いて、この空間に居る全員が

言葉を失った。

俺も例外なく。

一筋縄でいく相手じゃないというのは

俺が一番理解していたのに。

「纏めるとこう言う事か?

 日本の逸話系統の天使は近寄れば手下になって、

 対抗陣地を作ろうにも、天岩戸は

 デモンズが守護している。

 だからと言って、手をこまねいてると

 デモンズの大群が襲い掛かってくる挙句に

 イザナミ本体が覚醒して、手を付けられなくなる。」

そうメビウスが言うと、神宮は指を二本たてて

追加でこう言った。

「それと、イザナミを守る為だけの

 いわばエリートのような個体が存在する事。

 そして、その個体は殺しても殺しても

 条件こそ分からないけど、復活するってことが

 分かってる。

 ここまで絶望的な前提を聞いた上で、でも

 君たちは諦めるわけにはいかないだろう?」

人類の守護者、それがA&H。

ましてやその頂点に君臨する五人が

絶望的だから、という下らない理由で戦わない。

そんな選択肢は絶対に許されない。

それがわかっていたからこそ、此処に居る全員が

語らずともやるべきことを分かっていた。

だからこそ、何も語らず

静かにその言葉を聞いていた。

「なぁに、安心したまえ。

 作戦だけはもうたってるんだ。

 あとは、君たちが頑張って

 それを実現させるだけ。

 簡単だろう?」

急激に、いつものロクデナシに戻られると

調子が狂うな。

でも、、、勝ちの目がゼロじゃないだけマシとするか。

「ほら、これで会議はお終い!

 作戦は追って通達するから

 みんな帰った帰った。」

やるべきことが分かっているとはいえ、冷水を

頭からぶっかけられたような衝撃の現実を突きつけられ

少し放心状態だったナンバーズを、指令室から追い出すと

神宮は、クルリとこちらを振り向いて

メモを一つ投げてきた。

「んじゃ、僕の仕事はこれでいったんお終い!

 残業代なんか出ないし、労災もないからね。

 じゃぁ、また今度~

 あ、それとそのメモは、データを

 送り忘れた武器の名前が書いてあるから

 絶対に目を通すように!」

俺がそのメモに一瞬目をやった瞬間、神宮は

部屋を出て、どこかに行ってしまっていた。

「なんか、、、色々凄かったね。」

レミエルがそう言ってくる。

「まぁ、ああいう奴だからな。

 それより、戦闘シュミュレーターの続き

 やらなくていいのか?」

それを聞いて、はっと思いだしたかのように

「そうだった!

 じゃぁ、メビウスも一緒にやろ?

 ほら、連携の練習もしなきゃだし。」

「あー、先にやっててもらっていいか?

 数分だけ時間が欲しいんだが。」

少し不満そうなそぶりを見せたが

レミエルは、観念したような様子で

「分かった、じゃぁ一足先に行ってるね!」

そんなレミエルに、手を振って一旦別れた後

神宮から貰ったメモを開く。

そこには、たった一言こう書いてあった。

『新武装 人造天使【アマサギ】』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る