第13話 白の頁

「改めて見ると

 ずいぶんとデカいな、コレ。」

目の前の岩に手を触れながらそう呟く。

「道を歩いてたら、いきなりこれがあって

 私にもこれがなんだか、って感じなんだけど。

 メビウス君はなんか知ってるの?」

、、、うーんどうしようか。

不確かなことを言って、俺のコレをばらすのは

って思ったけど、もう俺の心の中を知ってるのか。

なら、隠したところでって感じだな。

「憶測の話になるが。

 これはおそらく、天岩戸(あまのいわと)と

 言われるものだと俺は思ってる。」

「天岩戸?

 それって確か、日本神話の、、、」

「いわゆる冥界と呼ばれるような世界と

 この現実世界を繋ぐ道を塞いだ岩戸。

 まぁ、言ってしまえばその本質は

 封印に近いモノなんだが。」

そう言いながら、メビウスは計測機器を

その岩に近づける。

「当たってほしくなかったな、この予感だけは。」

「どうしたの?」

メビウスは、黙って計測機器の計測結果を見せる。

『エネルギー測定量・・・数値化不能

 エネルギーパターンによる個体識別・・・不明

 推定脅威度・・・深淵』

「、、、? これってどういう事?」

「エネルギー測定量は、生物が持つ魂そのものの

 エネルギー量を測定するシステム

 まぁ、これが数値化不能っていう時は

 大抵ヤバい奴か、計器が壊れてる時だけなんだよ。」

その言葉を聞いて、レミエルは

首をかしげながらこう聞いてくる。

「でも、これってたかが岩でしょ?

 エネルギーをいくら持ってたって、、、」

メビウスは頭を掻きながら

「あー、ちょっとここからは難しくなるんだよ。

 イザナギとイザナミの二柱の神の神話

 いわゆる、国生みって呼ばれる神話を知ってるか?」

レミエルはコクコクと頷く。

「今関係のある部分を掻い摘んで言うと

その神話の中で、イザナミは不慮の事故で死に

 イザナギは、死んだイザナミにもう一度会うために

 冥界に行くんだが、、、

 冥界で、醜く変貌したイザナミの姿を見て

 そして、恐ろしさのあまり逃げだし

 天岩戸で、冥界と地上を繋ぐ道を閉ざした。

 一方イザナミはと言うと、醜い自分を

 見ただけに収まらず、天岩戸で地上から

 自身を隔離したイザナギを恨み、復讐のために

 人間を殺す、って宣言するんだよ。」

「うんうん、それで?」

そのレミエルの様子に、メビウスはため息をつく。

「ここまで聞いて、あの岩の向こうというか

 あの岩の中で眠ってるのが

 なんだかわかるんじゃないか?」

「え? まさか、、、」

「そのまさか、だ。

 あの中に眠るのは、【『冥府の神』イザナミ】。

 全てを壊し、殺す為だけの力【黒の頁】を所持した

 人間の抹消者だ。」


思考がうまく纏まらない。

「、、、何を言ってるか、分からない。」

その私の反応を聞いたメビウスは

やっぱそうなるか、みたいな表情を浮かべ

右目にその手を伸ばした。

「っ、、、相変わらず外すときは痛いな

 このコンタクト。」

次に私が視た彼の右目は、青色の澄んだ眼ではなく

純白の瞳だった。

「特異体質、って呼ばれる能力を持ってる人間が

 いるのは知ってるだろ?」

特異体質、それは人間がデモンズや天使の出現によって

突然変異を起こして、生まれた時から持っている

文字通りの特異的な能力。

でも、何でそんな話を?

「俺の特異体質による能力、それは

 お前も聞いたことがあるだろうが

 『白の頁』と呼ばれる、『黒の頁』と

 相反する力なんだ。」

どういう事?

神の力と相反する能力を人が持つ?

でも、人には過ぎた力だから

そんな力を持ってしまったら、その人は、、、

纏まらなかった思考のパズルに

一つのピースがカチッと嵌る。

「鳥籠を破る時に使った、あの力?」

あの後、メビウス君の体には

多大な負荷が掛った。

私が覚えてる限りでは、あの時彼は一回も

攻撃に掠りすらしていなかった。

なら、その負荷の原因は、、、

「まぁ、合ってるわけでもないが

 外れてるわけでもない、って感じだな。

 あの力はどっちかって言うと、、、俺の魂に

 触れた時に違和感を感じただろ?」

「確かに、何かが混ざってるような気がしたけど、、、」

「あの力は、俺の魂に張り付いてる

 イザナギっていう名前を持った意志の残骸だ。

 分かりやすく言い換えれば、神骸の力を

 自身の力として利用しているだけ、って感じだな。」

イザナギの力を、利用?

「ちょ、そんなことあり得るの?」

「あり得るも何も、お前の目の前に居るだろ。」

、、、確かにあの時見た光景は、人のそれじゃ無かった。

天使でも、あんな芸当は難しいって考えると

あり得ない話では、無いのかも?

「分かった。

 それが真実だとして、その『白の頁』って言うのは?」

「未来を視て、変える力ってとこだな。

 本質としては違う力なんだが、これ以上ややこしいと

 理解が追い付かないから

 そう認識しといて問題ない。」

未来を視て、変える?

、、、よく考えればおかしいことはない。

だって、最初にリーパーに襲われた時だって

何の予兆もない奇襲を予知してた。

「、、、改めて知ると、とんでもない

 力を持ってたんだね。」

私がそう言うと、複雑そうな表情で

「まぁ、その分の代償が膨大なのと

 望んで手に入れたもんじゃないってのを、除けばな。」

そうだった。

彼にとっての、日常を奪った元凶がコレだった。

私は、なんて、、、

「ごめん。」

「何があったかは、神宮から聞いてる。

 だから、、、その、あんまり気にすんな。

 お前のその心の中の引き継いだ願いは

 事故で死んじまった、誰かの思いなんだから。

 俺がこうなったのは、誰かが悪かったわけじゃない。

 俺の運命が元々こうだった。

 ただそれだけだったんだから。」

でも、だからと言って、、、

私はそれを受け入れられずに、彼に何かを言おうとした。

ただ、メビウス君はそれを知ってか知らずか

自身の言葉でそれを阻んだ。

「そもそも俺のこの過剰すぎる不可解な力は

 イザナギが俺に託したものなんだよ。

 今も、たまに聞こえるんだ。

 イザナミを倒せって、まだ倒れるなって。

 まぁ、この間の鳥籠の中では

 自分の使命を思い出させてもらったけどな。」

その岩を、じっと見つめながらこう言う。

「災厄が生れ落ちた事は、仕方ないし

 だれにも止められなかった。

 だからこそ、俺はイザナミを殺すために

 この世界が生み出した抗体という役目を

 全うしなきゃならないんだ。

 お前たち天使が、デモンズの抗体として

 世界に生み出されたみたいにな。」

絶望があれば、必ず希望がある。

悪があるなら、必ず正義がある。

救いを求める手があるなら、必ず英雄が現れる。

なら俺は、イザナミを討ち英雄になる。

なんて傲慢なことは考えない。

英雄なんて面倒な役目は、存在自体が秘匿されてる俺より、

他のナンバーズにやってもらった方が適任だ。

ただ、イザナミを殺せばいい。

でも、俺の力だけでは正直、及ばないかもしれない。

それに、守るって誓ったからな。

「改めて、お願いするには少し遅すぎるかもしれないが

 俺と一緒に、この中で眠ってる災厄と

 戦ってくれないか?」

不敵な笑みを浮かべ、その災厄を背に

メビウス君は、私に問いかける。

「もちろん。

 言われなくてもそのつもりだよ?

 メビウス君。」

「ありがとな。

 、、、それじゃ、とりあえず帰るか!」

そう言い、メビウスは歩きだすが

ふと何かを思い出したかのように、振り返りこう言う。

「、、、そう言えば。

 君付けじゃなくて、呼び捨てでも

 俺は気にしないぞ。」

その言葉に、レミエルはクスッと笑うと

「わかった、じゃぁ、、、帰ろっか。

 メビウス?」



データファイル エージェント00の特異体質について。

特異体質『白の頁』

未来を視る、そしてその幾つもの未来の可能性の中から

一つの未来に、可能性を固定する。

それが、彼の特異体質『白の頁』の力である。

力をイメージして、形にするための

詠唱が存在し、未来を視るだけの時は『開け 白の頁』

そして、未来を固定する時は『記せ 白の頁』と

未来を視る時と、固定する時では、詠唱が違っている。


データファイル エージェント00の特異性について。

エージェント00の魂には、イザナギと言う名前が

持った、意志の残骸と、強大な力を残した

言うなれば神骸の様なモノが張り付いている。

その神骸の力は、本人の意志関係無しに

無尽蔵に溢れ出す為に、本人がセーフティーを

かけていないと、その力の負荷に耐えられずに自壊する。

エージェント00メビウスは、その力を

意図的にセーブしつつ、時に開放し

その力の恩恵を持って戦う。

力の解放に使う詠唱が『制限瞬間開放』と

『制限限定解除』である。

前者の詠唱は、身体強化程度の力しかもたらさないが

後者の限定解除は、常人の数十倍程の身体能力上昇の

恩恵が得られる、、、が、相応に負荷が掛ってしまう。

因みに、本人曰く

この二つの解放状態以上の、制限の解放状態が

存在するらしいが、誰もその使用を確認したことはない。

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