第12話 絆の力

「よーし。

 これで都市部郊外の偵察は終わり、かな?」

そう呟き、仮想スクリーンに書かれているリストの一つに

チェックを入れる。

「それにしても、次の偵察場所がエンドタウン、か。」

考えるだけでも気分が憂鬱になる、、、

「でも、私がちゃんと役目をこなせないで

 その結果、メビウス君に迷惑をかけるわけには

 いかないよね。」

そうやって、自分を奮い立たせ

レミエルはもう一度その二対の翼を広げ

空に羽ばたいた。

「それにしても、他のエージェントと天使たち

 凄かったなぁ。」

私が都市部郊外エリアを偵察していた時

色んなエージェントと、天使たちが戦ってるのを見た。

どのペアも、互いに互いの事を信用し

まるで同一人物なんじゃないかってくらいに

息の合った連携で、敵を倒してた。

「私も、少しはああいう事が出来たら

 メビウス君の隣に居ても、足手まといに

 ならないのかな?」

私は、メビウス君を助けて

共にいて、支えてあげなきゃならない。

なのに、、、私は、逆に助けられてしまった。

このままじゃ足手まといになる。

それは自分でも、痛いほどに分かることだった。

でもそれを理由に、メビウス君から離れて

その私の存在意義を捻じ曲げるのは、あまりに卑怯すぎる。

だって、メビウス君はあの時に本当は

終わりたかった筈なのに、私の存在意義という名の

我がままで、この辛い世界に留まらせてしまったのだから。

だから、そのわがままを押し付けた私だけが

目を背けて逃げる事なんて、あっちゃいけない。

「やっぱり、少しでも強くならなきゃ。」

短い時間で、強さが手に入るなんてことは

思っていない、けど、、、

やっぱり、少しでも強くならなきゃいけないから。

「今の私ができる、強くなる方法、、、」

トレーニング?

いや、まだ偵察が残ってる。

戦闘?

確かにデモンズとの戦闘も可能なら、っていう条件で

任務として与えられてるけど、、、

もし、またピンチになったら?

「うー、思いつかない!

 ってあれ? もうこんなところまで。」

長い間、自身の中で考え事をしながら

空を飛んでいたせいか、気づけば

都市から大きく離れた場所まで来てしまっていた。

ただ、逆を言えば

エンドタウンの深部まで到達できているのだから

なにか重要なモノを、持ち帰れるかもしれなかった。

「とりあえず、今強くなる方法が

 思いつかないなら、せめて役に立つ事を

 やった方が、いい、、、よね。」

人の寄り付かなくなった、風の音一つすらない

都市だった場所に、そっと着地する。

「やっぱり自分の足で歩くとなると

 すこし、遅くなっちゃうな。

 でも、下手に飛んで目立つよりかは、、、。」

そう呟きながら、私は一歩一歩

今にも砕けそうな道を、進んでいった。

そして、少しの間歩いていると

私の目に、何かが写った。

「大きな、岩?」

道路をふさぐかのように鎮座しているソレは

岩のような見た目をしていたが、なぜか

後ろから影のような、それでいてヘドロのような。

そんな不気味な黒いモノが、溢れ出ていた。

でも、それを何故か

私は知っている気がした。

「何、、、これ。」

私は、ソレから目を背けたかったが

どうしても、何故か目線がソレに向いてしまう。

「本当に何なの、これ?」

私がそう呟いた瞬間だったろうか

それまで、グチャグチャに壊れた道の起伏の裏から

人間の形を取った、何かが出てきたのは。

「こんなところに人の子とは、珍しい。 

 いや、もしかしなくても

 人の子じゃないな、、、君?」

六本の腕を持ち、甲冑を纏った人型。

腰には瓢箪、後ろの四つの腕はそれぞれ薙刀を持ち

頭には、鮮血色の角が生えていた。

間違いない、鬼だ。

頭がそう判断した瞬間に、私はトリガーを引いた。

「抜剣 大蛇(おろち)」

私が発射した弾丸は、その一言と共に

一つの太刀に切り裂かれた。

その弾丸を両断した腕の主である彼が

こちらを、気だるげな表情で覗き込む。

「、、、君、敵だよな?

 ほら、とっとと答えてよ。」

油断してるなら、その隙に、、、

「行って、ショックボルト!」

電流が地を走り、目の前の標的を襲う。

「うん、問うまでもなかった。

 敵だ。」

地を這う電流を、刀に喰わせ

すっきりしたような顔で、そう呟く。

「じゃぁ、面倒くさいのは嫌いだし

 死のっか。」

その目に見据えられ、その恐怖で

体が金縛りにあったかのように動かなくなる。

鬼はその強靭な足で地を蹴り、一呼吸の間で

私の目の前まで接近し、三つの刃を同時に振り下ろす。

『前に飛べ』

その瞬間に、通信機から声が響く。

私はそれに従って、目の前の刃に

自ら突っ込む。

すると、相手はそれを予期してなかったようで

刃は、空を切った。

ただ、問題が一つあるとしたら

そいつの間合い内に完全に入ってしまったことだろう。

「人型の敵なら、まず頭を狙え。

 そしたら、まぁ時間稼ぎくらいにはなる。」

その言葉と共に、目の前のそいつの顔に

強烈な蹴りが入れられ、目の前からそいつの姿が

元からいなかったかと錯覚する速度で消え去る。

「それと、お前のライフルは

 電気を内部充填して威力を上げる

 レールガンに変えといた。

 って、あいつが言ってたぞ。」

「メビウス君、なんでここに?」

メビウス君は確か、病室で治療を受けていたはず。

「まぁ、細かいことは後に話す。

 それより今は、こいつを倒すとしようか。」

そう言い、メビウス君は銃を構える。

「、、、分かった。」


さてさて、来てみりゃ完全に封印されてるなんかと

日本古来の妖怪だろう奴が出てくる、ね。

あいつの現界が近づいてるってことか。

「あー、めんどくさい。

 めんどくさい、めんどくさい。」

そう言いながら、鬼は瓦礫の中から身を起こす。

立て直されたら面倒くさいな。

なら、、、、やってみるか。

「レミエル。」

「何? メビウス君。」

「俺の心の中を見る覚悟はあるか?

 そして、お前は俺に心を見られる覚悟はあるか?」

今から行うのは、エンゲージと呼ばれる

いわゆる共鳴現象のようなモノ。

互いの存在同士、いわゆる魂や心と呼ばれるものを

繋ぎ、それによって未知の現象を引き起こす。

ただ、それが一番効果を発揮するのは

互いが互いを信じている時。

逆に言えば、互いを信じられない者同士がその現象を

引き起こしても、互いの足を引っ張るだけになってしまう。

しばらくの沈黙の後、レミエルは

意を決したかのように言う。

「きっと、大丈夫。

 、、、こんなこと、偉そうには言えないけど。

 誰よりも君を知ってるから

 だから、君がやろうとしていることを信じる。」

「俺の事を信じて欲しい、って

 お願いしようとしてたんだけど

 それすら杞憂に終わるとは思わなかったな。

 じゃぁ、やるぞ。」

二つの声が、重なり合う。

「「エンゲージ!」」

自分の中に、大量の感情や

相手のすべてが流れ込んでくる。

「なるほどな。

 道理で、エージェントの前提条件とまで

 言われるわけだ。」

その流れ込んでくる情報や感情が、一時的に収まると

自身の中に、自身の知らない何かの力が

形成されていくのを感じる。

「心が、繋がるって

 こういう事なんだ。」

レミエルもそれを感じる様で

不思議そうに自身の体を見つめる。

「何を仲良く、、、、

 めんどくさいから、早く死んでよ。」

鬼は完全に体勢を立て直したのか

その薙刀をこちらに投げつけてくる。

「ウェポンラック三番射出。」

刃が届くより早く、レミエルが背負っていた

ウェポンラックから、盾が射出され

その盾を受け取ったメビウスが

薙刀を弾く。

「レミエル、やれるか?」

今は、思考が直結されているも同然の状態だ。

だから、言わなくても、、、レミエルには伝わる。

「分かった。

 少しだけ時間を稼げばいいのね。

 やってみる。」

エンゲージを行うと、能力の上昇や思考の共有以外に

もう一つの、特異能力が目覚める可能性がある。

そして、今俺の中で生成されている力は

間違いなくその特異能力である

【共鳴能力】と呼ばれるモノだろう。

脳裏に、力を形にする言葉が次々と浮かび上がって来る。

『音が告げるは零の時。』

時に、その詠唱は天使でもエージェントでも

成立すると言われる。

今回は、俺が詠唱した方が早いのか

レミエルが詠唱した方が早いのかは分からない。

『それは始まり、もしくは終わり。』

ただ、それは今どうでもいい

この力が、目の前の鬼を葬り去れるものならば

『それは神さえ触れることあたわず。』

レミエルが、空中から必死に発射する弾丸が

目の前の鬼を足止めする。

「なにをやろうとしてるのか、知らないけど。

 やらせないよ。」

やらせないって?

ならもう遅いな。

『奏でろ。 時の調べ!』

言葉が、形の無い力に形を与える。

詠唱の完成と同時に

自身の体の時間が加速し、弾丸すら

スローモーションかのように映る。

「これは、、、?」

「初めて使ったからよく分からんが

 時間加速系の能力だろう。

 一気に畳みかけるぞ!」

「うん、分かった!」

迫りくる刃を撃ち壊し、鎧の隙間を切り裂く。

相手が距離を取れば、レミエルの容赦ない電撃が降り注ぎ

全ての武器が、リーチ外になり

だからと言って、馬鹿正直にメビウスとの接近戦を

行えば、薙刀は長すぎて使い物にならず

刀一本と、その身で戦う事になる。

「今だレミエル!」

超至近距離の接近戦で、俺に意識を取られれば

俺が離脱するその瞬間に

「電磁加速機構、最大出力。

 放て、レールカノン!」

レミエルの最大火力が叩き込まれる。

何処に逃げても、逃げられない。

そして、消耗戦を続けていれば

鎧は壊れるし、刃だってなまくらに変わる。

「んじゃぁ、これで終わりにしようか。」

その俺の言葉と共に、レミエルが翼を羽ばたかせ

相手の背後に回り、ライフルの銃口を当て

その動きに合わせて俺も

鎧が壊れ肉が露出している部分に銃口をねじ込む。

「照準ロック バーストファイア!」

「電磁加速機構、最大出力。

 放て、レールカノン!」

前と後ろから放たれたとてつもない火力の銃撃によって

目の前のデモンズは、完全に息絶える。

「ふぅ、、、これでひとまず落ち着けるな。

 んじゃぁ、あそこの岩の情報だけ抜き取って

 とっとと、こんなとこからおさらばしようか。」

話はあとにとっておこう。

わざわざ危険地帯で話すようなことでもないし、な。

そんなことを思いながら、レミエルに微笑みかける。

「うん。

 たしかに、こんなところからは

 早くおさらばしよっか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る