第7話 今も変わらぬ呪い

バン バン バン

狂ったかのように、ソレを撃つ。

ソレが死んでいようと関係ない。

ただ、ただ、狂ったかのように撃ち続ける。

「お前さえ、、、お前さえ!」

悲鳴にも似た叫びが一人寂しく木霊する。

胸の中を、悲しみ、後悔、憎しみ

そして自身を縛り付ける使命が駆け回り

心をズタズタに引き裂く。

「許さない、許せない、、、。」

殺した、殺した、死んでも殺し続けた。

弾のある限り撃ち続けた。

ただ、俺の心は晴れない。

それどころか、胸の中を別のモノが駆け巡り

心をグチャグチャに搔き回す。

そんな俺を現実に引き戻したのは、カチッという

弾切れを告げる引き金の音だった。

「、、、弾切れ、か。」

メビウスは、力なく壁り寄りかかり

悲しそうに笑う。

「所詮、俺はあの時のままだったか。」

目の前に広がるのは、自分が作り出した惨劇の光景。

一片の慈悲もなく、不必要なまでに残酷にかき乱された

死体一つだけが転がっている。

「俺の事をよく知ってる、ね。」

その通りだった。

俺が死に、俺が生まれる。

それに一番大きくかかわっていたのが、こいつ。

こいつが居るのは、なんとなくだが予測は付いていた。

だからこそ、バケモノじゃなく

こいつを人として討とうと思った。

「結局、どう足掻こうが

 俺は、、、バケモノってことか。」

でも、こいつの姿を見た瞬間

感情が溢れ出して止まらなかった。

頭の中が、真っ黒な感情で満たされて

周りの事なんか何一つとして見えなかった。

感じなかった、聞こえなかった。

「俺は、どうしたらよかったんだろうな。」

恨むなと言われても、俺は聖人でも

仏でもないから無理だ。

許せと言われても、忘れろと言われても

自分が死んだことを、許せるわけも

忘れられるわけもなかった。

だから、感情に従うしかなかった。

ただ、一つ思う事があるとすれば。

「また、俺をバケモノと呼ぶ人が

 一人増えちまった、か。」

雨が降りはじめる。

いや、だいぶ前から降っていたのかもしれない。

その、紅い、紅い、決して止まない雨は。


逃げた、逃げた、逃げた。

恐怖より、死より、なにより大事だと感じた

彼から逃げないことを捨てて、逃げた。

怖かった。

人とは思えなかった。

私にはあんなのはバケモノにしか見えなかった。

でも、逃げた自分に対して

罪悪感の様なモノは、何故かある。

なんでだろう。

少し思い返してみる。

「今回が、初めてじゃなかった気がする。」

あの時の頭の中にあった考えを思い起こしてみる。

すると、一つだけ自身の意思も考えも

混じっていない浮いた単語が存在していた。

『今回も 逃げた』

この単語、これだけが浮いていた。

その言葉を思い出そうとする。

ただ、それを妨害するかのように

思い出そうとする度に、言い表しようのない恐怖が

私の脳内で増殖していく。

でも、忘れていちゃいけない気がする。

そう思い、彼の居た方に歩き出そうとする。

「彼に聞いて、確かめなきゃ。」

、、、体が動かない。

動くことを拒否している。

だって、怖いから。

彼が作り出す地獄の片鱗を見た。

そして、私が思い出そうとするものも

きっと地獄の片鱗、いや

そんな生ぬるいものではないだろうから。

だからこそ、怖い。

「地獄を、わざわざ自分から

 見にいかなくても、、、いいよね。」

そう思い、私はA&Hの本部に帰ろうとする。

が、そんな私の頭の中に

一つの考え、というより

使命感の様なモノがが浮かび上がる。

『彼を放っておいてはいけない』

その使命感の様なモノからは

自分たち天使の存在意義である

『人間を守る』と同じほどの重要性を感じた。

だから、きっと私はそうしなきゃならない。

だけど、やっぱり

「あんな姿を見せられてまで

 一緒にはいられない、よ。」

そう呟き、レミエルは座り込む。

だって、自身の存在意義と同レベルの使命を

無視することはできない、けれどもそれを拒むのに値する

大きな恐怖感。

この矛盾を抱えたまま、使命を拒否する茨の道か

使命を拒むのに値する程の恐怖を感じながら

使命に従う茨の道の、どちらを進むか。

そんな問いに対して、答えを出せる者なんて

この世にそうそう居ない。

私がそうして座り込んでいると

上から声が聞こえてきた。

「初めまして。

 あなたがレミエル、だよね?」

見上げると、A&Hの紋章と03の数字を肩に刻んでいる

活発そうな顔つきの少女と

翼が片方しかない、不思議な見た目の天使が居た。

「そう、だけど。

 あなたたちは?」

「自己紹介がまだだったね。

 識別コード03 コードネーム ヴァルキリー

 気軽にヴァルキリーって呼んで。

 それで、こっちは相棒のエインヘリアル。」

その言葉に、エインヘリアルと呼ばれた天使は

少しだけ顔をこちらに向け、一言だけ

「よろしく。」

と言った。

「エインヘリアルは

 あんまり愛想がいい方じゃないけど。

 悪い奴じゃないから、安心して。」

その言葉に、エインヘリアルは不服そうな顔をするが

お構いなしと言った様子で、彼女。

ヴァルキリーは話を進める。

「ところでなんだけど、メビウスはどこか

 知ってる?」

その言葉に私は首をかしげる。

「通信機があるなら、位置は分かるんじゃないですか?」

彼は少なくとも通信機に当たるものを

持っていたはず。

なら、見つけることも、連絡を取ることも

容易なはずなのに。

「それがね。

 メビウスは、【独自行動権限】って言うのを

 持っててね。

 あの人がその気になれば、通信は繋がらないし

 逆探知すら不可能になる。

 そして、権限による強制的な呼び出し

 これもあの人がその気になれば

 拒否することだってできる。」

「じゃぁ、連絡がつかない、、、ってこと?」

その言葉にヴァルキリーは頷く。

「でも、何で彼を見つける必要があるの?」

「、、、【堕天】

 それの兆候が確認されたの。

 だから、最悪のケースを想定して

 絶対にあの人の力が必要になる。

 だから、探しに来たの。」

堕天?

私はその聞き覚えの無い言葉に、首をかしげる。

「あの、その堕天って?」

「天使が、デモンズになっちゃう。

 そんな恐ろしい現象の事。」

「、、、え?!」

信じられない、だって

「天使は人間を守るためにこの世に降り立つ。

 でも、それが壊れて、、、魂が悪意とかで汚染されると

 それはもう天使じゃなく、悪魔になる。」

私が言いかけたその言葉を、エインヘリアルが

代弁し、そして

それと同時に無慈悲な現実を叩きつけてくる。

「ま、まぁ、まだ兆候が確認されただけだから。

 そこまで心配する必要はないよ。

 あの人の力は、あくまでも

 最悪の事態を想定して、だから。

 落ち着いて、ね?」

ヴァルキリーが私を慰めようとしたのか

優しい言葉を投げかけてくる。

それは、気休めに過ぎなかったが

例え気休めでも、今の私には安心できた。

「それであの人、メビウスの居場所

 知ってる?」

ヴァルキリーは私が落ち着いたのを見て

本題に入る。

「それが、、、」

私は見たことを全部話した。

そして、心の中のこの使命感と恐怖による矛盾も。

すると、ヴァルキリーは

「分かるよ、その気持ち。

 ただ、私が言ってあげられるのは一つだけ。

 後悔しないように、選んだ方がいい。

 怖くても、その使命に背いても。

 自分が未来で、後悔しないように。」

そう言った。

その言葉には、哀愁と懐かしみの

様なものが混じっていた。

きっと、ヴァルキリーは過去に

後悔したことがあるのだろう。

自身で選択せずに、もしくは選択すら出来ずに

そのまま時が流れていき、後悔したのだろう。

そして、その言葉に続けるようにこう言った。

「それでも、どうしたらいいのか分からないなら。

 、、、私のわがままなんだけどね。

 あの人を、支えてあげて欲しい、かな?」

「どうして?」

私は興味本位でそう聞いた。

「私はあの人、トモヤ君に

 命を貰った、戦う力を貰った。

 そして、何物にも負けない信念と

 絶対に折れない心を、貰った。

 だから、私が本来は貰ったものと

 同じくらいのモノを返さなきゃならない。

 でも、トモヤ君に私が関わると

 それは、トモヤ君の覚悟を

 踏みにじることと同じ意味を持つ。

 だから、私にはトモヤ君は救えない。

 、、、重荷を背負わせるようで

 申し訳ないとは思ってる。

 それでも、私はトモヤ君を

 支えてほしいと思ってる、かな?」

ぎこちない笑顔を浮かべ

ヴァルキリーはそう言った。

怖いのは変わらない。

でも、怖いからって、私が目を背けてても

何も解決しないのは事実だ。

「そんなに悩むなら、最後にもう一度

 会ってみればいい。」

私が悩み、答えを出せないその様子を

じれったいと思ったのか、エインヘリアルは

そう言った。

「、、、確かに、その通りだね。

 ありがとう、二人とも。

 私、彼にもう一回だけ会ってみる。

 会って、確かめてみる。」

ヴァルキリーはその言葉を聞いて

笑みを浮かべ

「うん、きっとそれがいい。

『選んだところで、人は必ず後悔する。

 でも、何を選ぶでもなく、

 流されるままの人間は、きっといつか

 何かを選んだ人より、数十倍も後悔する。』

 今のは、私の師匠であるトモヤ君の受け売り。

 さぁ、時は金なりってね。

 私たちと一緒に、トモヤ君に会いに行こう。」

私は強く頷いた。

後悔だけはしたくない。

その後悔を私は知ってる気がしたし

もう二度と後悔したくない。

どこかそんな風に考えている自分が居た気がしたから。

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