第4話 あなたは、何?

「何を言ってるのかは知らないが

『死神の前で、死神を名乗ったのが間違いだったな』。」

その言葉と共に発射された弾丸によって

デモンズは文字通り沈黙した。

、、、本来はこれで事件解決万々歳な筈だった。

「ねぇ、あなたは、、、死神、なの?」

そんな疑惑が、レミエルの中で湧き上がる。

「、、、知らなかったのに、俺についてきたのか?」

メビウスはその言葉を聞いて、呆れるかのように答える。

その答えを聞いて、レミエルはライフルを構え

メビウスを照準の中心に捉える。

「、、、本当なの?

 本当だったら、私はあなたを撃たなきゃいけない。」

誤解、行き違い、それらは厄介なモノと

十二分に承知してたが、ここまで酷い誤解は初めてだな。

「お前がどう思おうと関係ないが

 俺は、何があっても敵にはならない。」

そう言い、メビウスは持っていたナイフと

ハンドガンを地面に落とした。

武器を、、、捨てた?

「どういうつもり、なの?」

「どうもこうも、お前が誤解してるだけだ。」

私の誤解?

でも、死神って言うのは、、、

「はぁ、、、こんなことを自分から言うのは

 恥ずかしいし、嫌なんだがな。

 俺の異名を、お前は知ってるか?」

その言葉を聞きレミエルは不思議そうな目をする。

「あなたの、異名?」

「、、、まだここまで言っても分からないか。

 俺の異名、二つ名は『青の死神』だ。」

「じゃぁ、なんであんなに紛らわしいことを?」

レミエルは不思議そうに問う。

「自身の異名と同じ名前を持つデモンズと

 戦うことになれば、皮肉の一つや二つくらいは

 言いたくなる。」

そう言いながら、メビウスは捨てた武器を

拾い上げ、仕舞う。

「いや、それはいいとしても。

 あなたの、、、あの力は何?

 それに何で、死神って呼ばれてるの?」

死神、それは文字通り死を運ぶ存在。

そんな異名が付くなら、それに応じた

何かをこの人は持ってるはず。

そして、さっきのあの力。

、、、やったことは、何かの呪文みたいな事を呟いて

壁をただ触っただけ。

そんな条件で発動する能力なんて

私は知らないし、人間がそんな力を使えるとは思えない。

「どっちを聞いたとしても、きっとお前は

 後悔するし、俺も言ったことを後悔する。

 それでも聞きたいなら。」

彼のその言葉に、嘘は感じられなかった。

何故そう感じたか。

その時の彼の言葉は何か得体の知れない様な

おぞましい何かを含んでおり

その目は、文字通り何かを殺す目だったから。

理由なんてない、でも、、、目の前の何かが

本気だ、と思うには十分すぎる材料だった。

「、、、」

だからこそ私は、その問いに答えられなかった。

「多少は賢い判断ができるか。

 これからも、俺の守護天使として

 隣に居続けるつもりなら、俺に深入りはしないこと。

 それが賢い付き合い方だ、とは言っておく。」

人と人、人と天使。

どちらも心を持つ存在、互いに触れられたくない

心の一部や、過去、自分の何かは存在するものだ。

だから、きっと誰かに深入りすることなんて

不幸しか招かないんだよ。

そう心の中でメビウスは呟く。

「それと、エンゲージも禁止。

 分かったか?」

エンゲージ、、、?

「その、エンゲージって何?」

あぁ、こいつは知らないのか。

「細かいメカニズムは俺も知らないが

 エージェントと守護天使の魂を

 繋ぐことによって、互いに能力を発現させる。

 まぁ、一言でいえば互いがパワーアップする。

 っていう現象だ。」

「、、、なんで、禁止なの?

 強くなれるんなら、やるべきじゃないの?」

当然の疑問、か。

「エンゲージは互いの魂を接続する行為。

 これの意味が分からないほど馬鹿じゃないだろ?」

確かに知るべきじゃないこととかはあるけど

流石にそこまで拒まなくたって、、、

そう思い、彼に言おうとしたが

その勇気が、何故か出なかった。

「さて、と。」

そう言いながら彼はリーパーの死骸を担いで立ち上がり

私にこちらに来い、と手招きした。

「何処に行くの?」

「ちょっとした友人のところさ。

 でも、絶対に武器を出すなよ?」

そう言いながら、何故か彼は

都市部ではなく、郊外に向かって歩き出した。

何を聞いたところで私も一緒に行くから

聞く必要はないんだよね、多分。


「着いたぞ。」

彼がそう言い指さした場所は、まごう事なき廃墟。

いや、事故物件と言った方が雰囲気的には正しいとでも

言わんばかりの雰囲気を漂わせた場所だった。

周りに人はほとんど住んでいる雰囲気はなく

そこの周りだけ、不気味なくらい静かであった。

「本当に、ここにあなたの友人が居るの?」

レミエルが、訝し気にメビウスにそう問いかける。

「あぁ。

 そう言えば、お前。

 そのライフルは外に置いておけ。」

「なんで?」

「厄介ごとを増やしたくないだろ?」

彼の言葉を聞いて、私はその建物の壁に

ライフルを立て掛けた。

「んじゃ、行くか。」

それを確認した彼は、ドアの無いその建物の壁を

ノック代わりとでも言わんばかりに数回叩いた後

その建物に入り、階段を上り始めた。

「本当にここに人なんているの、、、?」

あまりに何もなさすぎる、というより

人がもうどこかに立ち去ったかのような、、、

そんなことを呟くと、彼は衝撃的なことを口走った。

「人はいないぞ?」

「、、、はい?」

その言葉に衝撃を受け、立ち止まっていると

階段の上から何かが顔を出した。

「ふぁーぁ。

 眠たいんだけど、僕になんか用~?」

そこには、虎の様な見た目をしつつ

鼻だけが象のような見た目をしている獣の上で

横になって、こちらを見ている

尻尾が生えた少年がそこにはいた。

「バク、お前が知ってることと

 お前の力と引き換えに

 こいつの死骸をやる。

 どうだ?」

彼がそう言うと、その少年は眠たそうね目をこすって

「こいつの死骸って?

 お~、リーパーの死骸。

 これはおいしそうだねぇ。」

おいしそう、、、?

「ちょ、ちょっと!

 メビウス、これはどういう?!」

慌てるのも無理はないか。

「ん?

 そこの天使さんは、何の御用~?」

、、、今までの発言と見た目。

どう見てこいつはデモンズ、私の倒すべき、敵!

そう思い、そのデモンズを倒そうと

私は思いっきり電気を纏い、放出した。

が、

「やめろ、レミエル。」

と、メビウスがその電流をナイフに当てることで逃がし

そのデモンズを庇った。

「どうして庇うの?

 そいつは敵でしょ!?」

、、、慌てるのまでは分かってたがこいつ

聖種すら知らないのか?

「こいつは敵じゃない。

 デモンズだが、聖種っていう人間とデモンズ

 どちらに対しても基本は中立で

 無害な奴等だ。」

デモンズが、無害、、、?

「そうだよ~。

 僕はバク。

 君も一度は、聞いたことがあると思うよ~。」

バク、バクってあの獏?

「悪夢を食べる、妖怪?」

「そうだよ~。」

全く敵意の無い柔らかい声でそうバクが答える。

すると、レミエルはバクに

敵意が無いのをやっとわかったのか

纏っていた電気を解除した。

「、、、やっぱり武器を持ってこさせなかったのは

 正解だったな。」

メビウスが呆れ気味にそう呟く。

「君が先に言わないから、、、」

「そんなこと言われても、こいつの存在を

 本部に知られてみろ。

 こいつは場合によっては味方にすらなってくれるのに

 わざわざ敵に回して、討伐。

 なんてことが普通に起きかねないぞ?」

、、、そっか、そうだよね。

「そうそう。

 だから僕は、死神君に協力する代わりに

 見逃してもらってるってわけなんだ~。」

そう言い、バクは悪戯げに笑った。

「まぁ、それはさておき。

 切り裂き魔って知ってるか? バク。」

そう聞かれるとバクは、顎に手を当て

考えるような仕草を見せた。

「切り裂き魔~?

 あっ!

 知ってはいるけど~、その前に、、、」

はぁ、やっぱり報酬は先払いじゃないと動かんか。

バクがそれを言いかける前に、メビウスはこう言った。

「ほら、こいつはくれてやるから

 ちゃんとやることはやってくれよ。」

そう言い、彼がリーパーの死骸を投げると

無我夢中と言った感じで、死体を霧に分解し

それを吸うことによって、リーパーの死骸を

ペロリとバクは平らげた。

「それで

 切り裂き魔、だっけ~

 切り裂き魔、別名ジャック・ザ・リッパー

 うんうん、知ってるよ~。」

合ってるんだが違うんだよな。

「歴史上の人物じゃなくてだな。」

「ん?

 だって、切り裂き魔って言ったら

 そいつじゃないの~?」

、、、こんな価値のない情報しか持ってないのか?

「知ってることはそれだけってことか?」

メビウスは呆れた表情で、バクにそう問うが

「いや~?

 何処に出るのかも知ってるよ~。」

と、言った。

ちょっと待て、出る?

ということは、こいつが言ってる事はつまり、

歴史上の殺人鬼と同じ名を持つデモンズが

この世に存在する、ってことか?!

、、、イレギュラーすぎるな。

「その場所は?!」

「そんなに慌てなくてもおしえるって~

 出る場所は、毎回ピエロが出る場所の

 中心なんだって~」

ピエロ?

そういえば、そんな奴いた気がするな。

幻種『ピエロ』脅威度 暗闇

人間を継ぎはぎしたような見た目をした

人食が大好きなイカレてるデモンズ。

「そのピエロが出る場所は?」

「ん~

 それは僕も知らないんだ~。」

流石に知らないか。

まぁ、情報が出ただけいいとしよう。

「まぁ、情報はいいとして

 お前にやってもらいたいことがあるんだが。」

その言葉を聞いてだるそうにバクは答える。

「条件次第だね~」

ちょっと面倒だな。

でも、、、仕方ないか。

そう思い切り、メビウスは条件を提示する。

「切り裂き魔と一緒に出る、ピエロの除去。

 その代わりに、お前がピエロを食ってる間と

 戦ってる間、そして戦い終わった後もしばらく

 こっちで、人の目につかないように

 近辺を封鎖してやる。

 これでどうだ?」

バクは、人の悪夢とデモンズの死骸が何よりの好物。

これで吊れてくれなきゃ実力行使しか方法はないんだが。

「ん~

 じゃぁ、ピエロの死骸と悪夢を僕にくれて~

 僕の安全を保障してくれるってこと~?」

バクが眠たそうにあくびをしながら

メビウスにそう問いかけると、一秒と待たず

メビウスはこう答えた。

「そうだ。」

「うん、それなら

 やってあげてもいいよ~。」

バクのその答えを聞き、メビウスはそっと胸を撫で下ろす。

よかった。

実力行使はごめんだからな。

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