第3話 死神
戦いの中で黒い人影が立ち上がる。
血に塗れ、それでも尚止まることを知らない
黒い人影が、煙の中から立ち上がる。
私は声を出そうとした。
なぜなら、それ以上戦ったら
その人が死んでしまう気がしたから。
必死に呼びかけた。
でも、その声は
その人には届かなかった。
「、、、おい、、、おい、聞こえてるのか!」
そんな声と共に、私は現実に引き戻された。
「ご、ごめん。
なんか私、ちょっとぼーっとしてて。」
「それで、、、
お前は何の力が使えるんだ?
一応データには目を通しているんだが
確認しておきたくてな。」
そう、今私はメビウスというエージェントの
正式なパートナーとして登録され
彼と一緒に、初任務である哨戒任務への
準備をしている最中だった。
「え、えーとね。
電気と雷?をちょっと操れて、、、あと」
歯切れの悪そうに言うレミエルにメビウスは
不信感を覚えたのか
「もう一つは?」
と、少しうんざりした様子で問いかけた。
「予知夢、って言っていいのかな。
多分そんな感じのものが偶に見えるの。」
予知夢、、、ねぇ。
俺の力と類似してるのか?
その発動タイミングすら分からない予知夢は置いといて
電気と雷を操れる、か。
可もなく不可もなく、って感じだな。
どれだけのエネルギーを扱えるかは本人の
ポテンシャル次第ではあるが、まぁ
能力としては及第点か。
「ライフルの使い方は分かるな?」
「うん。
照準を合わせて、トリガーを引く。
ずっと幽閉されてたけど、流石に
これくらいのものは見てすぐに使い方がわかるよ。」
そういえば幽閉されてたんだったな。
だとすると、常識の欠如がある可能性があるのか。
「じゃぁ哨戒任務の前に、もう一度確認する。
俺は前衛、お前は後衛。
接敵した場合は、なるべく相手から距離を取って
空を飛びながら、援護射撃をすること。
そして、俺の指示には絶対に従う事。
分かったか?」
「うーん、私たちペアなんだから
そんなに上から目線で言わなくても、、、。」
「無駄口叩く余裕があるなら大丈夫だな。
ほら、行くぞ。」
そんなレミエルの言葉を無視し、メビウスは一方的に
こう言い、先に出発してしまった。
哨戒任務を始めて程なくしたころ、一通の通信が入った。
『あー あー テストー テストー
聞こえてるかー?』
いつものアイツだ。
軽薄そうな態度をとっている癖に
ナンバーズ入りの実力者。
ま、アイツに頼ってる俺に言えることではないか。
「こちら00メビウス。
何かあったのか? 02サンライト。」
そうメビウスが通信の相手、サンライトに問いかけると
サンライトは少し言いにくそうにこう言った。
『いやぁ、ちょいと面倒な奴を見つけて
それで代わりに、、、』
相も変わらず、ぐうたらというかなんというか。
「倒してほしい、と。
いいだろう。
だが、その代わりに
切り裂き魔の情報をもっと集めてくれ。」
メビウスがそれに承諾するや否や、サンライトの
声のトーンが数段軽くなり、あっさりと
メビウスの条件を飲んだ。
『はいはい、それくらいならお安い御用さ。
出たのは夢種『リーパー』、脅威度は暗闇。
出現場所は建築途中のビル、まだ犠牲者は出てないけど
奴の動きが活性化すると面倒だから
早めに頼むわ。』
リーパーね。
確かに、索敵と広域殲滅が得意なあいつらにとっては
建物をぶっ壊さないでアレをやるのは骨が折れそうだ。
今の一連のやり取りを聞いたレミエルがこんな質問を
投げかけてきた。
「デモンズを倒しに行くのは分かったけど
その、サンライトって人と
切り裂き魔って、何?」
、、、答えて何かあるというわけでもないし
素直に答えてやる、か。
「移動しながらざっくり話すぞ。
対処が遅くて誰かが死にました。
そんな話はお前も望んでいないだろ?」
その言葉にレミエルはコクコクと頷く。
「じゃぁざっくり話すぞ。
まずさっきのサンライトってやつは
ナンバーズの一員。
簡単に言うとA&Hの切り札の一人だ。」
ナンバーズ、、、切り札。
強いエージェントってことかな?
「そして、次の切り裂き魔。
これは最近頻発している殺害事件の犯人。
それの総称だ。
実行犯が一人か二人か、いつ行われてるか
それすら足取りがつかめてないし、人物像が
分かりすらしない。
それに加え、その犯行手口から切り裂き魔と
呼ばれてる。」
、、、連続殺人鬼?
「人間が人間を殺した場合って
警察が動くって聞いたんだけど。」
レミエルがそう問いかけると、メビウスはこう返した。
「普通の場合はな。」
それを聞き、レミエルは怪訝そうな表情で
メビウスに質問する。
「普通の場合じゃないってこと?」
その言葉にメビウスは頷くと、切り裂き魔に対しての
自身の考えを話し出した。
「切り裂き魔の手にかかった犠牲者の
死体に共通されているのは
あり得ないくらいに綺麗に体を切り分けられ
そして、切り分けられた後で
再結合されている。
この一つの特徴があるんだ。
人間を文字通り綺麗に切ることなんて
不可能に近い芸当だからこそ。」
「デモンズの仕業、、、ってこと?」
「あぁ。」
そんな話をしながら走っていると
そのデモンズの出現位置にたどり着いていた。
「さて、仕事を始めるとするか。」
そう言いながらメビウスは、ハンドガンを取り出し
上部をスライドさせ、弾丸を装填し
臨戦態勢を取りながら、建物の入口まで近づいた。
「お前は上空からの監視を
俺は内部を見てくる。」
メビウスはそう言い残すと、ハンドガンを構えながら
建築途中のビルの内部に入っていった。
「分かったけど、
デモンズが居たら私をすぐ呼んでね!」
そんな自信に満ちた声が外から聞こえてくるが
「そんなデカい声出したら気づかれるだろ。」
と、メビウスは小さな声でぼやいていた。
カツ カツ
自分の足音だけが明確に聞こえる。
中途半端に壁が作られているおかげで
音は反響し放題で、相手にはこちらの位置が
バレていると思った方がよさそうとでも
思った方がいいような状況だった。
「三階クリア
四階に上がる。」
三階のクリアリングを済ませ、四階への階段に足をかける。
その瞬間だった。
壁を通り抜け、音もなくこちらに死の刃が
迫ってきたのは。
「やっと尻尾を出したか。」
リーパーからしたら意表を突いた
急襲のつもりだったのだろう。
「甘いな、リーパー。」
だが、メビウスは分かっていたかのようにそれを
一歩横にずれるだけで躱すと
すれ違い様にその背中に向かって
銃弾を数発撃ちこんだ。
§°±〇〈
その銃弾が急所に入ったのか
そのデモンズがうめき声を上げ、また
奇襲をするために、壁の中に溶け込んでいく。
「大丈夫!?」
そんな風に慌てながらレミエルが建物の中の
メビウスに合流してくる。
「、、、お前は外からの援護だ。」
だが、メビウスは忌々し気にレミエルを見た後
そう言い捨てた。
「ちょっと、仲間は多い方がいいでしょ?」
そんな風に、レミエルは必死に説得する。
「正直この状況じゃ、デコイが一個増えたのと
大して変わらない。
それに、リーパーの十八番は奇襲戦術だ。
感知能力を持たないお前じゃ
ただの餌になるだけだ。」
それに反論しようと、レミエルが口を開こうと
したその瞬間。
また、壁の一部からリーパーが奇襲を仕掛けてきた。
「後ろだ!」
そう言いながら、メビウスはレミエルの後ろに回り
ナイフでその刃を止めているが
力で負けているのか、少しずつ押し込まれていた。
「早く撃て!」
咄嗟の事に頭が真っ白になってた。
でも、やるべきことは体が知ってる!
「目標ロック、、、当たって!」
弾丸が発射された瞬間に、メビウスはわざと
リーパーに弾き飛ばされ、レミエルの弾丸を避け
敵の攻撃圏内から脱した。
そして、メビウスの体で隠れていたその弾丸は
リーパーに確かに命中した。
「危ないな。
俺が避けてなかったら当たってたぞ。」
「、、、それは、ごめん。」
さて、次は逃がすわけにはいかないな。
「お前は下がってろ。
ここからは、俺の舞台だ。
『開け 白の頁』」
メビウスがその単語を口にすると
ページを次々めくる様な音と共に
右目から青い光が溢れ、メビウスが動くたびに
その右目からの光によって、光の軌跡が描かれた。
「さっきも言っただろう?
甘い、と。」
メビウスの様子が変わったことにより
危機感を感じたのか、リーパーはまた下がろうとするが
『記せ 白の頁』
メビウスがたった一言そう呟き、そして
ほんの少しだけひびの入っている壁に手を当て
『砕けろ』
と言った。
ただそれだけだった。
だが次の瞬間に、その触れていた壁と
繋がっている壁に次々大きなひびが入り
リーパーが隠れようとしている壁と共に
纏めて砕け、粉となった。
その光景を驚くような目で見つめているリーパーが
次にメビウスの方に視線を戻すと、そこには
青い光の軌跡だけが残っており
その代わりに真後ろから、冷たい殺意だけが伝わってきた。
±°¶§
「何を言ってるのかは知らないが
『死神の前で、死神を名乗ったのが間違いだったな』。」
そう言い、メビウスはトリガーを引いた。
専門用語など
ナンバーズ
識別コード00から04までの識別コードを持った
エージェントと守護天使をそう呼称する。
ナンバーズの実力は、A&H内での最高峰レベルであり
逆に言えばナンバーズが全員が対処してでも
倒せないデモンズは、人類には倒せないデモンズ
と、言える。
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