第2話 識別コード 00-01
無機質なエンジン音と共に、空から一機の輸送機が
迫ってくる。
そして、そのエンジン音が鳴り止むと共に
『輸送機着陸。
識別コード 00
エージェント メビウス 帰投確認しました。』
そんなアナウンスが聞こえ、その輸送機から
一人の少年が姿を現した。
「あの程度なら、俺である必要はなかったな。」
そうぼやきながら、少年が目線を前に向けると
少年の前に立ちはだかるかのように
護衛を連れ、不気味なほど自然な笑顔を浮かべた
男が一人立っていた。
「、、、今度は何の用だ?」
少年がそう皮肉じみた言い方で要件を訪ねると
「きっと、君の興味のあるものが見られる。
気にならないかい?
いや、きっと気になるはずだ
ほら、早くこっちに。」
その男はこちらに向かって手招きをすると
こちらの返答を待つことなく、俺の
興味のあるものとやらがある場所に、歩き出した。
「、、、相変わらず何を考えてるのか分からないな。」
そんな小さな愚痴を呟きながらもその少年は
男の後に続いた。
拡張次元、そこは私の生まれたところ。
私たち天使は、人間を守ることを存在意義として
拡張次元に集まった人の願いでその存在を確立し
この世に生まれ出る。
そして私たちは人間を守る。
守らなきゃいけない、傷つけたくない、悲しませたくない。
でも、私は、、、人間にとって危険らしい。
そんなことを思いながら周りを見回す。
「はぁ、、、いつになったら出られるんだろう。」
そこには、私がA&Hに捕まってから
ずっと見てきた白、白、白、白い壁だけが存在する
収容室の光景がいつも通り広がっていた。
「本当にいつになったら、、、。」
そんな事を今日も考えていると、そのいつもの白い空間に
ぽっかりと一つの穴が開き、そこから一人の男と
少年が入ってきた。
「さてさて、着いたよ。
君が間違いなく興味を持ちそうなものが
これさ!」
そう意味の分からないことを言い、その男は
私を指さした。
「、、、天使?
こいつを見せるため、俺をここに連れてきたのか?」
、、、天使って、多分私の話だよね?
「あのー、あなたたちは?」
そう聞くと、少年と話し合っていたその男が
こちらに振り向き
「おっと、紹介がまだだったね。
私は、、、まぁ置いておいて、隣の彼が
メビウス、凄腕のエージェントさ。」
そうして隣の少年を指さした。
ん、、、子供?
というより、青年?
少なくとも、戦いが得意そうなイメージは
受けないけど。
「メビウスって、そこの彼ってことなの?
そんなに強そうには、見えないんだけど。」
そんな風に少年の話題を口に出したが、少年は
こちらに振り向く素振りすらなく
自分のデバイスで何かの情報を確認していた。
もしかして無視されてる、、、?
「悪いね、彼は他人が嫌いなんだ。
ほら、君が望んでる天使が目の前に居るんだよ?
せめて、自己紹介くらいしたらどうだい?」
そうして話しかけられた少年だったが
聞いていないのか聞こえていないのか、沈黙を貫いていた。
が、少し経ったその時、その少年が唐突に口を開いた。
「オペレーター。 出撃準備。
silverbarrettの準備と
先の作戦区域付近のスキャンを頼む。」
『え? でもそんないきなり言われても、、、。』
「どうしたんだい?」
そう聞かれると、少年は空中に学校の映像を投影し
ある部分を指さした。
「さっきの作戦区域付近のトラップが反応してる。
だが、さっきの作戦時はスキャンに反応が出なかった。
となると、姿偽装、いや、、、認知阻害か?
いずれにせよ、厄介な奴が現れた。」
その少年の言葉を聞くと、男の声が急に固くなり
「総員、至急輸送機と物資を手配。
作戦区域付近の封鎖を急げ。
じゃぁ頼んだよ、死神君。」
そう聞かれると少年は、いつも通り
「自分の不始末くらいはつけるさ。
それに、言われるまでもない。」
そう答えた。
「レミエル君、悪いけど君にも出撃を頼めるかな?」
へ? 私、、、というか話が急すぎる。
けど、わたしが、人の役に立てるなら
そして、あの少年を
私が守ってあげるためにも、、、
「分かった。 私も行く!」
そうして、輸送機の中で揺られること数分。
『作戦区域付近に到着しました。
装備点検をお願いします。』
ハンドガン、MCD、コネクトリング
拡張次元リンクデバイス、拡張次元対応型近接戦用ナイフ
応急処置キット、軽量型拡張次元対応型ベスト
設置型簡易小型レーダー兼トラップ。
「こちら00メビウス、装備点検完了。」
えーっと、私の装備は、、、展開式防護壁
ウェポンラック、救急処置キット、MCD
コネクトリング、拡張次元対応型支援用ライフル、、、
よし! OK
「えーと、、、」
渡されたものを取り合えず持って来たけど、、、
「こちら00メビウス、
レミエルの装備点検完了を確認。」
『、、、仮のペアだとしても
ペアを組んでの初陣ということで
もう一回確認しますね。
A&Hではペアを組んでの作戦行動が
前提とされています、まぁあなたという
例外を除いてですが。
そして、ペアは人間と守護天使とで構成され
人間、エージェントを守護天使が守る。
そして、コネクトリングによってエンゲージ
という現象を引き起こすことにより
エージェントと守護天使、互いの能力を強化し
守護天使の力を、エージェントに何らかの
形で発現させます。
そして、ペアを組んでいる天使には
エージェントに応じた識別コードと、守護天使
という肩書が与えられます。
レミエルさん、あなたであれば識別コードは
エージェントメビウスのコード00の01番
ということで、00-01です。
ちゃんと覚えましたか?』
「分かった!」
初めて人の役に立てると分かり、意気込むレミエルとは
真反対にメビウスは、溜息交じりにこう言う。
「俺とこいつはペアじゃない。
データベースに登録すら済んでない。」
『・・・それについてなんですが
データベースに、登録、、、されているんですよね。』
やりやがったなあいつ。
「はぁ、、、了解。
ハッチを開けてくれ、上空から出る。」
そう言うと、輸送機の後方ハッチが開き
そこから冷たい風と、甘い香りが流れてきた。
「降下する。」
一番近い着地地点は、、、屋上か。
そうして、さっきの作戦で戦闘が起きた
学校の屋上に向かって飛び降り、空中で
クルリと輸送機にの方に向き直り、アンカーを射出し
輸送機に引っ掛けると、ゆっくりと着地した。
それに続くように、純白の二対の翼を羽ばたかせ
レミエルも降下し、メビウスの近くに降り立った。
「ちょっと君、、、飛び降りるとかあんな危ないことを
何で平然とやっちゃうの?」
どうでもいい事を気にする奴だな。
「君じゃない、メビウスだ。
、、、ッ。
あまり呼吸をするな!」
「ちょっとそれどういうこと?」
と、そんな話をしていると甘い香りが漂ってきた。
それは輸送機の中で嗅いだものと一緒であり
どこか安心感を感じさせるようなモノであった。
その匂いを心地よく感じ、深呼吸しようとすると
「だから、あまり呼吸するなって言っただろ!」
と、メビウスが咄嗟に口と鼻を手でふさいできた。
「俺の予測だが、多分こいつは幻覚剤と
似たようなものだ。
それも多分だが生物を騙すためのな。」
その言葉に首をかしげていると
メビウスはやれやれといった様子で説明し始めた。
「この学校内にデモンズが潜んでた事件があった。
そいつはさっき俺が倒したんだが、その個体が
今まで人に化けた事例は、確認されていなかった。
つまり、それをやったデモンズがいるってことだ。」
それを聞いてレミエルはさらに首をかしげる。
「なら、その時になんで
そのデモンズも倒さなかったの?」
すると、言いにくそうにメビウスは
「、、、それは見つけられなかった俺のミスだ。
そして、きっとあの時も今も
この学校のどこかに隠れている。
今出てきたのは、きっと近くで同族がやられた
焦燥感から、定住場所を変えようと
どこかに移動でもしようとしたんだろう。」
と話していると、猛烈な勢いで
青い炎の弾がいくつも突如として飛んできた。
「避けろ!」
レミエルが空に逃げ、メビウスが横に飛ぶことで
それを避けたが、その炎の弾が飛んできた方向には
何も見えなかった。
「やっぱりか、、、オペレーター。
相手は夢種『九尾』だ。
データ照合と、位置の割り出しを、、、っ!?」
メビウスが、通信を取ろうとするが
そんなのお構いなしと言わんばかりに、青い炎の弾が
幾つも降り注ぐ。
それを、メビウスは
ハンドガンで撃ち落としたり後ろに飛びのくことで避けた。
傍を見ると、レミエルも全弾回避できているようだった。
「空から見渡してみるから君はそこで休んでいて!」
人間にはそんなに重荷を背負わせるわけにはいかない。
私は守護天使なんだから、守ってあげないと、!
「上だ。 避けろ!」
「え?」
反射的にその声に従い、上を見てみると
そこには何もない普通の空が広がっていた。
「何もないけ、、、っ」
と、その次の瞬間に翼が焼かれるような痛みに
襲われ、反射的に翼を見てみると何故かその羽は
焼け焦げていた。
あれじゃぁ飛べない、自由落下して気絶、、、
流石にまずいな。
そう結論付け、自由落下するレミエルの元に
メビウスが即座に駆けつけて
地面に衝突する前に両手で受け止める。
「、、、幻覚の効果が出るのが想定以上に早いな。
その傷じゃ飛べないし、お前は幻覚のせいで
もう相手の術中だ、大人しく撤退しろ。」
メビウスは応急処置キットを取り出し
応急処置を施し、撤退を促す。
だが、案外レミエルは頑固なのか
それとも、自信過剰なのか。
「私が撤退したら君は、、、?」
と、レミエルはメビウスに問いかけた。
「バケモノの相手はバケモノがする。
いつも通りの単純作業だ。」
こっちも幻覚の効果をもう喰らってるだろうが、、、
どうにかするしかないしな。
「でも、誰かを置いてなんか行けない!」
その反応を見て、レミエルが引かない気なのを
悟ったメビウスは、溜息交じりにこう言った。
「分かった、でも俺の指示に従ってもらうぞ。
オペレーター、位置特定は出来たか?」
『すいません、その区域全体に反応が
出ていて絞り込むのはもっと時間が必要です。』
しょうがないか。
「オペレーター、位置特定はもういい
それより近辺の地形情報、過去のと現在のを
寄越してくれ。」
さっきの作戦で見つけられなかったってことは
何かに化けて自身を隠しているはず。
なら、過去にはなかった物で尚且つ
あっても違和感のない物に、相手は化けている筈。
「レミエル、展開式防護壁を展開準備してくれ。」
「分かった、けど、、、倒す方法はあるの?」
現在地は校舎南の屋上、そこを自由に狙うことができ
こちらを視認できる場所。
そして、今までにない自身の体を隠せるような大きさの
オブジェクトが存在する場所。
「九尾の位置は見当がついてる。
あとは、撃つだけだ。」
と、その時わずかに風を切るような音が後ろから聞こえ
「攻撃来るぞ、後ろだ。」
「分かった。防護壁展開!」
逃げられたら面倒だな、早く終わらせるか。
この匂いという名の幻覚の触媒は
輸送機の時よりきつくなっている
ということは、下からか。
そして下からこちらを視認でき、尚且つ
過去に存在してなかったオブジェクトは一つ。
「捉えた。
発射モード切替 モードdecision。
座標セット 演算完了 ファイア」
そうして発射された弾丸は、銃口から射出された
瞬間に姿を消し、中庭の中央にある
大きな桜の木の目前で実体化した。
そして、その桜の木に銃弾が命中すると
その桜の木の姿が揺らぎ、その桜の木が消えてなくなった。
「やっぱりか。」
そして、その桜の木が消えると同時に、その場所には
九つの尾を持った狐が狐火を纏い
戦闘態勢を取っていた。
「silverbarrett装填。 開け、白の頁。
見えた。
これで終わりだ!」
そうして一発の銃声が鳴り響くと
周囲に漂っていた甘い匂いは消え、九尾は倒れた。
『デモンズの信号ロスト確認。
お疲れさまでした。
あとは作戦処理班に任せて、帰還してください。』
オペレーターから戦闘終了が告げらる。
「やっと終わったか。」
と、メビウスが呟き、柵によりかかり
一息ついていると
「君、本当に強いんだね。
私、あなたを侮ってた。
ごめん。
でも、あなたが強い弱い関係なしに
私はあなたの守護天使らしいし
これから、よろしくね。」
と、手を差し伸べてきた。
「、、、お前、変わってるな。
俺には関わらない方が賢いぞ。」
そう言い、メビウスはその手を取らず
一人で輸送機の着陸地点に向かって行ってしまった。
「ちょ、ちょっと待って!」
そうして、慌ててレミエルは
メビウスの背中についていき、彼の前に回り込むと
「これからペアとしてやっていくんだから、、、ね?」
と、またメビウスに手を差し伸べた。
すると、メビウスはレミエルのその姿勢に折れたのか
「、、、後悔しても遅いぞ。」
と、手を取り握手を交わした。
レミエルはメビウスが握手をしてくれたことか
ペアを組めたことかどちらが理由かは分からないが
少し楽しげであった。
が、それとは対照的にメビウスは少し
落ち込んでいるようにも見えた。
専門用語など
最高管理者
A&Hでの最高権限者
正式名称がないのでそう呼ばれている。
silverbarrett
霊体持ちのデモンズ対処用の専用特殊弾薬。
MCD
正式名称 マルチコネクトデバイス。
腕部装着型の多機能デバイス。
拡張次元リンクデバイス
MCDに装着し使用するデバイス。
拡張次元とのパイプを繋ぐことにより、霊体持ちを
視認することができる。
拡張次元で人間が活動するためのデバイスとしての
役割も兼用している。
だが、実際に拡張次元に入り込んだことは
事故を含めなければ、一件も存在しない。
コネクトリング
守護天使とエージェントで『エンゲージ』という
現象を起こすことにより
エージェントに守護天使の能力を
何らかの形で一時的に発現させる。
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