Not a human 

@Maccha11

第1話 識別コード 00

潰れた目、拉げた足、そして弾け飛んだ腕。

傷口のありとあらゆる場所から、血が濁流となって

流れ出す。

それは、その命が終わりに向かうことを告げていた。

これは、彼なりの正義だったのだろうか

それとも覚悟だったのだろうか。

「ごめんな、、、置いて行くことに、なっちまって。」

一人の少年が未練がましく呟く。

「ダメ、、、ダメだよ!

 私を置いて行かないで!」

ふとその声の方向を見ると、彼女の泣きじゃくった顔が

そこにはあった。

「、、、そんなに泣くなよ。」

そっと彼女の涙を拭い、彼はもう動かないその体を

必死に動かし、何かを手に取った。

「、、、でも!」

それを震える手で大切そうに持ち、

そっと彼女に差し出した。

「、、、お前がいいなら、これを

 預かっていてくれないか?」

もう喋ることもつらいのだろう、その言葉は

途切れ途切れで、とても弱弱しかった。

「これは、、、?」

少年は、それを受け取った彼女の手に

自身の手を重ね、こう言う。

「俺は、もう一緒に居て、やれないが、、、

 お前を、こいつで守ってやることなら

 できるから、さ。」

血で滲んだ涙を流しながら

必死に取り繕った笑顔で、少年はそう言った。

「、、、分かった。

 また会えるその日まで、これは預かっててあげる。

 だから、絶対に、、、絶対に、、、」

少女は必死に涙を堪え、必死に笑顔を

取り繕おうとしていた。

それは、彼女にとっての最初で最後の

プレゼントだったのだろう。

「あぁ、、、やくそく、だ、、、」

その言葉と共に、少年の体は

役目を終えたかのように、全ての機能を停止し

深い、深い眠りにつくのであった。


「またか、、、クッソ、、、」

いつもあの夢を見る、少年と少女の悲しい別れ。

なぜ見るのか、本当にそんなことがあるのか

何もわからないが、あの夢を見るたび

毎回胸がざわつく。

一つだけ分かるのは、あのまるで予知夢の様な

夢を見ていい気分はしない、ということだけであった。

そんなことを考えながら身を起こし

悲鳴が木霊するこの世界へ今日も向かう。

耳をつんざくような悲痛、悲しげな叫び

そんな声ばかりが今日も響く。

この世界がそうなったのはいつからだろうか。

思い返せばきっかけは、何十数年前のあの時からだった。


ある時、人類は『拡張次元』と呼ばれる新しい次元を

発見し、その次元に干渉する方法を模索していた。

が、それは開けてはならないパンドラの箱だった。

そのパンドラの箱を開けてしまった人類に降りかかった

その厄災は、形を持ち人々を喰らった。

中には形を持たず、魂を食らうものもあった。

人はそんな彼ら厄災を【デモンズ】と呼んだ。

デモンズは、人類のたどり着くことができない

超常的な力を使い、破壊と殺戮の限りを尽くした。

そんな存在に既知の兵器が通用するわけがなく

人類はあっと言う間に破滅の淵まで追いやられた。

が、そんな時に拡張次元から現れたもう一つの

人ならざる力を持った存在、【天使】が出現し

人間を守るために戦った。

、、、が、それは一時の安寧にしかならなかった。

なぜなら、デモンズは無限にこの世界に現れては

今日もどこかで人を喰らい続けているからである。

そして、デモンズが決して終わることのない厄災だと

悟った人類は、ある一つの対抗策を講じた。

それが、人間と天使の協力による

恒久的な防衛能力の構築であった。

そうして人は天使の力を借り

人らならざる力をその身に宿し、デモンズへの

対抗手段を身に着けた。

だが、その力を持っているからといえど

全ての人を守ることは不可能であった。

故に今日も、悲鳴は終わらない。

「よし! 部長、こんな感じでどうでしょう?」

「ほうほう。

 デモンズと天使とこの世界の特集、、、

 確かに言われてみれば、出現当時の事は

 最近の事に引っ張られ過ぎて

 あんまり覚えてない人が多いかもな。」

そう言いながらその記事に目を通し

それが終わると悪戯じみた顔で

「でも、、、これ出したら、デモンズが

 君の前に出るかもよ?

 なーんてな。 よし! これで行こっか。」

「はい!ありがとうございます!」

それにしても、デモンズが俺の前に出る、、、か

面白い冗談を言うなぁ、部長も。

ただの学校内の掲示用の文章にデモンズなんか

食いつくはずがないのに。

そんなことを思いながら、いつもの部の掲示板まで

足を運び、その記事を掲載していると

何とも言えない寒気に襲われた。

それはまるで誰かに見られているかのような感覚だった。

『でも、、、これ出したら、デモンズが

 君の前に出るかもよ?』

その瞬間、部長の言葉が脳裏をよぎり

反射的に周りを見回したが、もちろん何かがいる

わけでもなく、いつもの放課後の廊下があるだけだった。

「出ないってわかってても、放課後の薄暗い学校で

 そんな話をされちゃ、少しは気になるよなぁ。」

自分に言い聞かせるかのように、そんな独り言を

呟きながら、掲示した記事をなんとなく眺めていると

他の部員のいたずらだろうか、それとも

オカルト好きの誰かの仕業か知らないが

こんな記事が掲載されていた。

『本校、三川高校で放課後に学生が失踪?!

 課題からの失踪か? それとも、、、』

「こんな時にやめてくれよ、、、薄気味が悪い。」

と、言いつつも怖いもの見たさでついその記事に

見入っていると、こんな追記を見つけた。

『この怪奇事件を解決するために

 A&Hの青の死神が、、、?!

 続編こうご期待!』

A&H、、、確かエンジェルアンドヒューマンだったっけか。

天使と人間がペアを組んでデモンズを退治する

特殊機関だっけかな。

それにしても青の死神?

、、、思い出せないなぁ。

通り名持ちってことはA&Hの中での

上位四人、通称ナンバーズの一員の

筈なんだけど、そんな奴いたかなぁ?

「ま、いいか。 そんなすごい奴がいるなら

 この学校を狙うバカはいないだろうしな。」

そうして、部室に戻り帰宅のため、荷物をまとめていると

一つおかしいことに気づいた。

「、、、ん? あれ、部長?」

さっきまでそこに居た部長の姿がなくなっていたのである。

「いつもは、最後まで残ってることが多いのに、、、

 先に帰ったのかな? 一応連絡しておくか。」

そうしてスマホの電源を入れ、部長の連絡先に

電話をかけてみると

「、、、ん。 だれだ?

 悪いが今調子が悪いから早く要件を

 言ってほしいんだが、、、」

調子が悪い?

「調子が悪いって、どうしたんですか部長?」

「お、裕也か。

 今日学校行けなくてごめんな。

 それで何の用なんだ?」

え?

「部長、今なんて言いました?」

「ん? 学校行けなくてごめんって、、、」

おいおいおいおいおいおいおい、、、え?

床に落としたスマホから響く部長の声は

もう耳に入らなく、幾つもの疑問と恐怖が

頭の中を猛烈にかき乱す。

じゃぁさっきまで話していた部長は? 誰?

俺の頭がおかしくなった? それとも夢?

俺は、、、寝てた? 

まさか、いや、あり得ない、、、よな?

その瞬間まで感じていた違和感はすべて

一瞬にして言葉にすらできない恐怖に変わった。

「嘘だ、嘘だ、嘘だ!」

早く逃げなきゃ、早く、早く!

慌ててドアを開け、廊下に出たところで

間違いなく、誰かに見られていると

否応にでも分かった。

拳を握りしめ、恐る恐るその方向を振り向くと

「だから言ったでしょう?

 そんなもの出したら、君の前に

 デモンズが出るかもよ?ってね。」

そこには人の形をとりながらも

まるで蛇のような体を持ち

獲物を見るかのような冷たいような目で

こちらを見据えるデモンズが

俺というご馳走を目の前に

舌なめずりをしていた。

逃げないと、逃げないと、逃げない、、、と?

そう考えたときにはもう足は動かなくなっていた。

「え? 足が、、、動けよ! 動けって言ってんだろ!」

恐怖ですくんでいたのではない、文字通り

動かなくなっていた。

それどころか、そのバケモノの瞳に捕らえられるにつれ

徐々に、手も、指も、瞼さえも動かなくなってしまった。

「あれ? 逃げるんじゃないの?

 もっと逃げて、その悲鳴を聞かせてよ。」

何の悪趣味か、まだ口だけは動くようになっており

咄嗟に

「来るな! 来るなよ! バケモノが!」

と、言葉で抵抗したが、それが逆鱗に触れたのか

「へぇ、バケモノ、、、ね。」

徐々に恐怖をあおるかのように、一歩ずつ

ゆっくり、ゆっくりとこちらに近寄り

優しく首に手を添えて、こちらを見て

問いかけてきた。

「ねぇ? 勝手にこっちをバケモノ呼ばわりして

 勝手に自分たちの都合で殺す人間と私たち

 どっちがバケモノなんだろうねぇ?」

その冷たい瞳をもう見たくないと願っても

瞼は動かず、かといって逃げることも

目線をそらすこともできず

表しようのない恐怖に駆られていると

『標的識別・・・竜種、幻種

 脅威度 暗闇 

 個体名 メデューサ

 敵性個体の排除を願います。』

「了解。

 発射モード切替 モードdecision。 

 座標セット・・・演算完了。

 ファイア。」

という、凛とした声と共に撃鉄の音が響き

それと共に、一発の銃声が鳴り響いた。

その瞬間、その銃声と共に放たれたであろう

銃弾は真後ろから飛来し、自身を透過した後

自分を覗き込むかのように張り付いていたバケモノの

腹部を貫いた。

その途端、体が動くようになり

思わずその銃弾が飛んできた方向を見ると

そこには青いコートを羽織った自分と同年代の少年が

まったく怖気づく様子もなく

それどころか、目の色一つ変えずに立っていた。

『個体名メデューサは相手の恐怖を増幅させ

 身体機能を意図的に止める特性を持っています。

 ご注意を。』

「知ってる。

 こいつとは何度もやりあったからな。」

怖がることで動けない力を発動させる?

え? じゃぁこの人は微塵も怖がっていないのか?

あの目の前の化け物を、、、。

「あんた、、、せっかくの飯の邪魔をしたんだから

 死ぬ覚悟くらい出来てるんだろうねぇ?」

少年はそのバケモノの威嚇を

まるでそんなものが無かったかすらのように

聞き流し、ハンドガンを片手で構えた。

「死ぬ覚悟が出来てるとは、、、いい子だねぇ!」

そのバケモノは体から幾本も伸びる

蛇のような触手を操り、鞭のようにしならせ

人を殺すことのできるほどまで破壊力を高めたその凶器を

少年に向かって振りかざした。

それは、周りの壁を軽々と吹き飛ばし

常人が当たれば一撃で死ぬであろう威力であった。

「嘘、、、だろ、、、」

俺は、その瞬間に少年が死んだと思った。

だが、その考えとは真反対に

その破壊によって生まれた煙の中から

その少年は一切の傷を負っていない無傷の状態で

姿を現した。

そしてその少年は

「それで終わりか?」

と、挑発じみた口調でバケモノに

近寄り、来いよ。 

と言わんばかりにそのバケモノを手招きした。

「黙れ黙れ黙れ! 守護天使すらいない一人の人間に

 何ができる!」

バケモノは、先ほどとは打って変わって

何か慌てているような様子で

罵詈雑言を浴びせ、乱雑な攻撃を放った。

が、少年はその光景に慌てる様子もなく

「開け、白の頁よ」

と、たった一言呟いた。

すると、少年の青色の右目から淡い光が溢れ出し

まるで本のページを次々とめくるかのような音が

周りに木霊した。

それと共に少年は走り出し、その触手を顔色一つ変えずに

躱し、叩き落とし、時にただのナイフで切り落としながら

ほぼ直線ルートで距離を詰め

そのバケモノの額にハンドガンを突きつけた。

「人間、、、か。」

そう言い、その少年が引き金に指をかけると

そのバケモノが表情を歪ませ、こう言った。

「は、はは、、、そうか、そうかお前が、、、

 青の死神か!」

その言葉のすぐ後に銃声が響き

バケモノは倒れ伏した。

「青の死神、、、?」

その少年はチラっとこちらに視線を向け

襲われていた少年の無事を確認したのか

「目標の排除及び、要救助者の無事を確認。」

『・・・こちらでも

 デモンズの信号ロスト、確認取れました。

 後処理は作戦処理班に任せ 

 識別コード00

 エージェント メビウス 帰投願います。』 

「、、、了解。」

その少年は、何事もなかったかのように

それがさも普通かのように

オペレーターであろう人物と連絡を取ると

何事もなかったかのように去って行ってしまった。



『A&H所属 ナンバーズ』検索・・・実行

・・・検索・・・検索該当結果を表示

A&H所属ナンバーズ一覧    

識別コード 01 コードネーム イージス

識別コード 02 コードネーム サンライト

識別コード 03 コードネーム ヴァルキリー

識別コード 04 コードネーム ラグナロク


「違う、あの人は確か、、、」

『A&H識別コード00』検索・・・実行

・・・検索・・・検索該当結果を表示

・・・エラー

『検索の該当結果が存在しません。』

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