翌日の昼休み。日山が神山を連れてやって来た。
「山口。これは、昨日の礼だ」
そう言ってノートを写す俺の机に置かれたのは、バナナ牛乳。顔を上げると、日山は美味しそうにバナナ牛乳を吸いながらあっくんに同じ物を渡し、すでにもらったらしい神山は、困ったような顔で手の中のそれを見ていた。
「そうだ、月山。文化祭でハンドメイド部が何をするか聞いて来たぞ!」
日山があっくんと話し始めたことで、手持ち無沙汰になった神山が、俺が写しているノートを見る。
「あ、これ、昨日の午後のやつ……俺、居眠りしてて、ノート全然とってなかったから……」
「そうか。昨日は倒れかけていたし、今日は大丈夫か?」
「あ、うん。もう、全然大丈夫。それより、神山の方は? ずいぶん歩いたし、帰りも遅くなったけど……」
「いや、問題ない」
「そう……」
気まずい。問題ないと言いながら、何か言いたそうに俺を見てくる。こっちから話を振った方がいいのかなと思っていると、神山が意を決したように口を開いた。
「山口」
「何?」
「何を隠してる?」
ぎくりと肩が跳ねる。神山に、何を気付かれたんだろうか?
「昨日、お前と月山だけ何か分かってるようで、俺には全く分からなかった」
実際には、あっくんも俺も何も分かってなかったんだけど、神山にはそう見えていたんだ。
「俺は付いて行くしか出来なかった」
付いて来てくれただけで、すごく助かった。無意識でも、弱ってたあの鳥を助けてくれたのは、神山だ。
「あの……」
全部話してしまおうか。日山の頭に俺にしか見えない鳥がいたことを。
でも、家にいる狐の神様や少年霊、その他もろもろの心霊現象を頑なに信じない神山が、俺の話をどう受け止めてくれるのか考えると、続く言葉が出ない。
「言えないなら、言わなくていい」
「えっ」
「だけど、助けがいる時は、ちゃんと言え。俺に出来ることなら、助ける」
神山の鋭い目が、優しく細められる。
思いもよらない神山の優しい言葉に、返す言葉が見付からないでいると
「うん! 助けて欲しいぞ!」
思いもよらない所から、勝手な返事をされた。
「お前はダメだ」
優しかった神山の視線が射殺すような鋭いものに変わり、声の主である日山を射抜く。
「なぜだ! なぜ僕は助けてくれないのだ!」
射抜かれたはずの日山が、平然と抗議する。その鈍感力、少し分けて欲しい。
「毎日助けてる」
「答えは教えてくれない!」
「ヒントはやってる」
「むー……英語は苦手なんだ……」
冷徹な視線の神山を、むくれた顔で睨み返す日山。
「ぷっ」
そんな2人を見ていると、思わず吹き出してしまった。
「「なんだ、山口」」
2人が揃って俺を見る。その姿に、再び笑いが込み上げてくる。
「お前ら、仲良しだな」
あっくんが面白そうに笑って、俺が言いたかった言葉を言う。
日山は「うん!」と嬉しそうにうなずいて、神山は、鋭い目であっくんを睨んだ。
睨まれたあっくんが、また笑って「ツンデレか?」と聞くと、2人揃って首を傾げたから、笑い声を抑えるのが大変だった。
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