「なんだ。どんぐりの森ではないか」

 あっくんの背中から飛び降りると、日山は周りを見回して言った。

「小神池に来たのか? 神社じゃなくて? 何しに?」

「えっ?」

 日山と神山が、俺を見る。助けを求めてあっくんに視線を送るけど、困ったような顔で首を振られてしまった。よく考えたら、あっくんにすらここに来た理由を話してなかったんだ。

「えっと……」

 追い詰められて、いっそ本当のことを話してしまおうかと考え始めた時、突風が吹いた。

「ぅわわっ!!」

 突然の突風に続いて、何かがバラバラと降って来た。木の側にいて降ってくるもの……小さい時、あっくんに木登りを教えてもらっていて、頭に毛虫が落ちて来た時のことを思い出した。慌てて頭や肩を払っていると「どんぐり!」と弾んだ声がした。見ると、日山が何かを拾っていた。

「なんだ。山口も浅尾先輩に頼まれて、どんぐり拾いに来たのか?」

「浅尾先輩って、誰?」

 俺が質問を口にする前に、あっくんが聞いてくれた。

「科学部の先輩だ。ハンドメイド部が文化祭でどんぐりを使った工作をやることになって、いろんな人に協力してもらって集めてると言っていた」

 聞いたことのある名前だと思ったら、料理部と兼部してる2年女子の誰かだった。あまり科学部に顔を出さない人達なのに、いつの間に頼まれたんだろう?

「へえー。科学部とハンドメイド部の兼部か。文化祭、大変そうだな」

 あっくんが、どんぐりを拾いながら話を続ける。2人にならって、俺と神山もどんぐりを拾い始める。

「違うぞ。浅尾先輩は、科学部と料理部だ。料理部には、ハンドメイド部と兼部の人が多いから、浅尾先輩も頼まれたのだ」

 この学校の文化部って、兼部の人、多いのかな? まあ科学部も週1だし、俺もやろうと思えば兼部出来るよなぁ……

「それで、山口もどんぐり探しに来たのか?」

「へ?」

 急に話を振られて変な声が出た。

「どんぐりの時期にはちょっと早くてなかなか集まらないって、困っているようだったからな。僕も前来た時は、全然落ちてなかったからな」

「日山も、ここにどんぐりを探しに来たの?」

「まあ、ついでだ。ここの池の水質調査をしようと思って取りに来たついでに、ちょっと探してみただけだ」

 つまり、どんぐりを探しに来て、どんぐりの代わりにヒナ鳥を持って帰ってしまったわけだ。

 俺が勝手に納得していると、再び強い風が吹いて、また降ってきた。

「おお、すごい! どんぐりがいっぱいになった!」

 幸い、降って来たのはどんぐりばかりで、虫は1匹もなかった。

「どうして、今日ならどんぐりがあると分かったのだ?」

 どんぐりを拾いながら、日山がきょとんとした顔で聞いてくる。日山の中では、今日の目的はどんぐり拾いに決まったらしい。高校生にしてはかなり幼稚な目的だけど、他に言い訳が思いつかないから、仕方がない。

 それに多分、このどんぐりは謝礼だ。ヒナ鳥をここまで連れ帰ってきた謝礼。苦労して、かなり迷惑もかけられた謝礼がこんな物かよと言いたくなるけど、これを必要とする人もいるから、良しとしよう。

 俺は、日山の質問に苦笑しながら「『神様のお導き』かな?」と答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る