そこは、何の変哲もない森だった。

 公園の奥の行き止まり。小さな空間に、まばらに木が生えているだけで、森とも呼べないのかもしれない。だけど、この森にはたくさんの生き物がいて、生き物でないモノもたくさんいた。俺にしか見えない、鳥の姿をしたなにか。それが、たくさん止まっている。1本の木に1羽づつ。琥珀色に光る目が、俺達と、日山の頭上の元ヒナ鳥に向けられている。元ヒナ鳥は、大きくなった羽を時々動かしながら、なぜか飛ぼうとしない。そんな様子を見ながら、俺は唐突に理解した。

 この鳥、飛ぶのを失敗して、日山の頭に落ちたんだ。

 思わず、笑ってしまった。なんで、日山の頭に取り憑いたのか不思議だったけど、なんて事は無い。頭に落っこちて、そのまま戻れなかっただけなんだ。なら、元の場所に帰してやればいい。それで終わるはず。飛び立つ準備をしながらも、元ヒナ鳥は、まだ飛ぼうとしない。

「あっくん、こっち」

「おう」

 森に入ってみる。一番近い木の前に来ても、まだ飛ばない。鳥達に見つめられながら森を歩いていると、細い木を見付けた。他に比べて背も低く、若そうな木。

「あっくん、こっち来て」

「おう」

 あっくんが、日山を背負ったまま来る。元ヒナ鳥は、前傾姿勢で羽を動かし、今にも飛び立ちそうになった。若い木まで数メートルの距離まで来た時、意を決したように、日山の頭から飛び出した。バタバタと忙しく羽を動かし、とても上手とは思えない飛び方。

「!!」

 まっすぐ木に向かい木の幹にぶつかると思った瞬間、スッと木に吸い込まれるようにして消えた。元ヒナ鳥が戻ったのを確認して用は済んだと言うように、ヒナ鳥を見守っていた鳥達は次々と光る目を閉じ、姿を消した。

「そんで。何すりゃいいんだ?」

「あ! えっと……」

 あっくんが目の前に来た。もう終わったと伝えるのは簡単だ。あっくんなら「そうか」と納得してくれるだろうけど、神山はそうもいかない。なんて説明しようか考えていると「ふわーぁ」と間の抜けた声と、あっくんの脇から足が突き出された。

「おう、日山。起きたか?」

「うん」

 さっきまで微動だにしなかった日山が、目を覚ました。

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