公園入り口階段から見下ろしたそこは、公園と言いながら遊具は1つもない。小さな池と、小さな森があるだけの、自然公園。

 階段を降りていると、風もないのに周囲の木々が小さく揺れた。その声が、俺には『おかえり』と言っているように聞こえる。同時に、神社の神様から感じた威圧感の、本当の意味に気が付いた。あれは、俺に教えてくれていたんだ。寄り道している暇はないと、さっさとここに連れて行けと。ちょっと……いや、かなり怖い教えだったけど、おかげで今日中に連れて来れたから良かったのかな?

 日山を背負ったままのあっくんを気遣いながら階段を降りると、木々のざわめきが大きくなった気がした。同時に、この公園にいるたくさんの気を感じた。池と森に住まうたくさんの生き物とそれ以外のモノの気を。

『わん! わんわん!』

 ハチが楽しそうに駆け回る。ハチに釣られるように、シェパードがハチを追いかけたり戻ったりを繰り返して、忙しく駆け回る。ハチとシェパードだけじゃない。神山の側から決して離れはしないけど、ラブラドールも秋田犬も、少しそわそわして見える。

「うわ! なんか急に重く……」

 あっくんを見ると、ヒナ鳥の様子が変わっていた。目をぱっちり開き前を見て、大きく羽を広げていた。

「えっ?」

 その変化に思わず声が漏れる。羽を広げたヒナ鳥が、だんだんと膨らんでいく。片手に乗るほど小さかったヒナ鳥のふわふわした産毛の下からしっかりした羽が伸び、広げた羽が日山の頭を越えるほど大きくなった。

「月山。大丈夫か?」

 急にふらついたあっくんを、神山が支える。ヒナ鳥の急成長が、あっくんの体にも影響したんだ。

「あっくん……」

 あっくんに出た影響への対処法を考える間もなく、突然、神山に支えられていたあっくんの足取りが、しっかりとしたものになる。

「あれ? なんか、また急に軽くなった」

 あっくんの体に黄色い光が降り注ぐ。光が降り注ぐほど、あっくんの体力が戻るみたいで、すぐにいつものはつらつとした顔になった。

 一体何が降ってきたのかと空を見上げると、頭上を旋回する鳥が見えた。黒い体に琥珀色に光る目。日山の頭に乗っているヒナ鳥によく似ている。その鳥は公園の奥から飛んできて、あっくん達の頭上を数回旋回すると、奥に戻っていく。それを数羽の鳥が繰り返しながら、あっくんと日山、それに日山の頭上の鳥に光を注ぐ。

 体力を回復させたのはあっくんだけじゃないようで、日山の頭上の鳥も、広げた羽をパタパタと動かし始めた。

 これ、テレビで見たことある。ヒナ鳥の飛ぶ練習だ。

 羽を大きく羽ばたかせ、体を前後に揺らして今にも飛び立ちそうなのに、飛び立たない。

「そんじゃ、行くか」

 完全に体力が戻ったあっくんが、軽く跳んで日山を抱え直すと、意気揚々と歩き出した。神山も心配そうにしながら、あっくんに付いて行く。

 足場が揺れたせいか、羽ばたくのをやめた元ヒナ鳥は、日山の頭上で大人しくなった。そんな元ヒナ鳥を励ますように、誘うように、数羽の鳥が光を降り注ぎながら、あっくん達の頭上を旋回する。

「とも、行かないのか?」

 鳥に気を取られて足を止めた俺を、あっくんと神山が振り返る。日山の頭の鳥も、ハチも神山の犬達も、俺を見る。そして、あっくん達の頭上を旋回していた鳥までも、俺の頭上に飛んで来た。まるで、早く来いと言うように。

「行くよ」

 俺が歩き出すと、待ってくれていたみんなも、一斉に歩き出した。

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