「本当にこっちか?」
周囲を見ながら歩いていた神山が、突然立ち止まった。
日山があっちと言った方に進んで突き当たったのは、堤防か何かのようだった。突き当たりを右に進んではみたけれど、なぜか誰ともすれ違わない。夕方の駅近く、こんなに人がいないはずがない。
「そうだな。誰かに道を尋ねられたら……」
あっくんも立ち止まって、日山を背負ったまま周囲を見回す。堤防の上を歩く人は時々見かけるけど、下の歩道を歩く人はやっぱりいない。
「どうする? このまま行くか? それとも戻る?」
「そうだな……」
あっくんと神山が話してる中、俺はヒナ鳥を睨み付ける。
俺達を迷わせているのか? こんなことしたって、ただの時間稼ぎにしかならないぞ。どうして欲しいのか、どこに行きたいのかはっきりと示せ!
伝えるべきことを伝えないヒナ鳥に感じる苛立ちを視線に乗せ、心の中で訴える。すると、意外なところから返事が来た。
『わん!』
姿を現したハチが、あっくんの足に前足をかけながら吠えた。声を出して聞けない俺の代わりに、ハチがヒナ鳥に声をかけてくれている。
『わん! わんわん!』
『ピョ……』
ハチに吠えられたヒナ鳥が、小さく返事をした。とても弱々しい声で。
『わん』
『ピヨ』
ヒナ鳥が、くちばしで歩道の先を指す。どうやら、方角は間違っていなかったようだ。
『わんわん』
『ピヨ……ピィ……』
それで終わりだった。
それでもハチは分かったようで、あっくんの足から離れると、はねるように走っていった。しばらく走った所で立ち止まり、振り返って俺を見る。そのまん丸の目は『なんで付いて来ないの?』と問いたげだ。
「ごめん。先に進みたいんだけど……」
「なぜだ? 向こうに駅はなさそうだが?」
「いや、えっと……ちょっと用事を思い出して……」
しどろもどろになる俺を見る神山の目が、いぶかしげなものから不信なものに変わる。さんざん歩かせて、引っ張り回した自覚がある。その上、帰るって話だったのに寄り道したいなんて言ったら、神山から凍えるほどの怒りを向けられても仕方がない。幸い、まだそんなに怒ってはいないようだけど。
「まあ、いいんじゃね。どっちみち、あっちに行くつもりだったんだし。何か気になるものでも見つけたか?」
「うん」
かばってくれるあっくんに答えながら、ハチを見る。ハチは、少し走ると振り返り、また少し走っては振り返るを繰り返している。早く行かないと、置いていかれそうだ。
「行きたい場所は、この先にある」
神山に視線を戻し、俺にしてははっきりと言った。神山は、仕方ないといった感じで「そうか」とだけ返事をして、歩き出す。
神山が向かってくれたことにほっとして、思わず「多分だけど……」とつぶやいてしまったのをあっくんに聞かれ「もっと自分に自信を持て」と怒られた。
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