「おい、日山」

 突然、日山の頭をがしりと掴む。

「日山、起きろ」

 神山は、掴んだ日山の頭を前後に揺らしたり、バシバシと叩いて、日山を起こそうとした。

「あの、神山……あんまり強くは……」

「大丈夫だ。いつもこのくらいだ」

 返事をしながら、日山の頭を叩く手を止めない。

 いつも叩いてんのか!? と少し驚いたけど、さほど強くないのは見て分かる。心配なのは日山じゃなく、日山の頭の上の小さなヒナ鳥だ。触ることのできないヒナ鳥は、神山に掴まれても叩かれても、今のところは大丈夫そうだけど。

「神山……いたい……」

 痛みに耐え兼ねたのか、日山の目がゆっくりと開いた。同時に、ヒナ鳥の目も少し開く。そして、ゆっくりと体を起こし、座った状態に戻ると、再び目を閉じた。どういう原理か分からないけど、神山に叩かれたことで少し回復したようだ。

「いい加減に起きろ。自分で歩け」

「うぇー……ねむいー……」

 日山は、あっくんの肩に目を擦り付けながら返事をする。そんな日山を、あっくんは「しゃーねーなー」と困ったように笑ったけど、神山は本気で怒ったようで

「月山に悪いと思わないのか? さっさと降りろ」

 鋭い視線をさらに鋭くし、日山の頭をがしりと掴んで、低い声ですごむ。神山は、本気で怒ると本当に怖い。秋田犬も神山の感情に影響されたのか、歯を見せて低くうなり出したところが、さらに怖い。

「神山! 痛い! 本気で痛いぞ!」

「神山、やめろ。暴力は良くない。ちゃんと話して納得させないと、日山も納得しないだろ?」

 あっくんの諭し方が、兄弟喧嘩をなだめるお兄ちゃんのそれだ。実際、いつもこんな風に姉妹喧嘩を止めているんだろうけど。

「俺を心配してくれてありがとな。でも俺は、大丈夫だから」

 あっくんがにかっと笑いかけると、神山はやっと納得したように手を引っ込めた。同時に、秋田犬もうなるのをやめた。

「日山。乗っててもいいけど、ちょっと迷子になって困っている。駅までの道を教えてくれ」

「うーん……」

 頭から手を離された途端、再び落ちそうになったまぶたと頭を持ち上げ、きょろきょろと辺りを確認する。

「あっち。あっちの道を右に下って行ったら、駅に着く」

 先の丁字路を指差してそれだけ言うと、こてんとあっくんの肩にもたれ、再び寝息を立て始めた。

「こいつは……」

「まあまあ。駅に着くまで寝かせといてやろう」

 あっくんに言われ、神山はそれ以上怒るのをやめた。その代わり、歩きながら時々「大丈夫か?」「代わるか?」と尋ねていた。神山の優しい気遣いに、あっくんは笑って「大丈夫だ」とだけ返す。そんな和やかな2人の後ろを付いて歩きながら、俺はじっとヒナ鳥を見て問いかける。このまま駅に着いてしまったら、俺達は帰るぞ。それでもいいのかと。

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