次第に大きくなってくる鳥居をよく観察しながら、頭に浮かんだ映像の鳥居を思い起こす。映像が頭に浮かんだのは一瞬だったし、遠かったせいか、同じようには思えなかった。あの映像で近くに見えたのは、青々とした葉の茂る木々。ここの神社で木が生えているのは、奥だけのようだ。ここが目的地じゃないのかをはっきりさせるためにも、やっぱり入ってみないといけないだろう。そう思うのに、なぜか足が重い。日山を背負って歩くあっくんと一緒に歩くのが、辛いほどに。

『ピー!』

 足の重さを不自然に感じていると、突然すぐ近くから鳥の鳴き声が聞こえた。視線を向ける。そこには、あっくんの横顔があった。

『ピー! ピー!』

 鳴き声は続くのに、あっくんはなんの反応も示さない。俺にしか聞こえない鳴き声。それは、初めて聞くヒナ鳥の声だった。

『ピー! ピー!』

 ヒナ鳥の姿は、あっくんの顔に隠れて見えないけれど、その声は、何かを訴えているようで、神社に近付くほど、大きく、必死になった。

 俺は視線を神社に戻し、神社の奥に目を凝らす。そこは、清浄で重厚な空気に包まれ、かすかに輝いて見える。そしてその光は、奥の社殿から放たれていた。

「あっくん!」

 ずんずんと進んで行くあっくんの袖を掴んで足を止めた。

「どうした? とも」

 あっくんが、不思議そうな顔で俺を見る。鳥居の脇に立つ神山が、足を止めた俺達を見て首をかしげた。

 俺は奥の社殿から目をそらせないまま、なんとか声を絞り出す。

「戻ろう」

「なんで? ここまで来て……」

「ごめん。でも、あそこには行けない……」

 不思議そうに俺を見ていたあっくんの顔が、少し険しくなった。俺はそんなあっくんより、神山が気になって仕方がない。

 なんで神山は、平気なんだろう。動物霊を連れているのに。なんでシェパードは、鳥居の周りをぐるぐる回れるんだ? あそこだって、神社の中だろう? なんで秋田犬もラブラドールも、警戒した様子もなく、平然としているんだ?

 ああ、そっか。だって神社は、聖域だ。清浄な気が満ちていて、悪いモノなんか1つもない。だから神山を守る犬達も、あんなに平然としていられるんだ。

 じゃあ、なんで俺は……

「俺は……あそこに行けない……」

 動物霊ですら平然としていられるあの場所が、俺は怖くて仕方がない。神社から放たれる清浄な気が、俺を押しつぶすかのように威圧する。

 ここに来るなと、言わんばかりに。

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