「日山。降りるのは、昨日と同じ駅でいいのか?」
「降りるのは2つ先だが、急行が止まらないから、乗り換えになる」
「急行止まらないのか」
「なんだ月山。勝手に付いて来て、文句言うのか?」
「いや。急行が止まらないんじゃ、そんなに大きな神社じゃないんだなと思ったんだ」
「山口。僕の地元の神社でいいんだな? あまり大きくないが、いいんだな?」
「あ……」
3人の視線が俺に集まる。
「うん……」
返事の後につぶやいた「多分ね」は、幸い誰にも聞かれなかった。
俺達は今、電車に揺られている。日山の地元の神社に行くために。
昼休み。強烈な眠気に襲われつつ、俺が見た風景のことを聞かなければと思って、放課後に話がしたいとだけ伝えた。それは覚えてる。だけど、それ以降のことはよく思い出せない。
午後の授業を受けた記憶はない。あっくんは、授業が終わってから俺が爆睡していたことに気付いたという。どうやら、昼休みからずっと寝ていたようだ。よく先生に起こされなかったと思う。
そして放課後。一応起きた俺は、日山の顔を見た途端「鳥居のある所に行かなきゃ。連れて行って」と日山の腕を引いて、学校を出ようとした。かばんと自転車を置いて。
ぼんやりして様子がおかしい俺を放っておけないからと、あっくんは部活を休んで追いかけてきてくれた。神山も付き合うと言って、俺の自転車を持って来てくれた。
電車の揺れに少しづつ覚醒した頭は、学校からここまでのことを少しづつ思い出し、恥ずかしさといたたまれなさで、逃げたくなった。みんなに迷惑かけて、ここまで付き合わせといて、逃げられるわけないけど……
問題は、今から行く場所が頭に浮かんだ場所じゃなかった場合と、そもそも、そこに行って何をどうしたらいいのか分からないことにある。もう少しあの風景を吟味して、相談して、準備して、それから行動したかった。
電車に揺られながら、何度も日山の頭に視線を向ける。何をして欲しい? 何をさせたいの? と心の中で訴える。だけどヒナ鳥は、頑なに目を閉じたまま、電車を降りても目を開けなかった。
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