急いで家に帰り部屋に飛び込むと、神山のお母さんに電話した。コール音はなく「電源が入っていないため……」の音声メッセージ。電話を切って、メッセージを送ってから、日山に電話する。眠ってしまって電話に気付かないんじゃないかと心配しながらコール音を聞いていると、意外なほどはっきりした声が聞こえてきた。
「日山、起きてるのか? 電車、乗り過ごしてないか?」
「大丈夫だ。もう降りた」
「そっか」
俺が離れたことで眠気はなくなったんだとほっとしていると
「さっきまで神山も一緒だったしな」
と言われ、俺は思わず、スマホを握ったまま土下座した。
神山ごめん! 本当ごめん! 反対方向なのに! 遠いのに!
忘れていた。神山が、面倒見がよくて生真面目なことを。どこで倒れるか分かんない状態の日山を、放って置くような奴じゃないってことを。
「日山……おまえ、ちゃんと神山に、礼言ったか?」
「当たり前だろう。毎日、ちゃんと礼を言ってるぞ」
電話の向こうで胸を反らす日山の姿が見えるようだ。
「毎日って、おまえ、毎日神山に面倒かけてるのか?」
「あう……えっと……最近、授業中も眠くなる時があってだなあ……ノート見せてもらったり、課題教えてもらったり……」
「おまえ、一回きちんと神山に礼をした方が……」
神山に甘え過ぎる日山に呆れて言った言葉が、そのまま自分に返って、胸を刺した。さっきは、日山を神山に押し付けた。日山の頭に謎の鳥が乗ってるのを知っていて、それを放置した結果が今の日山の状態だ。俺に、日山を非難する資格はない。
「俺の方が、きちんと礼をしないといけないな……」
「山口、どうした?」
「ごめん、なんでもない。それより……」
思わず漏らしたつぶやきを日山に聞かれ、慌てて話を変える。
「日山。眠気以外の不調やおかしなことはないか?」
今さらだけど、ヒナ鳥の影響を探ってみる。
「別にないぞ」
「よく考えて。寝ている時に変な夢見るとか、勝手に起きて歩いてるとか、物が勝手に動いているとか……」
「なんだそれは? 夢遊病か? そんなことはないぞ」
「そう」
今のところ、眠気以外の影響はないと考える。
「長々とごめん。とにかくゆっくり寝て」
「分かった。ありがとう。また明日な」
日山との電話を終えると、神山にメッセージを送った。日山を押し付けたことへの謝罪と、帰りの日山の様子を尋ねる。
返信はすぐに来た。『構わない』『いつも通りだった』の短い返事。
神山の返事は、いつも短く素っ気ない。慣れてなかったら怒ってると勘違いしそうだけど、平常運転でちょっと安心した。
スマホを持ったまま、倒れるようにベッドに寝る。神山のお母さんに送ったメッセージに、まだ既読が付かない。
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