「ずいぶん眠そうだな? 寝不足か?」

 自転車を押しながら、日山と並んで歩く。日山との間に自転車を置いて、極力日山を見ないようにして。それでも日山は、頻繁にあくびをしていた。

「寝不足ではない。昨日も9時に寝た」

 今時、小学生でももう少し起きてるぞと言いそうになる。

「いつもそんなに早く寝るの?」

 さりげなく探りを入れる。

「いいや、最近だ。最近やたらと眠いのだ」

「それ……いつから?」

 嫌な感じが胸に湧く。

「うーん。先週の日曜日は、まだ普通だったかな? 一昨日の日曜日は、昼寝を挟みながら課題して……」

 どくんと、大きく心臓が跳ねた。ヒナ鳥が最初に目を開けたのは、先週の月曜日。やっぱり、目を開けるまでは普通に過ごせてたんだ。

「山口? どうか……ふわーぁ……」

 思わず視線を向けた途端、日山が大きなあくびをもらした。慌てて顔を背けるけど、すでに遅かった。

「ねむい……」

 駅目前。日山は突然しゃがむと、街路樹にもたれかけ目を閉じた。

「ちょっと、日山! そんなとこで寝るな!」

「うん……あ、こんなとこに苔が生えてる。採取したい。でも、採取の道具持ってないし、学校に取りに戻るか……」

 閉じかけていた目をパッチリ開いて、街路樹の根元を凝視する。顧問の藤原先生の影響か、最近日山は、生物学に凝っている。

「日山。ちょっと待ってて」

「うん」

 とりあえず目が開いたうちに何か眠気対策をと、駅前のコンビニに駆け込む。目覚まし用のガムを1つ買って戻ると、日山は、街路樹の根元にルーペを当てて、熱心に見ていた。

 知ってたけど、変な奴。

「日山……」

「山口」

 他人のフリして帰りたい気持ちを押さえ、日山に声をかけようとしたら、俺が声をかけられた。こっちに向かって歩いてくる神山がいた。

「あれは、何をしてる?」

 日山の横を通り過ぎると、後ろ手に示しながら、俺に尋ねる。他人のフリをした神山の気持ちに共感しながらも、タイミングよく現れてくれた幸運を逃すわけにいかない。

「悪いけど、日山を駅まで連れて行って! これ、眠気覚ましのガム。これ噛んで、帰るまで絶対寝るなって、伝えておいて!」

 買ったばかりのガムを押し付け、早口でまくし立てる。

「おい、山口……」

「ごめん! 俺、急ぐから!」

 戸惑う神山を振り切るように自転車に飛び乗り、神山の脇を走り抜ける。角を曲がった所で自転車から飛び降り、物陰から様子を覗き見ると、神山は日山に声をかけ、駅まで引っ張って行ってくれた。神山の律儀さと、都合よく現れてくれたことに感謝しながら、ほっと安堵の息を吐く。ちゃんと歩いてるし、電車で眠りこけないよう、後で電話しよう。

 まずは、あのヒナ鳥がなんなのか、どうすればいいかを相談しないと。

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