夏休みを平穏に終え、新学期が始まってしばらく後の火曜日。日山はそれを頭に乗せて現れた。

 最初、何が乗っているのか分からなかった。頭頂部にぽこんと飛び出た黒い団子。髪飾りか? 誰かに乗せられたのか? そう思う俺に、日山はいつものように「部活行こう!」と近付いて、やっとそれが何か分かった。

 真っ黒なヒナ鳥。

 ふわふわした羽毛のヒナ鳥は、目と嘴を閉じて眠っているように見える。少し癖のある日山の髪が鳥の巣のようで、思わず「ぷっ」と、吹き出してしまった。

「なんだ? 何がおかしいのだ?」

 日山は、きょとんとした顔で問いかける。頭の鳥は誰かのいたずらだろう。

「日山。その頭……」

 黙っているのも可哀想だから教えてあげようと、口を開きかけたら

「おう、日山!」

「!!!」

 通りすがり、あっくんが日山の頭をぽんと叩いた。

「月山! 気安く頭を叩くな!」

「悪い悪い。叩きやすい所にあるから、つい。じゃあな」

「…………」

 あっくんは、ひらひら手を振って教室を出ていく。日山の頭の鳥については、何も言わない。日山は叩かれた頭を押さえているのに、ヒナ鳥に触っているのに、何も言わない。

「どうした? 山口」

「何でもない。部活行こうか……」

「うん!」

 どうやら、日山の頭のヒナ鳥も、俺にしか見えない種類のモノのようだ。

 そのヒナ鳥は、作り物のようにピクリとも動かない。嫌な感じもしない。ごんちゃんみたいな神々しさも感じない。

 ただそこにいるだけ。

 日山にも誰にも、何の影響もないように思えた。だから、何もしないで放って置いた。その内に、どこかに飛んで行ってしまうモノだと思っていたから。

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