「月山口ー!」

「繋げて呼ぶなって言ってんだろ」

 日山と神山が、並んでこっちに来る。

「おっす」

「月山は何を飲んでいるのだ?」

 俺の文句とあっくんの挨拶をスルーして、日山はあっくんが飲んでいるジュースに興味津々だ。

「いちご牛乳」

「何! 牛乳と言えば、バナナ牛乳だろ!?」

 親切に答えたあっくんに対して、日山は大げさに驚いて叫ぶ。失礼に失礼を重ねる日山にあっくんは気にしてないようだけど、神山はいつもの射抜くような目で日山を見ている。日山は、そんな神山の様子に全く気付かず、今度は俺に聞いてくる。

「山口は何にするのだ? まさか山口も、いちご牛乳なのか?」

「あー……そうだな……」

 なぜかここの自販機は、○○牛乳ばっかりだ。。コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、いちご牛乳、バナナ牛乳、みかん牛乳、抹茶牛乳。それと、普通の牛乳と豆乳。もうちょっと普通のジュースも入れて欲しい。正直、どれもあまり好きじゃない。

「神山は何すんの? 先に買っていいよ」

「神山は僕と同じバナナ牛乳だ! いつも世話になってる礼に、僕が奢ってあげるんだからな!」

 礼に奢ってやるなら、好きなの選ばせろよと思っていると、神山はじっと自販機を見ていた。

「牛乳ばかりだな……」

 神山も、牛乳ばかりのラインナップに不満があるようだ。

 突然、自販機からガタリと音がした。日山が小銭を入れただけで、ボタンは押していない。音が聞こえたのは日山と神山も同じらしく、取り出し口に目を向けている。

「何か出てきたか?」

 日山の問いかけに、神山が体を屈めて取り出し口を見た瞬間

「うわっ!」

 ガタッと大きな音をさせ、すごい速さで足下を何かが駆けて行った。

「何もない……」

 神山が取り出し口を覗いてぽつりと言った。俺だけが、休憩スペースと1組の教室の間の階段に目を奪われている。

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