体育館に戻ると、みんなで集まって菅原先輩のカメラを見ていた。その中に、日山と神山もいた。

「山口。戻ったか」

「長いトイレだな。う○こか?」

「違う!」

 俺が長く席をはずすと、すぐう○こだと考える小学生思考の日山の頭を軽く小突いて、神山に声をかける。

「何見てんの?」

「さっきの試合で撮った写真だ」

 神山の撮った写真を見せてくれた。画面が小さいのと遠くから撮っているかため、誰が誰だか分からない。あっくんだけ、Tシャツの色から分かるくらいだ。

「こっちも見て」

 菅原先輩が、一眼レフカメラの液晶画面を見せてくれた。そこには、今まさにスパイクを打とうとするあっくんの横からの姿が映っていた。あっくんだけじゃない。他の人のスパイクやレシーブ、ブロックなど、どれも試合の迫力が伝わる写真ばかりだ。

「今日一番の写真は、これらかな」

 そう言って見せてくれたのは、ある一連のプレー。奈良先輩のスライディングレシーブ、膝をついた三重先輩のトス、最後にあっくんのスパイク。それらが、何枚もの写真に写っていた。

「よく撮れてるでしょ? なかなかこんな迫力ある写真、撮れないのよね」

「はい」

 本当にそう思う。落とさない、負けたくないって気概が伝わる写真だ。

「文化祭の展示に使いたいって、月山くんにも聞いておいてくれない?」

「あ、はい。でも、もうすぐ戻ってきますよ」

「そう。でも、私達も戻らないといけないから」

 神山もこくりと頷く。次の試合は撮らないようだ。

 どこかに行っていた武内先生が戻って来ると、菅原先輩と神山は先生に丁寧に頭を下げて、体育館を出て行った。その後すぐ、騒々しい話し声と一緒にあっくん達も戻って来た。

「山口。次の試合も見るのか?」

 3年の先輩達は、いつの間にか帰っていた。神山達もいなくなった。見学者は、俺と日山だけになった。

「うん。もう少し見たい」

 戻って来た三重先輩は、少し疲れてるみたいだけど、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。

 どんなに目を凝らしても、黒いモヤはどこにも、誰の体にも見えない。もちろん、あっくんの体に黒い手形もない。

 俺が見る必要はなくなった。だからこそ、ゆっくり観たかった。あっくんが、奈良先輩が、三重先輩が、他のバレー部員が、必死に楽しそうにボールを追いかける姿を。

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