「今の月山のサーブ、何が失敗なのだ? ちゃんと入ってただろ?」

 日山は、基本的なルールは理解したようで、あれこれ聞いてくることは少なくなった。うるさく聞くのはバレーに興味があるからだと分かって、俺に分かることは、出来るだけちゃんと教えてやろうと思った。

「ここからじゃ、よく見えないけど……」

「月山ー! ライン踏んでんじゃねーよ!」

 三重先輩の怒声が響いた。サーブを打つ時に、ラインを踏んでしまったらしい。

「初心者かお前は! トス上げてやんねーぞ!」

「えー! そりゃないっすよ、三重せんぱーい!」

「はいはい。いい加減じゃれるのはやめなさい」

 細身の背の高い人が、手を叩きながら2人をたしなめる。

「じゃれてねぇ!」

 三重先輩、キャラ変わったな……

 あっくんは笑っているけど、中には戸惑ってる人もいる。

「ほら、来るぞ」

 細身の背の高い人の声に、みんなが真剣な表情で構える。さっきのミスで、相手からのサーブに代わった。

 相手の強烈なサーブは、右側の選手にまっすぐ飛んできた。彼の腕に当たったボールは、上に上がらず、弾かれるように横に飛んだ。済まなさそうに謝る彼に、三重先輩の怒声が飛ぶ。

「引くな! 前に出ろ! 怖がんじゃねえ!」

 怒鳴られた彼は、びくりと体を震わせた。

 休憩を挟んでから、三重先輩は周りに厳しく当たるようになった。あっくんは、笑って受け止めていたけど、初めて怒鳴られたらしい彼は、酷く戸惑っているようだ。

「どこに飛んでも構わねえ。上に上げろ。俺に繋げろ! そしたら、必ず良いトスを上げてやる!」

 三重先輩がまっすぐに彼を見つめ、真剣な声で言う。

「大丈夫。練習通りにやればいい。康本なら出来る」

「はい!」

 彼、康本くんが大きな声で返事をする。返事を聞いて、三重先輩も大きく頷いた。

「やっぱり、あっくんはすごいなぁ……」

「月山? すごいのは、三重先輩ではないのか? あの人が怒鳴ったら、チームのフインキが変わったぞ」

 それを言うなら雰囲気だろ? とツッコミたかったけど、面倒だから「そうだね」とだけ答えた。

 その三重先輩の気持ちを変えたのは、あっくんなんだよ。神山のお母さんの力を借りてまで助けようとしたのに、あっくんは話し合いだけで解決したんだから。

 再びサーブが打たれる。さっきと違い、康本くんは一歩前に出た。絶対取ってやるって気概が、目に見えるようだ。

「あっ! 今度は上がった!」

 康本くんの拾ったボールは、コートを外れながらも高く上がった。そこへ、三重先輩が走り込む。

「三重先輩!」

 あっくんも、三重先輩を呼びながら走る。

 この試合は、きっと勝つだろう。

 あっくんの強烈なスパイクが打たれるのを見ながら、俺はそう確信した。

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